【BCC/野球指導者講習会レポート】草野大輔氏による守備講座。「捕る楽しさ」が原点に 〜実技③守備編〜

全日本野球協会(BFJ)主催で行われた2024年度の野球指導者講習会(BCC)。


本講習会で最も人気とも言える実技講習では例年通り、投手・捕手・守備・打撃の4項目が開催された。


NPBでの実績豊富な講師が担当する豪華なカリキュラム、今年度の守備編は草野大輔氏(元楽天)が担当した。


(文:白石怜平)


ハンドリングで“捕る楽しさ”を覚える


草野氏は社会人野球を経て05年の大学生・社会人ドラフト8巡目で楽天に入団した。当時29歳でのプロ入りであった。


入団後はシュアなバッティングと内外野守れるユーティリティさで頭角を現し、2年目の07年には規定打席未満ながら110安打、打率.320をマーク。


09年にはキャリアハイとなる141安打、打率.305の成績で、球団初となるクライマックスシリーズ進出の原動力となった。


12年に引退後は、楽天や当時BCリーグ(現オイシックス)の新潟アルビレックスBCでコーチも歴任。現在は野球解説者の傍ら野球塾を開校し、後進の指導にあたっている。


仙台で200人以上の子どもたちを教えているという草野氏。その経験から、参加者の中心層である小中学生の指導者とは「同じ立場・目線に立ってお伝えしたい」と語り、講義はスタートした。


最初のトピックとして、草野氏が教える上で最初に行っていることから解説した。


「それはハンドリングです。ボールを捕る“形”ではなくて、グラブの使い方や反応を徹底的にやってもらっています」


初めに行う練習が“ハンドリング”



ショートバウンドを近距離で投げて捕る。その捕球ができるまではノックを打たないという。その意図を明かした。


「ボールを捕っていかにアウトにするかを大事にしないといけないのですが、形が先に来てしてしまうと“捕る”ことに意識が向かなくなってしまう。だからまずはボールを捕らせてあげる。それができるようになって初めて足の使い方を教えていきます」


ここから実際に草野氏が教えているハンドリングを見せた。


「僕が教えているのは、グラブで丸を描かせます。ショートバウンドが来たところにグラブの面を見せて下から丸を描いていく」


“丸を描いて”ショートバウンドを捕球する



子どもたちの傾向として、草野氏はグラブを前に出しに行って”捕りに行ってしまう”か、グラブをはめた側の肩が上がって後ろで捕ってしまう2パターンを挙げた。


これらを防ぐためのグラブの使い方を習得する練習である、と改めて説いた。


「子どもたちは要領さえ覚えれば誰でもすぐに捕れるようになります。“楽しい”と思ってもらうところから入るんです」


逆シングルでも同じ要領であった



一歩目を素早く踏み出すステップの練習


ボールへの入り方や足の位置などの指導は、先ほど出た“形”から入るケースがあるが、草野氏は警鐘を鳴らした。


「子どもたちを見ていると捕り方とかグラブの位置といった形を気にしているので、『どうしたの?』と聞くと、『監督やコーチからこう入れと教わった』と答える。

それで全ての打球が捕れるわけではない。それならまず打球のところに行きなと。そういった話をハンドリングの後にします」


捕球ができるようになった後にステップへと入る。ただ、子どもたちにはいきなりステップと言うと形から入ってしまうため、ここで伝えていることを以下で実演した。


「まずジャンプして片足ずつ踏み出します。その動きを徐々に速くしていくことで素早くスタートできます。バットとボールが当たった瞬間には一歩目が切れるイメージです」



草野氏がハンドリングからステップに至るまで説き続けていたのが「順番を踏む」ことだった。


「指導者の方はチーム全体を見ているので難しいかもしれません。でも一人ひとりを見ると、勘のいい子はすぐできますが、そうではない子もいます。そういった子に向けて順番を踏んでやってみると効果的かと思います。

ここまでの練習を徹底的に行うと、ノックでも捕れるようになっていきます」


守備につながる「キャッチボール」


本講義においても質疑応答に多くの時間を活用し、インタラクティブに展開された。


この場で数々挙がった中で、特に中身の濃い説明を行ったのが「キャッチボール」についてだった。


草野氏は「キャッチボールの取り組み方がチーム力向上に関わってくる」と語り、野球教室での指導でも「ここのチームはキャッチボールが上手いな」と感じるという。


「キャッチボールが上手いチームは、共通して足を使っています。自分からボールに入っていけるように指導されているところは上手い印象を受けます」


ただ、講義時に説明したようにこれは“形”であり、ここでも段階があると補足する。


「小学3年生ごろまでは、まず捕ることを覚えてもらわないといけないので、ボールを見てグラブで捕る動きをさせています。それが捕れるようになって初めて『足を使って正面に入ってみて』などと教えるようにしています。

最初はボールが怖いと感じることもあるかと思うので、ボールへの恐怖心を出させないように心がけています」


ここから形にも言及する。草野氏が教わり、実践してきたものとは異なる形が出てきていることも踏まえ、以下のように解説した。


「僕らは(両手で)ハの字ですけれども、最近はグローブを立てているのを見ます。これでは脇が締まるので可動域が限られてしまいます。

外野フライでもグローブを立てないで、横ですよね。子どもたちのキャッチボールを見た時にはグローブの使い方をチェックします」


内外野ともに捕球時はグローブを横に向けて構える



そしてもうひとつ、守備と連動させるものとして遠投を挙げた。


草野氏は、キャッチボールの際に遠投に時間を割くことが少なくなった印象を抱いている。


「遠投は体全身を使って遠くにコントロールよく投げる練習なのですごく効果的なので、取り入れていただければスローイングも良くなっていくと感じています」


遠投のメリットを最後に伝えた



外野手で真っ直ぐ落下点へと走るには?


質問の中には、外野手についての内容も。


「低学年の子がより正しく打球を追えるための練習方法はありますか」という問いについて草野氏は、「プロでも難しい課題です」と答えた。


それを踏まえ、自身が指導で伝えている考え方や練習について具体的に回答した。


「背走しながら真っ直ぐ(ボールの)ラインに向かって走れるようにすること。自分が狙って走っている場所と違う方向に行ってしまうことはよくあります。

ですので最初の入りとしてはラインを引いて、線上に置いた目標物に向けて走ってみて偏りが出たら修正していくというのを行っています」


線に沿ってと目標点へと背走する練習を行っている



背走で右中間方向に真っ直ぐ走れるが左中間方向では逸れてしまう子もいれば、その逆の子もいるなど、感覚は人それぞれ。


そのため、相手の持つ感覚を見極めた上での修正を加えることで、進みたい方向に真っ直ぐ走れるようになると草野氏は説いた。


「打球の落下地点に行くというのは感覚なので、感性も入ってきます。ここは数を重ねて訓練するしかないです。ただ、打球を見ながら落下点へ入る練習は今挙げたものになります。

もしくは途中で目を切ってまた走ることをやってみて、それで真っ直ぐ走れるかどうかも見てみるといいです」


この後も、「送球の考え方について、シチュエーションに応じた選択基準は?」、「子どもたちが正しくグラブのポケットで捕球するための指導方法を教えてください」などと、より専門性のある質問が名手に寄せられた。


それらを一つひとつ丁寧に答え、低学年の子どもたちに向けてどのように指導すればいいかの引き出しが増える濃密な1時間となった。



(おわり)

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