昨年8月16日〜25日にコロンビアで行われた「第6回 WBSC U-15 ワールドカップ」。
侍ジャパンU-15代表は初の世界一に輝く快挙を成し遂げた。その指揮を執ったのが、井端弘和監督。
U-12の監督を2年間務め、昨年からU-15の監督に就任するとその初陣で優勝へと導いた。
トップチームと兼任しながら育成年代も率いる指揮官に特別インタビューを実施。大会を通じた選手の成長や、この年代における指導の考え方などを全3回に分けてお送りする。
(写真 / 文:白石怜平)
何より嬉しかった「大会を通じて選手が成長したこと」
侍ジャパンU-15代表はこの大会、オープニングラウンドを5戦全勝し首位で通過する上々のスタートを切った。
スーパーラウンドでは初戦のチャイニーズ・タイペイ戦で最終回に逆転負けを喫したが、次の2試合を連勝し決勝へと進出。
決勝のプエルトリコ戦、7−6と僅差になった試合を制してU-15代表としては初優勝というタイトルを獲得した。
合宿の時から選手たちの前で”世界一になる”と目標を明確に示し、有言実行となる結果を残した。井端監督はまず10日間の熱戦を、
「優勝したこともとても嬉しかったのですが、何より大会中に選手が成長したことを感じられたのが良かった事だと思っています」と振り返った。
大会中に選手が成長できたことを実感できたと語る
それを特に感じたのは決勝戦の最終回でのことだった。
7−6と1点リードで迎えたが、1アウト一・二塁で逆転サヨナラ負けもあり得る展開。それでも相手に本塁を踏ませなかった。
「決勝の土壇場、ピンチのところで戸倉くん(光揮:狭山西武ボーイズ)が抑えてくれました。
実は台湾戦の最終回にサヨナラ負けした時も投げていたのですが、決勝という舞台で同じような場面で抑えてくれた。大会を通じて強くなったんだと感じましたし、そこが一番嬉しかったです」
決勝で4回1/3を投げ、”胴上げ投手”にもなった戸倉光揮(提供:NPBエンタープライズ)
大会を通じた成長へとつながったのが、井端監督の強い教えだった。
「1つこれだけは守ってほしい」と、10日間通じて説き続けたのが「ミスした後のプレーの大切さ」。
初戦のドミニカ共和国戦で12−9と勝利したが、ワイルドピッチなどのミスが続いていたことから、指揮官が選手たちを集めて「下を向くことだけはやめよう」と伝えていた。
「初戦が終わってから強く言いましたし、予選期間中や台湾に負けた時も言っていました。そこは言い続けないといけない部分だなと思っていましたから」
ミスした後のプレーの大切さを伝え続け、選手を鼓舞した(提供:NPBエンタープライズ)
井端監督の教えは選手たちに確かに浸透していた。
上述のチャイニーズ・タイペイ戦では、3点リードで迎えた最終回に”あと1人”というところからの逆転負けを喫するも、決して引きずることはなく次の試合から全勝。
また決勝戦では戸倉の他にも、小久保颯弥(愛知名港ボーイズ)・中嶋蒼空(佐倉リトルシニア)・川上慧(明石ボーイズ)はいずれも無安打だったものの、ピンチでファインプレーを見せるなど守備でチームの窮地を救った。
大会を通して好守を見せた川上慧(提供:NPBエンタープライズ)
大会中に伝え続けたのは、今後さらなる大舞台を経験していく可能性を考えてのことだった。チャイニーズ・タイペイ戦後には一人ひとりと会話し、
「甲子園への出場がかかった予選や甲子園での決勝などでまたああいった試合をやると一生後悔が残るのではないかと。ですので、その前に経験できたのは良かったですが、今後同じことが起きないようにやってほしいと話をしました」
と帰国時の会見でも語っていたが、改めて「言い続けないといけない部分」と考えた意図を述べた。
「彼らは中学生なので、先がある選手です。この時からグラウンドに立って怯んでしまうことにはなってほしくない。それを強く言いたかったんです。
最終的には気持ちだと思いますから。技術も大事なのですが、そこは練習などで上達できます。
試合でしか経験できない中で、自分に負けそうな時も自分と戦って前向きになれたのだと思います。選手みんなの今後を楽しみにしています」
選手一人ひとりが己に勝ち、チームで勝った(提供:NPBエンタープライズ)
本職のポジション以外で活躍できた要因とは?
また、大会の勝因で一つ挙げられるのが侍ジャパンの堅守。チーム防御率2.26、失策数は8と参加12カ国でいずれも最小の数字だった。
特に野手は本職以外のポジションをこの大舞台で務めあげていた。ここでの例も決勝戦にあった。
所属チームでは主に遊撃と投手を務めている小久保が中堅に入ると、2点差の6回2アウト2・3塁の場面で中前安打を本塁へ好返球。2塁走者を刺し同点を阻止した。
大会では外野や一塁を守った小久保颯弥(提供:NPBエンタープライズ)
起用や選手選考の過程で、どのような意図があったのかを訊いた。
「能力が高い選手というのは、例えばショートやピッチャーなどにポジションが偏る傾向があります。
だからこそショートの選手であれば、シートノックを通じて他の野手の動きを分かっていると思うので、どこでも行けるのではと考えました。
ファースト専門で代表という選手が少なかったのもあり、小久保くんにはセンター以外でも『ファースト行ける?』と聞くと『はい!』と言ってくれて無難にこなしてくれました」
日本野球の長所の一つである堅守もここで引き出した
井端監督が語った通り、今回は所属チームでは遊撃手を守る選手が多くいたのが特徴だった。さらに初めて守るポジションでもそれぞれ起用に応えてくれたと評価した。
「選手たちは『自分もできるんだ』と新しい発見になって、いい勉強になったと思います。初めての中でもこなせるセンスの良さを感じました。守備のミスも少なかったですし、打つ方も活発になったと感じましたね」
直前に語ったバッティングについてはU-12代表監督に就任以降、一貫して「バントをせず打ち勝つ野球」を掲げ実践してきた。その方針に込めた意図を改めて次で語っていく。
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