
打席に入る直前、バッターが捕手や球審にグータッチを求める──。
メジャーリーグでは当たり前の光景だが、日本で目にする機会はなかなかない。ましてや学生野球では想像さえできないシーンだ。
「日本ではやらないことなので、グータッチを求められた最初は戸惑いました。向こうのチームは日本と違い、試合前も整列をしませんし。チームというより個々で動く点が違うのかなと感じました」
率直な感想を話したのは、芝リトルシニアの捕手・横山蒼十だ。
芝中学を母体とする同チームは7月25日、またとない機会に恵まれた。
アメリカのロサンゼルスから来日した、サウスパサデナ・プライドという中学2・3年生中心のチームと親善試合で対戦したのだ。
来日の目的をGMのジョー・マシューズが説明する。
「友情に関するアイディアなんだ。我々のチームには2人の日本人が在籍していた。今、チームには高校進学を控えている選手もいて、今回がみんなで過ごす最後の時間になる。だから2人を含め、一緒に過ごしたいと思った」
ロサンゼルスに本拠を構えるサウスパサデナ・プライドにはスパニッシュ系やアジア系の選手も在籍し、カリフォルニアらしく国際色豊かなチームだ。
選手たちは夏休みを利用して親とともに来日し、日本各地で旅行を楽しみつつ、かつてのチームメイトが暮らす東京と沖縄で一緒にプレーしようと計画した。
貴重な「国際交流」の機会
そうして7月25日、東京都市大学付属中学・高校のグラウンドで親善試合が実現。
政治記者でもあるマシューズGMが早稲田大学野球部の日野愛郎部長に相談し、硬式野球をプレーできるグラウンドを有し、英語に堪能な選手のいる東京都市大学付属ボーイズと芝リトルシニアが対戦相手に選ばれた。
親善試合を快諾した理由について、東京都市大学付属ボーイズの山﨑雄二監督が語る。
「うちの学校は250人くらいの規模で、約50人が帰国生です。野球部にも帰国生がいるけれど、学校で国際交流の機会はなかなかありません。そこでこういう機会をいただき、ぜひとなりました」
一方、芝リトルシニアの大澤雅仁監督はこう話した。
「うちは中高一貫校で、高校生になると『短期留学に行きます』という子がちらほらいます。だから中学2、3年生も絶対に興味を持つだろうと思い、参加させていただきました」
日米の野球の相違点
3チームともに、外国勢と対戦するのは初めての機会だ。普段と異なる相手とプレーし、改めて気づいたことがたくさんあるという。
まずは、サウスパサデナ・プライドのコーチを務めるマックス・ハダッドゥが語る。
「よく指導されたチームと好ゲームを繰り広げることができてよかったよ。日本の選手たちはみんなフレンドリーで、基礎もしっかりしている。我々は海を渡って日本にやって来て、そうしたチームと同レベルの試合をでき、自信を高めることができたと思う」
対して、芝リトルシニアの横山捕手はこう話した。
「向こうは身長が大きくてパワーもあり、打球が強いので、キレのある変化球を投げないと抑えられません。そこは日本のチームと違うなと感じました。自分たちは走塁で点を取っていく野球で、その点はアメリカにも通用したと思います」
日米では、試合に臨む姿勢もだいぶ違う。サウスパサデナ・プライドの選手たちを通じ、そう感じたというのが芝リトルシニアの大澤監督だ。
「うちの中学3年生は力を備えているものの、勝ち気が外に出てこず、試合終盤に逆転されることが結構ありました。カリフォルニアの子たちは敵・味方、審判も関係なくグータッチをして、純粋に野球を楽しんでいました。ああいう姿勢を見習ってほしいですね。
うちの中3の選手たちは8月から高校の練習に合流しますが、今回の親善試合をいい機会にして、高校野球につなげてほしいです」
野球がきっかけで広がる世界
アメリカから本帰国後、1年半ぶりにサウスパサデナ・プライドの仲間たちと再会した寺田隼利は日本で陸上部に所属しており、久々に野球を楽しんだ様子だった。
「野球で交流して仲良くなれて、うれしいこともたくさんありました。左中間にヒットも打てたし、よい1日になりました」
午前中の試合が終わった後、3チームはピザやポテト、唐揚げ、おにぎりを食べながら、交流会を開催。最初は「英語を話せるかな…?」と心配そうに語っていた日本の選手たちも、積極的に話しかけて親交を深めていた。
野球という共通の趣味をきっかけに、学校で学んでいる英語を使って自分の気持ちを表現できるようになれば、国境を超えて友だちができ、自分の世界も大きく広がっていく。
そうした可能性を肌で知る意味でも、夏休みに実現した日米中学野球の親善試合は貴重な機会となったはずだ。
(文・撮影/中島大輔)
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