
※本記事は前後編の後編。前編を読む
侍ジャパンBaseball5ユース日本代表がアジア一の快挙を成し遂げた「2025第2回 ユースBaseball5 アジアカップ」。
オープニングラウンドを勝ち進み、この大会を通じて唯一敗れたチャイニーズ・タイペイとのリベンジマッチ。それは決勝という大一番で訪れた。
その舞台裏の続きと共に、アジアから見た日本やユース世代の持つ今後の可能性などを、本池太一監督(東京ヴェルディ・バンバータ)・六角彩子コーチ(5STARs)に引き続き話を聞いた。
(取材 / 文:白石怜平 、写真提供:BFJ)
”想定内”の最終セットで勝利しチャンピオンに
「決勝を迎える時に一番強くなっていたい」
その構想通り、綿密な戦略と築き上げたチームワークで決勝の舞台へと来た侍ジャパン。オープニングラウンドでストレート負けを喫したチャイニーズ・タイペイ相手に2セットを終えて1勝1敗のタイに持ち込んでいた。
「”3セット戦って勝つ”というのをチーム全員で話をして徹底していました。全てストーリー通りに来ているので、選手たちからも『こっちのペースだよね』という声も出ていました」
前編で本池監督が述べていた「ボディーブローを打つ」こと。それは着実に相手に効いていた。
「3セットも入る時点で、”よし、想定内だ”と。やはり相手は同じメンバーでしたし、しっかりボディーブローを打った状態で消耗している中で、我々はメンバーを変えてフレッシュな形で最終セットに入ることができました」
初回表に森本愛華(日大二高・中京大中京5)が先制の2点タイムリーを放ち幸先よくスタートすると、2回に星優大(横浜隼人Aggressive)も2点タイムリーを放ち2回を終えて4点をリード。
大会MVPを獲得した森本愛華は勝負の第3セットで先制打を放った
その後追いつかれるも最終回に決勝の1点を全員でもぎ取り、その裏を守り切った侍ジャパンがアジア一の座に輝いた。勝利の瞬間、溢れる感情を全て出すかのように歓喜の輪ができた。
「嬉し涙であれだけ泣く人たちを初めて見ました(笑)。それだけ、(オープニングラウンドでの敗戦が)悔しかったんだと思います。一度負けたチームにしかも決勝の舞台でリベンジを果たしたわけですから。私もその姿を見て嬉しかったです」
悔しさをバネに頂点へと登った瞬間だった
守備はアジアトップレベル、パワーに伸びしろも
オープン(15歳以上)に加え、ユース(15歳〜18歳)でも世界で実績を残した日本。ユース世代における、アジアのBaseball5について感じたことを本池監督に訊いた。
「どの国も打撃は打球の速さと狙う技術の両方で上手いと感じました。ただ、守備については野球に馴染みが薄い国と、野球人口が多い国で差があるのかなという印象です。
やはりダイヤモンドスポーツである以上、野球やソフトボールの経験は大切で、Baseball5にも活きてくるということだと思います」
そして、その中で戦った日本のBaseball5をどのように感じたのか。
選出時に監督は「男性はフィジカルが強くて走力に長けてる選手、女性は守備力のある選手が代表に入っています」を挙げており、それを踏まえてこのように答えた。
「パワーについては、特に男性選手は台湾チームの方が上だった印象があります。今後レベルが上がってオープンの部に入る可能性を加味しても、世界で戦うにはパワーは必須になってきます。
一方で、日本の守備は男女共に高いレベルにあったと思います。特に女性選手で言うと、六角コーチは世界的に見てもNo.1の選手なので、彼女の持つポジショニングや動きといったノウハウを注入できたと思います」
六角コーチには女子選手の視点で、今後の伸びしろなどを明かしてくれた。
「とても素直で吸収力が高く、短い練習期間の中でとてもレベルアップしました。今後に向けては、限られた試合経験からくる“判断力”や“状況適応力”のかと思います。
さらに多くの試合経験を積むことで、ゆくゆくはオープンのカテゴリーの中でも日本でトップレベルの選手になれると期待しています」
使命と語り継承した日本のBaseball5
就任以降、本池監督が自身に課してきた使命があった。それはこの数年かけてオープンの選手が培ってきたものをユース世代へと継承することである。
「自分なりに考えて”継承”という言葉を使ってきました。日本らしさ・日本のBaseball5とは何かを彼らに一つ一つ伝えながら、腹落ちするまでやってもらうことを考えていましたね」
その”本池イズム”は早くも浸透した。星は、出国前会見の時点で「自分は『日本の振る舞いは世界一』であることをアピールしたいです」と、日本らしさである礼儀礼節について語っていた。
コート内外で侍戦士として振る舞い続けた星優大
コートの上においては、オープンの選手たちが世界に見せてきた打球の跳ね返る方向まで計算し尽くした守りと、それを攻撃に活かした緻密さが特徴。
オープンの選手たちがキューバ選手の放つ強い打球に合わせた対策を行ったように、ユースにおいても同様の練習を重ねた。加えて、打撃面でも取り組んできたことを明かしてくれた。
「真ん中に強く打つことはできても、三塁線・一塁線側に打つには技術がいるので、そこも強化練習で反復しました。特に走者がいる場面では野球と同じく、走者が一塁にいたら右方向という要求が発生します。そこは練習通りできたと思います」
監督が広角に打球を打てる選手の一人に挙げた渡辺隼人(横浜隼人Brave Heart)
短期間で最高のパフォーマンスを発揮したのは選手だけではなかった。本池監督、そして六角コーチも選手そして指導経験を惜しみなく活かした。
というのも、まず本池監督はBaeball5と同名の「東京ヴェルディ・バンバータ」という軟式野球チームで監督兼選手を務めている。そこでの経験が大きいと語る。
「軟式クラブチームとなると上位の強豪企業チームがいるので、そこを相手にどう戦うか。
Baseball5に置き換えるとジャンク5や5STARsにどうやって勝つか、そしてキューバと対戦した時などに日本に対して相手がやってきた経験が役に立っていて、そういったことを今度はこちらが仕掛けていきました」
自らの監督経験が随所で活かされた
また、六角コーチは日本で唯一「WBSC公認インストラクター」の資格を持っており、世界中で選手の指導を行っている。所属する「5STARs」ではオープン・ユースに加えて小中学生の子どもたちとも向き合っている。
そんな経験から、「普段からさまざまなレベルの選手と接している経験が、選手一人ひとりの個性や理解度に応じた声かけや指導に活きたのではないかなと思います」と指導者としての期間を振り返った。
国籍や年代問わず幅広い指導経験も持つ六角コーチ
本池監督はこの4日間で得たかけがえのない体験を語ってくれた。
「人が殻を破る瞬間を見ることができました。公式戦の一勝・一敗から得られるものってとてつもなく大きいものだと感じました。特に“悔しい”という気持ち。
実は台湾に負けた日、夜中に暗い中みんなで練習したんです。選手が『練習したいです』と自分たちから言ってきた。この姿勢を見たときに強い良いチームになったと感じました」
この快挙は日本のBaseball5にとって「千載一遇のチャンス」
高校生ながら日の丸を背負い、世界の舞台で戦った侍戦士たち。歴史に名を刻んだ8人の選手たちは、まだ10代と今後の可能性を大きく秘めている。そんな可能性をさらに広げるため、本池監督はこんな言葉を贈っている。
「みんなが成長する過程に携わることができて、私たち自身がすごく勉強してもらえましたし、得たものも大きいです。また、みんなもこれまでで一番の成功体験になったと思います。
苦難に逃げずに立ち向かい、諦めずにやれば良い結果に結びつく経験はスポーツ以外でも必要なことなので、体験したことを活かしてほしいです」
そして、この快挙が日本のBaseball5拡大にどんな意義をもたらすのか。まず六角コーチが以下のように述べた。
「ユース世代がアジアの舞台で結果を残したことは、『子どもたちにも世界が近い』というメッセージになったのではと考えています。
Baseball5は誰でも始められるスポーツですが、今回の快挙は“遊び”が“競技”へ変わる瞬間の象徴でもあったのかなと。
競技としての認知度や注目度が上がることで、地域や学校での導入が加速し、さらなる広がりを期待しています」
本池監督は「千載一遇のチャンスだと思います」と力強く語り、最後に勝負における競技の未来について語った。
「こんなにチャンスな事は無いです。ユース選手もさることながら、我々オープンのメンバーや運営する組織にとっても大きく影響します。
世界で勝ち続けるために、次のワールドカップやユースオリンピックで勝ち飢えてる選手たちが自ら手を挙げるような競技に私もしていきたいです」
今年中に行われるワールドカップが次なる舞台となる
次なるユースの国際大会は夏以降にメキシコで開催予定の「WBSC ユース baseball5 ワールドカップ」。さらに翌年10月にセネガルで開催される「DAKAR 2026 YOUTH OLYMPIC GAMES」の出場権も獲得している。
ワールドカップそしてこの大会から初採用されるユースオリンピックと続き、歴史が次々と刻まれていく。
(おわり)
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