※本記事は前後編の後編。前編を読む
プロ野球選手として盗塁王を4度、最多安打を1度獲得し、2009年ワールド・ベースボール・クラシックで世界一に輝いた片岡保幸は、今春発足したジャイアンツU15ジュニアユースの初代監督を務めている。
指導者としてグラウンドに立つのは巨人の二軍や三軍コーチを務めた2018〜2021年以来だが、当時のスタンスとはまるで異なるという。
「プロは本当に時間がないと思ったので、徹底的にたたき込ませようとしました。原理原則がわかっていないと、いくら練習してもなかなか上達しないので。『こうなったら、こうなる』『こうなるから、こうしよう』と細かく伝えようとしました。
そうすれば理解力のある選手はついてくるけど、プロでも理解力が低い選手もいる。みんな、ちゃんと聞くんですよ。その上でやってみて、じゃあどうするのか。自分でどんどんアップデートできる選手がプロで活躍していると思います」
片岡監督の現役時代は、指導者から「やれ」と命じられるのが当たり前だった。まずはやってみた上で、自分で工夫を凝らしたことが成長につながったと振り返る。
「言われたことをとりあえずやっていたら、できてくるじゃないですか。できたから終わりではなく、『でも、他の人はこういうことをやっているのか』とわかってくる。それに何かを加えるというか、『これだけは毎日やろう』と自分で何かプラスすることでルーティンができていく。そうして試合で結果が出るようになりました。
もちろん結果が出ないこともあるけど、その後にどうするか。練習して、失敗して、できていく回数が増えてくれば、その成功が自分の元になる。僕はそうやっていました」
坂本勇人、栗山巧の「探究心」
加えて原動力になったのが、周囲に「負けたくない」という姿勢だった。
「プロでは負けるとクビになるので、横にいるライバルをしっかり見ながら取り組んでいました。でも、いくら頑張っても“おかわり”(西武の中村剛也の愛称)には勝てない。じゃあ自分は何で頑張るのか。バント、盗塁。そうやって方向を変えていく。周りが見えてくると、プレーも変わってくるし。
坂本勇人(巨人)や栗山巧(西武)の飽くなき探究心も見て、自分でもやってみました。そういうマインドを子どもたちにもつくってあげたい」
チームを率いながら、選手たちをどう成長させていくか。片岡監督は、サイクルの回し方は自身の経験でわかっている。
ただし、当時から子どもたちのマインドは大きく変わった。指導者が「やれ」と命じるだけでは、令和の子どもたちにはなかなか通じにくい。
そこでジャイアンツU15ジュニアユースが大事にしているのは、前編でも紹介した「楽しむ」環境だ。片岡監督が続ける。
「中学生は楽しんでやらないと、そもそも来なくなります。本来は自覚を持って取り組まないといけないけど、中学生はプロとは違うし、やっぱり楽しい環境をつくる。
『気づいたら、もうこんなに時間が経っちゃった』と感じたら、『次も来てみたい』『次はこうやってみよう』となるはずだし。絶対にうまくなる環境は整っているので、そういう気持ちがどんどん出てくるようにしたい」
「いつか必ず勝つ」となるマインドづくり
ジャイアンツU15ジュニアユースの室内練習場には、ホワイトボードに全選手の「スイング速度」「打球速度」「飛距離」の変遷(4月→9月)と、「スイング速度と体重の関係」が張り出されている。
「スイング速度と体重の関係」は縦軸がスイング速度、横軸が体重で、散布図に各選手の現在地が落とし込まれている。体重とスイング速度には相関関係があると考えられるなか、チーム全体のなかで自分の立ち位置がわかるのだ。
その上で、青のマジックでこう書かれている。
「他の選手と比べるよりも、個人の成長を確認!」
片岡監督は、選手たちによく伝えている話がある。“縦軸と横軸”だ。
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