【スポーツマンシップを考える】野球愛あふれる高校生たちの交流


LIGA Summer Camp 2025 in 北海道

 

沖縄尚学高校の優勝で幕を閉じた第107回全国高等学校野球選手権大会。この大会には全国3,396チームが参加したが、甲子園に駒を進めることができたのは、例年同様わずか49校であった。


甲子園をめざしながらその夢を叶えることなく敗れ去ったのは、地方大会決勝で敗れた49校を含め、実に3,347チームにのぼる。出場校の半分に相当する1,700弱のチームが初戦敗退し、本格的な夏を迎えることなく戦いを終えたというのが事実である。

さらに、初戦を突破したチームの約半分も、わずか2試合だけで大会を終了することになる。これこそが一発勝負のトーナメント大会の構造である。

 

このように「夏の甲子園」をめざした高校生、とくに最後の大会を終えた高校3年生たちに最高の野球人生のファイナルチャンスを提供するのが、2024年からスタートした「LIGA Summer Camp」である。

夏の大会を終えた全国の高校3年生が、甲子園大会とほぼ同時期に、本州より涼しい北の大地・北海道に個人参加で集結する。単なる引退試合ではなく、新たに出逢った仲間とともにチームを結成し、リーグ戦形式で競い合う10日間のプログラムである。

 

元プロ野球選手など、経験豊富なコーチが参加し、彼らを指導・サポートする。今年は、元中日ドラゴンズのエースで、野球日本代表「侍ジャパン」の投手コーチを務める吉見一起氏も参加した。

 

また最終日の「Final Day」には、北海道日本ハムファイターズの本拠地であるエスコンフィールドHOKKAIDOで決勝戦(Final)を行う。

プロ野球界においても国内最高峰であるこのスタジアムでプレーする経験は、高校生たちにとって自分自身の新たな可能性を見出し、次のステップへと飛躍するための貴重な機会である。

 

今年8月2日から8月11日にかけて開催された「LIGA Summer Camp 2025 in 北海道」には、全国から64人の高校3年生が集まった。16人ずつ4チームに分かれて、コーディネーターと呼ばれる4人の大学生ヘッドコーチの下、選手たちは計8試合を戦い抜いた。

これまでの野球活動の集大成として、真剣勝負に挑み野球を満喫する者、プロ野球、独立リーグ、社会人、大学など、次のステージへのアピールの場とする者もいる。北海道の地には、高校野球関係者をはじめ、MLB球団スカウト、プロ野球関係者、さまざまなメディアなどが集い、高校生たちが繰り広げる真剣勝負に熱視線を送ることになった。

 

LIGA Summer Camp 2025 in 北海道



オープニングゲームの始球式も務めた吉見一起氏


キャンプのスタート

 

この「LIGA Summer Camp in 北海道」開催序盤の2日目、筆者は昨年に続きこのキャンプに合流した。合流場所は、最終日にFinalが行われるエスコンフィールドHOKKAIDOである。北広島市の川村裕樹副市長による講演「北海道ボールパークFビレッジ 〜未来への挑戦〜」と題した講演を聴講するところからスタートした。

 

北海道日本ハムファイターズがこの「エスコンフィールドHOKKAIDO」を中心とした「北海道ボールパークFビレッジ」を建設するプロジェクトは、北広島市とのパートナーシップの下、持続可能なまちづくりと地域活性化を「共同創造」するものである。プロジェクトを北広島市側で推進してきた張本人が、この川村副市長である。

 

スタジアム内の記者会見などを行う部屋での特別講演。北広島市、北海道日本ハムファイターズ、そして夢を実現するためのキーパーソンたちの情熱、いわば「大人たちの本気」がひしひしと伝わってくるお話を伺うことができた。筆者自身も大変感動したが、高校生のみなさんからも質問が絶えず、大変貴重な体験になったことと感じた。

 

この日の午後、選手たちはキャンプ初となる全体練習を行った。そしてその夜、スポーツマンシップ講習を受講することになる。


北広島市・川村裕樹副市長による講演


スポーツマンシップの重要性

 

スポーツである以上、プレーヤーは全力で勝利をめざすことが大前提となる。相手に勝ち、自分に克つために全力を尽くすことが重要である。


尊重:

 相手や審判、ルールがなければ野球を愉しむことはできない。スタッフ、保護者、関係者、応援団、周りの方々すべてがいなければ、試合をすることも、練習することも、成長することもできない。だからこそ、自分以外のすべてを大切に想い「尊重」することが必要である。


勇気:

 勝利をするため、成長するためには、失敗や恐怖をおそれず立ち向かうことが大切だ。「勇気」をもってチャレンジすることが求められるのである。


覚悟:

 スポーツをすれば必ず勝者と敗者に分かれる。ケガのリスクや思い通りにいかない困難も受け止め、あきらめることなく、最後まで愉しむ「覚悟」を持つ事が重要である。

 

スポーツを通してこうした心構えを発揮しながら、「sportsman=good fellow」、すなわち、よき仲間、他人から信頼される人になることが求められる。

 

このように、参加者全員が、スポーツ、スポーツマン、スポーツマンシップについて学び、互いに意見交換を行った。そしていよいよ、プレーヤーたちは北の大地で野球を愉しむキャンプを本格的にスタートさせることになる。


夕食の後に開かれたスポーツマンシップ講習



高校生からもたくさんの質問や意見が寄せられた


LIGA Summer CampとLIGA Agresiva

 

このLIGA Summer Campを主宰するのが、日本スポーツマンシップ協会公認「スポーツマンシップコーチ」の資格保有者であり、一般社団法人Japan Baseball Innovation代表理事の阪長友仁氏である。

阪長氏がこれまで取り組んできたのが、高校野球の秋季大会後に行われるリーグ戦形式の「LIGA Agresiva」である。これは、高校野球年代を中心に「選手の成長と未来」に焦点を当てた取り組みである。

2015年に大阪6校で始まったこの取り組みは、2025年現在、全国30以上の都道府県、180校以上が参加する取り組みへと広がりを見せている。


LIGA Agresivaの主な柱は以下の通りである。


PITCH:アメリカの基準に準拠した球数制限を設け、投手の故障予防に努めること。


BAT:投手・打者の将来を見据え、木製または低反発の金属バットを使用すること。


PLAYER LEARNING:スポーツマンシップを学ぶとともに、試合後のアフターマッチファンクションを通して対戦相手とコミュニケーションを図ること。


LEADER LEARNING:プレーヤーのみならず、コーチ・指導者の成長を促し、勝利至上主義からの脱却と野球の社会的価値の向上をめざすこと。


このLIGA Agresivaは、「一戦必勝」のトーナメント戦とは異なり、敗者も繰り返し試合をできることによって、より多くの高校生が成長の機会を得るという取り組みである。

原則、参加校のプレーヤー、監督・コーチなどがオンラインのスポーツマンシップ講習を受けることになっており、野球を愉しみながら成長し、よりよき多くの仲間ができる仕組みを志向している。

これらは、先人たちの取り組みを否定するものではなく、歴史や伝統も重んじたうえで、さらによき高校野球のあり方に挑むチャレンジであると感じている。


挨拶を行う本イベントの主宰者・阪長友仁氏



エスコンフィールドでは全員に胴上げされた


エスコンフィールドで迎えたフィナーレ

 

栗山町民球場、新十津川町ピンネスタジアム、そしてエスコンフィールドHOKKAIDOを舞台に展開されたLIGA Summer Camp in 北海道。4チーム64人のプレーヤーたちは、総当たり各2試合ずつのリーグ戦、1位と4位・2位と3位が当たるプレーオフ、そしてPre Final、Finalと計8試合を戦い抜いた。

 

元気な声を出して、全力でプレーするプレーヤーたち。彼らとコミュニケーションをとりながらチームを率いるコーディネーター(監督)役の大学生コーチたち。スムーズな試合進行のために全国から駆けつけてくださった審判の方々。場内アナウンス、YouTube Live配信、一球速報など、ひたむきにイベントを支えてくれていた大学生&高校生マネジャーのみなさん。そして、グラウンド整備に勤しむなど、さまざまなサポートをする大人たち。

 

手づくりの大会運営で連日ハードだったであろうが、それゆえに温かさがあり、それが高校生プレーヤーたちの躍動にもつながっていたと感じる。

 

エスコンフィールドHOKKAIDOでのフィナーレ。優勝チームが最後のアウトをとり優勝が決まった瞬間、参加チーム全員がマウンドに駆け寄り、みんなが輪になってたたえ合う姿には本当に胸が熱くなった。

 

歓ぶプレーヤーたち。人目をはばかることなく涙を流すコーディネーターたち。10日前に出逢ったばかりの仲間であるが、本気で戦ってきたからこそ結束し、本気で歓喜し、本気で悔しがる姿があった。

そのうえで、チームの垣根を超えてみんながともにたたえ合い、出逢えた歓びを分かち合い、別れを惜しみ、そして一緒に写真を撮る。プレーヤーたちの姿に、スポーツマンたちがスポーツマンシップを体現し、具現化された大会の理念が詰まっていたと感じる。

 

野球を愛する仲間たちであふれる、最高に素敵な場だった。北海道ですばらしい体験をした若者たちが、この最高の出逢いを大切に今後も友情を深めていってくれることを願うとともに、それぞれのさまざまな未来で大活躍されることを期待してやまない。


エスコンフィールドのビジョンに表示されたイベントロゴ



10日間の集大成、プレーヤーたちが躍動していた



試合終了とともに全員がマウンドに集まり健闘をたたえ合った



キャンプを支えてきたスタッフのみなさんも笑顔でフィナーレ



中村聡宏(なかむら・あきひろ)


一般社団法人日本スポーツマンシップ協会 代表理事 会長

立教大学スポーツウエルネス学部 准教授


1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒。広告、出版、印刷、WEB、イベントなどを通してスポーツを中心に多分野の企画・制作・編集・運営に当たる。スポーツビジネス界の人材開発育成を目的とした「スポーツマネジメントスクール(SMS)」を企画・運営を担当、東京大学を皮切りに全国展開。2015年より千葉商科大学サービス創造学部に着任。2018年一般社団法人日本スポーツマンシップ協会を設立、代表理事・会長としてスポーツマンシップの普及・推進を行う。2023年より立教大学に新設されたスポーツウエルネス学部に着任。2024年桐生市スポーツマンシップ大使に就任。


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