※本記事は前後編の後編。前編を読む
日本が2大会連続で準優勝となった「WBSC Baseball5ワールドカップ2024」
侍ジャパンBaseball5代表(以下、侍ジャパン)は、2年前の前回大会同様に決勝で絶対的王者のキューバと戦うことになった。
その2日前にもスーパーラウンドで対戦しており、そこには歴史的快挙もあった。
前編に引き続き、侍ジャパンの主将を務めた島拓也選手に伺いながらキューバとの戦いを中心に振り返る。(※以降、敬称略)
全試合”負けなし”のキューバに初めての1セット獲得
この大会を語る上で外すことができないのが、競技の発祥国でもある王者キューバとの戦い。
前回大会で侍ジャパンはオープニングラウンドと決勝で対戦し、いずれも1セットも取れずに敗れていた。
10月4日の出国前会見でも若松健太監督が、
「あの時はキューバの力が大きく抜けていて、決勝で対戦して衝撃的だった印象がありました。ただ、この間でどのくらい成長できたのか。もう一度キューバと決勝で戦いたい」
とリベンジを誓っており、世界一を獲る上で避けては通れない相手であった。
若松監督(写真左から2人目) (©World Baseball Softball Confederation)
今回はスーパーラウンドと決勝で対戦。日本はまずスーパーラウンド初戦で3−2と第1セットを奪った。
これまでキューバは前回大会含め全てストレート勝ちで進んでおり、日本が大会史上初めてセットを奪った。
島はその要因を以下のように語った。
「キューバで1セットとれたのは、大嶋(美帆)選手の守備が大きかったです。狙われた中でも確実に捌いてくれた。守備位置は私もとても大事なポイントだと考えていて、打つ前に相手へプレッシャーをかけることができます。
打つ方向を狙わせて、『ここに打球を来させてアウトにする』といった誘導をする戦い方もあるので、それが功を奏したのだと思います」
キューバ戦で活躍を見せた大嶋美帆 (©World Baseball Softball Confederation)
「これが差かもしれません」決勝で感じたキューバの適応能力
日本はその後2セットを落とし敗れてしまうが、ベネズエラとチャイニーズ・タイペイに連勝し、若松監督が描いた通り決勝で再戦することになった。
だが迎えた決勝では、第1セットを1−16と大差で落としてしまう展開に。島は王者に火がついていたことを感じたという。
「1セットを取ったこともあり、決勝では完全に日本に対しての対策をしてきた。2日前と攻め方が全く違いました」
特に前回大会で感じたのが高い身体能力から放たれる打球の速さ。力で攻め込まれた教訓を活かし、侍ジャパンは速い打球への適応をこの2年間徹底して行っていた。
しかしキューバは直前の試合を踏まえて対策し、決勝に臨んできたと島は推測している。
「スーパーラウンドで我々は壁の場所や守備位置を綿密に配置し、相手の強い打球を抑えられました。でも決勝では強打だけでなく、弱い打球や間を抜く打球で守備を動かした後に、強打で襲う攻め方をしてきたんです。
日本は強い打球に対応してくるというイメージを持たれたと思うんですよ。なので小技を使ったり守備を撹乱させて気を逸らせた後、強打でさらにミスを誘うようなイメージを持っていたのではと、対戦していて感じました」
決勝で攻め方を変えてきたというキューバ (©World Baseball Softball Confederation)
スーパーラウンドから決勝の間の2日間で修正し、すぐに試合で実践してきた点もキューバの強さだった。
「その対策を1セット取られた翌々日に行えるのが差なのかもしれません。大会中もキューバは練習していたので、その間に(対策)したのだと思います。キューバの壁は近づいたからこそ遠い壁のように感じました」
2セット目はすぐに切り替えて臨み、3回まで2−7と5点差をつけられるも終盤の猛攻で2点差まで迫った。
惜しくも及ばず試合終了となってしまったが、「もう1セット取れた思います」と、王者相手にただでは終わらない執念と手応えを確かに感じることができた。
「決勝は第1セットで大差がついてしまいましたが、次は行けるぞと感じていました。最後まで食らいついて迫ったのでフルセットまで持っていかないといけなかった。日本は大会終盤になるにつれて序盤の失点が多かったので、それが尾を引いた形になりました」
最後まで諦めない戦いを見せた侍ジャパン (©World Baseball Softball Confederation)
今回のキューバとの対戦については、2年前の対戦を知る六角彩子と若松監督にそれぞれ感じたことや収穫を訊いた。
「決勝戦での気迫や、練習の内容・練習に取り組む姿勢を見て感銘を受けました。本当にBaseball5に対して真剣に取り組んでいて、そのようなところを含めるとこのままではキューバに勝てないと感じました。
そこに気がつけた事と、強化に取り組まなければと選手一人一人が感じたことは大きな収穫と思います」(六角)
「男子選手のレベルと試合感覚は少しかもしれないですが、近づいたと思います。ただ、キューバの落ちつきと勝利への執念・ギアチェンジのギアの幅が数段上がっていた。あとは国を挙げて取り組んでいるのだと感じましたね」(若松監督)
日本と他国の戦い方の違い
世界の強豪と戦い抜き、準優勝を勝ち獲った侍ジャパン。他国の戦い方を見た上で、今回日本はどんな特徴だったかを訊いてみた。
「今回日本はサインを出しませんでした。攻め方についてはどう点を取るかを個々で落とし込めましたし、守る時も『このシチュエーションではこう動こう』などと、阿吽の呼吸で合わせられるくらい練習を重ねて、染み込ませることができました。
アジアカップから半年の間、一緒に練習する機会や所属チーム間で交流しながら上達できたと思います。
フィールドに出ているのが5人のみで、これだけスピード感がある競技だと、時には声の掛け合いだけでは通じきれないものが出てきますが、我々はしっかり意思疎通できてました」
日本のチームワークは世界に誇れる (©World Baseball Softball Confederation)
一方、他国を見て日本との戦い方の違いを肌で感じていた。それを踏まえ、島は今後に向けた考えも明かしてくれた。
「キューバは選手が都度コーチを見ていたんです。あとフランスや中国もコーチが主導して指示が出ていました。
日本はそれをやらず、練習の中での確認を徹底していたのでスムーズにできました。それはあくまでも今回はという話なので、今後は導入してみてもいいのではとも感じています。
俯瞰して指示を出すケースも必要な場面は少なからず出てきますし、選手たちが考えてプレーするのみだとタイムが取れないので、一人で焦ってしまうことを防げるのではないかと思いましたね」
「ここからより一層緻密に」世界で勝ち続けるために
今後も日本が世界の舞台で勝ち続けるために何が必要か。
ここでは六角にも話を聞いた。キューバ以外は全勝だったと言えども、
「世界で勝つ事は決して簡単な事ではありませんでした」と振り返り、
「その中で粘り強く戦うことや、他国から得た戦略のヒントを頼りにしつつ、日本らしい戦い方を見つけていくことが今後世界で勝つ日本につながると思いますし、若い世代の選手達にも今回経験したことを伝えていきたいです」と述べた。
また、以前の取材では「女子選手の強化をもっとしなければならないです」と語っており、島も「日本の女性選手のレベルは世界トップクラスです」と間近でパフォーマンスの高さを感じていた。
六角は、再び世界の舞台で感じた女子選手の戦い方について以下のように語った。
「各国の女子選手のレベルが格段に上がっているように感じました。
ただ強く打つだけではなく、コントロールや上から打つ選手、予測とは逆をいく打球など、各女子選手の工夫・戦略が素晴らしかったです。
女子選手には女子選手ならではのバッティング方法や出塁方法があるのではないかと感じました」
各国の女子選手のレベルの高さを感じたという (©World Baseball Softball Confederation)
加えて、日本のもう一つの強みは緻密さを持った堅実な守り。キューバ戦の際に上述した、打球を計算し尽くす緻密さがそれを支えている。
ただ、島は「ここからより一層緻密になっていかなければいけない」と、さらに磨きをかけていきたい考えを持っていた。
「私は特にBaseball5は”表裏一体”だと考えています。守りを強化するにあたって攻めが見えてくる。自分たちがどうやったら点を取られないかを突き詰めると、逆にどこを攻めれば点を取れるかに繋がってくると思うんです。
ただ、それを実現するのにはメンバーを知ることが大事になってきます。投手がいるわけではないので、自分たちの攻撃や守備のスタイルは十人十色です。いるメンバーに応じてどう組み立てていくか、これも緻密さに入ってきます。
人によって”足が速い”・”打球が強い”・”体格が大きい”といった全てが特徴だと思うので、個々にあった戦い方を突き詰めていきたいです」
より緻密さを追い求めていきたいと語った主将の島 (©World Baseball Softball Confederation)
嬉しさと悔しさが混じり、各チームへと戻った侍戦士。近づいたからこそ強くなった”打倒キューバ”そして世界一を勝ち取るべく、早くも歩みを進めている。
(取材 / 文:白石怜平)
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