「データと現場」をつなぐ人材の育成を目的とし、全日本野球協会（BFJ）と日本野球連盟（JABA）の主催で2月22・23日に開催された第4回「野球データ分析競技会」。6チームが決勝に進出したなか、大学野球部に所属する二人が意欲的な発表を行った。
東京農工大学の石川大翔さんは物理学を専攻し、電子顕微鏡に関する研究を行っている。小学校から高校まで軟式野球をプレーしてきたなか、東京新大学連盟の4部に所属する東京農工大に進学後、約10人しか部員がいない野球部に誘われ、硬式でプレーするようになった。
野球部で週2回活動する一方、今回の野球データ分析競技会に参加した理由を説明する。
「大学ではプログラミングをあまり勉強していませんが、社会に出たら必ず必要になると思っています。独学で勉強しようと思ったとき、野球とプログラミングがマッチした本を書店で見つけ、どうせやるなら好きな野球に関わる分野で行こうと決めました」
東京農工大学 石川大翔さん
打たれにくいスライダーの特徴
石川さんが今回選んだテーマは「打たれにくいスライダーの秘訣〜ストレートを基準にした考察〜」。
スライダーは多くの投手が持ち球としていることから、ストレートと対比しながら有効なスライダーを探り、競技力向上につなげようと考えた。
石川さんの分析ではストレートを基準とし、スライダーの「変化量」と「変化方向」をパイソンとエクセルで分析。その結果として示したのが、以下の結果と考察だった。
「投球の軸はストレート」とよく言われるように、石川さんはストレートを軸とすることで、打たれにくいスライダーの特徴として以下の2点を導き出した。
（1）大きな変化角度を持つこと
（2）小さな変化角度＆大きな変化量
「スライダー」と一言で言っても、さまざまな軌道がある。今井達也（西武）のようにジャイロ回転をうまくかけたスライダーを武器とする投手がいれば、大谷翔平（ドジャース）のようにスイーパーと言われる大きな横変化で打ち取る投手もいる。両者とも、質の高いストレートと合わせて使っていることが特徴だ。
石川さんは今回の研究を踏まえ、改めて感じたことがある。
「今までは感覚的にプレーしていることが多く、数値を見ることがすごく少なかったです。自分自身で実際に分析してみて、まだまだわかってないことや、今まで常識とされてきたものと違うことがすごくたくさんあるのではと思いました。今後、この分野に関してもっと勉強したり、研究を進められたりできればと感じました」
2025年4月に大学4年生になる石川さんは大学院に進んで物理学を研究しようと考えていたが、野球のデータ分析に進むことも視野に入れるほど、今大会を通じて収穫があったという。
カーブを有効に使うには？
対して、祇園北高校に在籍した昨年優秀賞に輝き、2024年春から高知工科大学に進んで今大会にも出場したのが辻雄大さんだ。
高校時代に探究の授業や野球データ分析競技会などで興味を深め、高知工科大学のデータ＆イノベーション学群に1期生として入学。野球部の門をたたき、初代アナリストを務めている。
今大会では「新フェーズ〜カーブ〜」というテーマで分析。カーブに焦点を当てるきっかけは昨年のワールドシリーズで、ドジャースの山本由伸が決め球にカーブを選択することが多いと印象を受けたことだ。実際、2024年4月6日のカブス戦で初勝利を挙げた際は、3球に1球がカーブだったという。
辻さんが事前にカーブの印象についてアンケートをとると、最も多い答えは「甘く入ると打たれる」だった。実際はどうなのだろうか。
まず、2024年のMLBのデータが示された。
見逃しや空振りでストライクがとれる確率は30％と低く、ヒットを打たれたうち38%が長打とリスクの高い球種だとわかった。
次に、東京六大学のデータだ。
MLBと比べると見逃しが多い一方、長打にされるリスクの高さは同じだった。
一言で「カーブ」と言ってもドロップ、パワーカーブ、ナックルカーブ、スラーブなど多くの種類がある。ではMLBと東京六大学を比べると、どんな相違があるだろうか。
共通点は以下のとおりだ。
・見逃し、空振りでストライク確率が約30%
・ヒットのうち3〜4割が長打になる
対して、違いは以下だ。
・縦、横の変化量が異なる
・東京六大学は見逃しストライクが多い
東京六大学ではカーブの見逃しストライクが多い理由について、辻さんは「カーブの変化量が少ないのではなく、1度上方向に変化する」こととした。そのため「目線を外し、タイミングを外すことができ、見逃しストライクがとれる」と続けている。
現在のMLBではパワーカーブやナックルカーブが主流の一方、日本ではドロップのように浮き上がってから落下するカーブが多い。そうして打者の目線を外してカウントを稼げる一方、タイミングを合わせられると長打にされるリスクがある。そこで辻さんは「カーブを使う状況が非常に大切である」と指摘した。
アナリストが現場でぶつかる課題
実際、東京六大学では初球にカーブを投じられていることが多い。
初球に投じたカーブはストライクをとれているが、ヒットにされた場合は長打率が高くなる。そこで辻さんは「初球にのみカーブを使う」ことを提言した。
アナリストにとって大事なのは、こうした研究を現場でどう活かしていくのかだ。大学1年生の辻さんは野球部でアナリストとして活動し、難しさも感じていると言う。
「相手投手や自分の傾向がわかっても、提示するデータが細かすぎたりすると、『やっぱりフィーリングでやる』という選手もいます。
一方、『こういうデータが欲しい』と要望してくる選手や、データを知って自分を高めたいという選手もいます。アナリストが分析するだけではなく、選手はどういうことを見たいのかを考えることが大切だと感じています。
野球部には自分しかアナリストがいないので、上級生にもしっかり伝えられるように、コミュニケーションをとっていくことも重要です」
野球データ分析競技会が目的として掲げるように、アナリストに求められるのは「データと現場をつなぐ」ことだ。今回紹介した二人の大学生は、その重要性を再認識した様子だった。
（文／撮影：中島大輔）
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