【侍ジャパンU-15代表・井端弘和監督インタビュー #3】育成年代における世界から見た日本野球と今後の可能性とは?

(#2からの続き)


侍ジャパンU-15代表 井端弘和監督の特別インタビュー。


U-15として初優勝を成し遂げた「第6回 WBSC U-15 ワールドカップ」での戦いや育成年代での指導方針を語ってきた。


前編(#1)・中編(#2)とお送りしてきた最終回では、世界から見た小中学生の日本野球や、選手たちが持つ意識の高さなどを伺った。



(写真 / 文:白石怜平)


侍ジャパンは「目標であり、通過点」


現在はカテゴリーごとに侍ジャパンが常設され、各世代で活躍を見せている。


U-15での優勝に加え、U-18では「​​第13回 BFA U18アジア選手権」で準優勝を果たすなど、国際大会で上位の成績を残してきた。


では、ジュニア世代から侍ジャパンでプレーすることにはどんな意義があるのか。育成年代のトップを見ている立場を踏まえ訊いた。


「子どもたちにとって一つの目標になっている部分であり、かつ通過点だと考えているのではないでしょうか。


U-12で選ばれた選手は『次も選ばれたい』と話していましたし、そこで選ばれなかった子も次のU-15世代で狙いたいと公言しています。


選ばれた子たちはみんなそこで満足はしてないですし、次を見据えてるんだなと感じています」


日の丸を背負う選手たちは次のステージに向けて意識を高めている(提供:NPBエンタープライズ)



世界を目指す選手が多いことを肌で感じている。早い段階から世界で戦う同世代を見るのはいい経験になるとも語る。


今のプロ野球選手の考え方そして、自身の当時を照らし合わせながらこう続けた。


「プロ野球でもメジャーを見据えている選手が増えている点を踏まえても、U-12・U-15で世界を経験することは大切になってきます。日本だけではなく、広い視野を持ってやってもらえればいいなと思いますね。


自分が12歳・15歳の時に”世界が”とは思ったことないですし、”ジャパンって?”という感じでした。


近くの地域で一番上手いからジャパンに入れるかといったらそうではないですが、今は動画で世代トップクラスのプレーを見れてレベル感が分かるので、物差しとして分かりやすいのだと思います」


選手たちの考え方の変化も実感している


世界から見た日本野球の良さと課題は?


次は世界から見た育成年代における日本野球について。3年間、国際大会を通じて海外の選手との対戦を重ねてきた。


これらの機会を通じ、今日本が世界で勝っているところや伸びしろがどこにあるかを問うてみた。


「海外の選手を見ると体のつくりやバネが違いますし、アジアでも日本より速い球を投げる選手がいます。ただ、その中での日本の良さはボールを捉える能力。これは世界トップクラスだと感じています」


大会から帰国した際の会見でも、「個々で見ると、打つ・守るにおいては世界でも十分に通用する選手は出てきてると感じてます」と評する一方で、走塁についてはまだ伸びしろがあるとも語っていた。


そのことについて改めて訊ねると、今後へのポイントを明かしてくれた。


「走塁は年々落ちてると感じています。技術もそうですがサインを見ない子がいたり、走塁もコーチャー任せになったりして自分で判断ができる子がジャパンでも少なかったです。なので、見えないところをコーチャーの指示で参考にしながら、自分の判断を大事にしてほしいです」


世界で戦う上で走塁が課題と指揮官は挙げた(提供:NPBエンタープライズ)



加えて、海外の選手で強いと感じたのが”気持ち”の部分だったという。大会を通じて相手選手の大会にかける想い・勝利への執念が伝わってきていた。


「海外選手の方が断然気持ちは強かったです。負けた時も相当落ち込んでいましたし、打席の中で”何とかしよう”というのが日本の選手より最初は強く伝わってました。ただ、それを目の当たりにしてから日本の選手も影響されて強くなっていったと思います」



「長所を大きく伸ばしてほしい」


日本野球の未来は今の育成年代によって築き上げられる。その方向を左右するのは、その子どもたちを教える指導者にかかっている。


情報の多様化や国際化など常にアップデートされている野球界において、今の指導者たちにどんなことを心がけてほしいかを語ってもらった。


「ジュニア世代では長所を大きく伸ばしていく方がまず先だと考えています。その途中で”そこじゃない”というのを本人が気づいたら、自分で変えていくことが大事だと思います」


短所は選手個人が気づいて取り組むことが必要となる(提供:NPBエンタープライズ)



ここで自身の経験談を交えながら、大切な考えを明かしてくれた。

芸術的な右打ちなど巧みな打撃で、プロ通算1912安打を積み重ねられたルーツも織り交ぜられていた。


「長所と短所の両方を追うのは難しいと思うんです。今持っている能力を伸ばすのが優先ですし、欠点を直すことで長所がなくなる恐れがあります。


特に短所は自分で気づいて意識することが必要だと思いますし、逆にこちらから指摘してしまうと萎縮してしまうかもしれません。


私も小学生の時はホームランバッターだったんですが、背が伸びなくて飛ばなくなった時期がありました。その時にどうするかを考えて、野手の間を抜こうとバットコントロールを磨くという方針転換ができましたから」


自身の経験も交えて語った



現在の野球では練習においてもデータ解析の導入が活発に行われ、より効率化が進んでいる。


アマチュア、プロと量をこなして技術を身につけた現役時代から、監督という立場になっている今、練習の量と質についてどんな考えを抱いているのかを続けて伺った。


「結果”練習したものが勝つ”というのは、今の時代も変わらないです。私も練習をこなせるだけの体力を身につけてて良かったですし、数をやってくうちに力が抜けてあれ?とコツを掴むチャンスもある。


ただ今は言語化できる指導者も多く、データや動画を見せれば選手も理解は早いと思うので、今は効率さも組み合わせながらやっていく方が成長スピードは上がっていくと感じています」


効率さも組み合わせることでより成長していくと考えている(提供:NPBエンタープライズ)



世代トップの子どもたちが持つマインドセット


そして最後の話題に。

世代を代表し国際大会を戦う小中学生がどのようなマインドセットを持っているのか。チームを率いて感じている選手たちの考え方について質問した。


ここでは今の子どもたちの姿勢をポジティブに評し、インタビューを締めた。


「今は上を目指している子が多いですし、ジャパンに入れなかった子でも志が高いです。『〇歳でここに入って野球をする』というビジョンを具体的に描いている選手が多いので、それはいい傾向です。


ただ、今は学力もなければその学校にも入れないですので、そこは大変な部分かもしれません。


野球も平日練習があると思いますし、両立をしていかなければいけない。両方高いレベルでやってるのは素晴らしいことだと思います」


世代トップの意識の高さを評価した



井端監督は先月の侍ジャパン強化委員会で承認され、U-15世代の監督続投が正式に決まった。


今夏に台湾で開催される「第12回 BFA U-15アジア選手権」の優勝も目指す。選手のポテンシャルを最大限に伸ばして、勝利とともに日本野球の底上げを図っている。



(おわり)

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