沖縄で初開催の「ジャパンサマーリーグ」高校球児に当てるスポットライトは、未来の選択をも照らす光に


8月2日から8日までの7日間、沖縄県内で「ジャパンサマーリーグ」が初開催された。


『アスリートにとってのオープンキャンパスに』と銘打ち行われた本大会は、約40人の高校3年生が参加。高校球児として最後を飾るべく、ここ沖縄で躍動した。


(取材 / 文:白石怜平、写真提供:株式会社ジャパンリーグ)


高校球児が抱いた志の続きを繋ぐ7日間


ジャパンサマーリーグ(JSL)は「株式会社ジャパンリーグ」が運営する新たな夏季リーグ。


同社は『陽の目を見ない場所に光を』『野球界の登竜門を沖縄に』をコンセプトに掲げ、「ジャパンウィンターリーグ」を22年から3年間開催してきた。


高校を卒業してからも野球を続けるアマチュアやプロ野球選手、さらには海外からも選手が参加するなど、毎年100人以上が参加するリーグへと発展。


次なるステップの一つとしてJSLの開催を数年前から構想で描いており、そして今回ついに実現を果たした。


参加者は高校でレギュラー獲得や甲子園出場の夢が叶わなかった者たち。


ジャパンウィンターリーグ代表の鷲崎一誠さんは開催にあたり、JSL開催の意義をこのように語っていた。


「例えばこれまでベンチ入りもできず、試合に出場できずに悔しい思いをしてきた選手たちも、ぜひ参加してほしいという思いがありました。僕としてはそういった選手に光を当てる目的が一番強いです。

3年間継続してきたので『どれだけ自分の力がついたのか試してみたい』そんな選手もいると思います。

ここでもしかしたら『自分でもっとやれるかもしれない』と、一度諦めかけても継続したいと思える可能性が湧くのではないかと。もちろん選手として区切りをつけて、次の挑戦に向いている方も大歓迎です」


参加対象は高校3年生。学校単位ではなく、球児一人ひとりが参加の意思を持って会場となる沖縄・嘉手納球場に集結した。


開催の経緯を語った鷲崎一誠さん(提供:株式会社ジャパンリーグ)



コーディネーターたちが講師となり、キャリアプログラムも展開


JSLの特徴は、最後に試合を行うためだけの場所ではないこと。


誰でも参加できるプラットフォームとして、スキルアップのみならず野球を通じた新たな仲間との出会い、さらには自身の将来についても考えられる機会がつくられた。


キャリア形成の観点においては、「アスリートにとってのオープンキャンパス」のコンセプト通り、ウィンターリーグから力を入れてきたカリキュラムを応用した。


鷲崎氏やヘッドコーディネーターを務める渡辺龍馬氏(元ポーランド代表監督)など、JSLが誇るスタッフ陣が講師を担当。


レベルアッププログラムと題し、高校生たちの持つ可能性をさらに伸ばすべくそれぞれの経験を惜しみなく伝えた。


その他にも野球のスキルアップなど全6回が行われ、球児にとって頭脳面でも成長する場となった。


今回のプログラムは球児だけではなく、その場にいた者たちにとって大きく背中を押すきっかけにもなった。インターンとして参加した専門学校生が将来的な起業を志していたこともあり、経営者でもある鷲崎さんらの言葉が一つひとつ心に響いていた。


「なかなか1歩が踏み出すことができなかったですが、今回のお話を聞いて、『経営者は誰にでもなれる可能性がある」「夢は大きく持とう」といったお話を聞き、自分の夢ももっと大きく持ち、何より行動することが大切だと改めて感じました」


渡辺龍馬ヘッドコーディネーターなどを講師に、特別プログラムも展開された(提供:株式会社ジャパンリーグ)



JSLだからこそ実現できた挑戦の数々


37名の選手は「STRINGS」「 EISA」「 ROCKS」の3チームに分かれ構成された。それぞれ異なる地域から集まり、JSLを通じて初めて出会ったメンバーと組むいわば即席チーム。


渡辺ヘッドコーディネーターを始めとした首脳陣は、主将を決めてミーティングや声出しなどを積極的にするように指導した。


その教えを実践しながら選手たち同士がコミュニケーションを取ってポジションや打順などを策定し、早くも2日目から変化が表れてきたという。


「初日は、点と点で分散してしまっていた選手の力が、ヒットが出始めたり、繋がり始めたりする様子が見られるようになり、サヨナラゲームもありました」


また、JSLは高校野球のように“負けたらその場で終わり”のトーナメント方式ではなく、リーグ戦であることが大きな特徴の一つ。


7日間毎日かつ1日最大2試合行うため、トータルでどのように体や心の状態を保つかと共に、結果を残し続けるためにも自分の個性を前面に出すことが必要となる。そのため首脳陣は以下の指導を徹底していた。


「目の前の勝敗で終わるわけではないので、リスクを取ってでも思い切ったプレーをし、1週間の中でどんどん自分の個性を出す訓練をして欲しいと指導しました。

例えば、打席で自分が好きなコースが来るまで待っていいんだと。それ以外の球は見送って、結果この打席では三振をしてもいいんです。

試合でも1週間終わった時に総合優勝できればいい、そういうアプローチを積極的にするように伝えました」


目の前の試合で全てが判断されないことは、新たな挑戦を生み出した。


JSLで女性唯一の参戦となった大里成海選手(福井工大福井高)は、これまで経験がなかった投手に初挑戦した。自ら「やってみたい」と意欲を見せ登った初マウンドでは、1イニングを三者凡退に抑える快投を見せた。


自身の意思でいくらでも挑戦ができて、かつそれが実戦の場で行えるJSLの価値を体現したシーンだった。


初めて投手に挑戦した大里成海選手(提供:株式会社ジャパンリーグ)



JSLでもウィンターリーグ同様に、BLASTやトラックマンといった最新の分析機器が全試合・全打席で導入された。


そのデータはコーディネーターやアナリストが試合中に即時フィードバックし、感覚と数字をすり合わせながら短期間での修正へと繋げるのが狙い。


期間中に平均球速が3〜4km/h 上がった投手や、高校ではベンチ入りを果たせなかった選手が、BLASTにおけるスイングスピードの目標数値110km/h 以上を記録するなど、数値で可視化したからこそ成長や能力が明確に示された。


「5日目に入った頃から数値を踏まえてどうアプローチしたら良いか、また練習方法など、たくさん質問がくるようになりました。選手がデータの見方やスタッフを活用することが分かってきたと感じました」(同上)


また、数値を計ることで新たな可能性を見出していた。チームEISAは外野手が本職である長山慧(さと:日本ウェルネス高等学校沖縄)は投手に挑戦した。


投手経験はなかったが、数値でみるとホップ成分がチームで最も高い記録だったため、首脳陣から登板を打診。2回を投げ1失点の投球を見せた。


データ計測をきっかけに投手も務めた長山慧選手(提供:株式会社ジャパンリーグ)



JSLが将来への選択のきっかけに


怪我人そして熱中症などは出ず、7日間のリーグ戦は無事に終了。


最後の試合ではチームROCKSの知名優太選手(那覇商)が満塁本塁打を放ち、参加した全員で知名選手を讃えるなど、心から野球を楽しみ終えることができた。


視察に訪れていた大学や社会人野球のスカウトから声がかかり、一度は諦めかけた野球への道が再び切り拓かれた球児がいた。


一方でここで最後のヒットを打ち、夢である航空整備士の夢を叶えるべく野球人生にピリオドを打った球児もいるなどさまざま。


共通して言えるのは、JSLにとっての何よりの意義である個々の将来への決断に前向きさをもたらしたことだった。


鷲崎さんは7日間過ごした選手たちを見て感じたことを語ってくれた。


「初年度で未知のリーグに参加をしてきた選手の行動力は今後社会でも活躍する人材だと感じています。リーグが終わった後の満足な笑顔を見ると、高校野球で培ってきたものを存分に発揮し、また異なった価値観の中で野球をやれて楽しめたのではないかと感じました」


初開催を大盛況で終えたジャパンサマーリーグ。ウィンターリーグに続く、野球の新たな文化が沖縄に誕生した。



(おわり)

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