(#1からの続き)
昨年8月の「第6回 WBSC U-15 ワールドカップ」で世界一に輝いた侍ジャパンU-15代表。
チームを率いた井端弘和監督は、堅い守りと打ち勝つ野球でU-15初優勝へと導いた。
#1では、大会を振り返りながら、自身が伝え続けた考え方などを語った。
#2(本編)ではバッティングついての話題に加え、3年間率いてきた育成年代の指導方針について伺った。
(写真 / 文:白石怜平)
「バントは自分で意識しないと上達が難しい技術」
次はバッティングについての話題に。井端監督はU-12を率いていた時から、”バントをしない”方針を明示してきた。
今大会でもイタリア戦でのタイブレーク時に試みた以外は、犠打の指示をすることはしなかった。
日本は本大会で合計77得点を挙げ、参加国ではドミニカ共和国(87得点)・プエルトリコ(82得点)に次ぐ3番目に高い数字をマークした。
大会首位打者を獲得した岡田良太(提供:NPBエンタープライズ)
監督に就任以降の3年間一貫して打ち勝つ野球を実践しているが、現役時代はNPB通算で248犠打を記録する名手だった指揮官。
この方針を掲げた根拠は、選手たちが育成年代であることに加えて犠打の難しさを熟知しているからこそであった。
「今のうちは個々の可能性を上げることが優先だと考えています。あとバントというのは、自分で意識しないと上達が難しい技術です。
ただやらされて練習しても上手くはならないですし、自分で『できるようにならないと試合に出れない』とか、『大事な場面で失敗したから今度は成功しないといけない』というように”大切だ”と思わない限り身につかないですから。
高校やその先のカテゴリに進めばバントは必要になりますし、できるようになっておけば可能性はさらに広がるので、そこは選手たちに大会が終わってから伝えました」
今は可能性を伸ばしつつ、将来犠打も必要になることを伝えた
では打ち勝つ野球に向けて、どのような特徴を持つ選手を選んだのか。セレクションで井端監督がチェックしていたポイントを明かしてくれた。
「私はスイングの際にタイミングを取れているかを見ます。フリー打撃で飛ばす選手はたくさんいるのですが、対戦するのは実際の投手ですから。ですので、投手相手にタイミングを取れているかをセレクションで見極めるようにしていますね」
バッティングについてさらに話を深掘りしていく。野球界全体を見ると、近年はプロや高校でも”投高打低”が叫ばれている。
昨年プロ野球でも3割打者が3名であったり、特に甲子園では”低反発バット”の導入によって本塁打が減少したことがクローズアップされていた。
育成年代でのバッティングの未来について、井端監督はどのように考えているか。自身の経験も交えながらこのように語ってくれた。
「私の高校時代も甲子園へ出た時にラッキーゾーンが撤廃されたり、消音バットが導入されて飛ばなくなった感覚がありました。それでも、私含めてみんなが工夫して適応してきました。
今年低反発バットの導入がありましたが、甲子園でもセンバツの時より夏はホームランが増えてますよね。
高校生たちも”木の方が飛ぶ”ということで木製バットを使ったりしているので、早い段階で打撃技術や力をつける点ではいいことだと考えています」
大会本塁打王に輝いた福井那留。高校でも活躍が期待される(提供:NPBエンタープライズ)
育成年代を3年率いて芽生えた想い
井端監督は22年〜23年から2年間U-12代表を率い、昨年からはU-15の指揮を執っている。
小学生・中学生という育成カテゴリを監督として見ていることから、今感じている想いを語った。
「U-12の監督を2年やって今回U-15へ行きましたが、最初(の監督時)に12歳だった子がもうすぐ15歳になるわけですよね。
U-12からU-15にそのまま代表入りするのは難しいですが、小学生から中学生と成長する中でどんな取り組みをして体が大きくなり、野球が上手くなってきたのか、その子たちの成長段階を見たい想いがあります」
15歳となり、U-12の代表選手たちと再び共闘するかもしれない(提供:NPBエンタープライズ)
これまで3年間、育成年代と共に世界の舞台と戦ってきた。
指導方針としては選手一人ひとりの可能性を尊重してきたことが挙げられ、そこは就任以降ブレることなく一貫している。
「U-12や15の年代ですと、バットを短く持つ・反対方向に打つ・進塁打を打つというのは早いと考えています。
みんなが可能性を持っていますし、小中学生であれば急に身長が10cm伸びることなどもあるので、自分のなりたい選手を思い描いて練習すればいいと思います。
今大きい子が早熟かもしれないですが、もしそうであっても必要に迫れば『どうやったら使ってもらえるか』を考えて方向転換すればいいですから」
選手の可能性を最大限に活かしている(写真は大会ベストナインに輝いた新井悠河) (提供:NPBエンタープライズ)
「子供たちの成長段階を見たい」と語った井端監督は、U-15のセレクションで実際に再会する機会があったという。U-12の代表として戦った選手は中学2年生となっていたが、その姿に喜びを感じた。
「野球はもちろん上手くいましたが、精神的にも成長していました。『当時あまり挨拶できなかった選手がこんなに大人になってるんだ』と。
その姿を見た時に、いい指導者に巡り会えているのだと感じましたし、野球の技術が上がってることよりも嬉しかったです」
勝利以上に選手の成長が嬉しいとも語っていた
インタビューは終盤へ。続いては国際大会を戦ってきて見える世界から見た育成年代における日本野球や、自身が感じる選手たちが持つ考え方などを共有してもらった。
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