10月7日~12日の6日間、香港で開催された「WBSC Baseball5ワールドカップ2024」。
4月のアジアカップを制覇し臨んだ侍ジャパンBaseball5代表(以下、侍ジャパン)はオープニングラウンドを全勝で首位、続くスーパーラウンドを2位で通過した。
前回大会と同様に決勝で再びキューバと対戦し、惜しくも敗れるも二大会連続の準優勝を成し遂げた。
世界の舞台で躍動した侍戦士たちの6日間について、チームの主将を務めた島拓也選手に伺いながら戦いの軌跡を追っていく。(※以降、敬称略)
「日本は強い」と感じられた大会に
まずは島に侍ジャパンとしての大会を総括してもらった。チーム全員が「世界一を目指す」という目標を掲げていただけに、悔しい思いがありながらも前向きに振り返った。
「2年前も我々が準優勝できたのですが、分からないことがありながら手探りの中で出場した部分もあったと思います。それでこの2年間で練習を重ね自信をつけてきましたし、アジア一にもなれた。
他の国々と対戦していた中でも、日本の女性選手のレベルは世界トップクラスですし、”日本は強いな”と感じることができました。
大会までに他のメンバー全員はやれることをやれたのではないかと。それが今回の準優勝に繋がったと思います」
侍ジャパンの主将を務めた島拓也 (©World Baseball Softball Confederation)
メンバーは4月のアジアカップで戦った選手が中心となり、島は前回のワールドカップから引き続き侍ジャパンの主将を担った。
その立場から、チームづくりにおいて心がけていたことを訊いた。
「男女混合のスポーツなので全体のバランスを取ることを心がけていました。前回から一緒に日本代表として戦っていて、かつ所属チーム同士でも交流していたので、Baseball5を知っているメンバーでした。
そこに加えて今年のアジアカップからは野球の世界の第一線で戦ってきた、辻東倫選手(元巨人)や本池太一選手(元JFE西日本)が加入しました。
2人とも技術があるだけではなく努力家で、その姿勢はいい刺激となりました。
なので”自分が引っ張る”よりも、それぞれのメンバーの考えや行動を取り入れることを考えていました」
大会ベスト5に選出された辻東倫 (©World Baseball Softball Confederation)
オープニングラウンドでの最大の危機とは?
日本はオープニングラウンドで、5試合(オーストラリア・フランス・中国・メキシコ・チュニジア)を戦った。
冒頭の通り全勝で首位通過したが、決して余裕の通過ではなかったという。
「初戦がオーストラリア戦だったのですが、対戦経験がなかったので気持ち的にも張り詰めた状態から始まりました。その翌日から1日2試合が3日間続いたので、現地の暑さもあり体力的にも精神的にもタフな試合が続きましたね」
5試合の中で最も山場だったのが2試合目のフランス戦だったと挙げた。
「フランスは国内に約90チームあって発展している国で、さらにオマー選手(DIODENE PACHECO Omar Henrri)という大柄な選手がキューバから移ったことを知っていたので、一番の山場になるだろうという話をしていたんです」
Baseball5は2セット先取制であるが、この試合フルセットまでもつれる展開に。戦前の予想に加えて、この大会で一番のピンチとも言える状況が待ち受けていた。
「我々は守備がよくて、サードを守った辻選手の活躍もあって1セット目を取りました。ただ、2セット目をアクシデント(六角彩子が相手選手と交錯し一時退場)もあって落としてしまいました。それで焦りが出てしまいました」
最大の山場だったフランス戦 (©World Baseball Softball Confederation)
日本における絶対的な存在の離脱。島自身も動揺を隠せなかったという。
「3セット目は初回いきなり3点を取られてしまったのですが、私も普段やらないようなミスをしてしまって...一・三塁の場面で一塁走者をアウトにできずにオールセーフにしてしまった。それが3点目に繋がってしまいました」
幸い六角は大事に至らず戦列に戻り、また島も3セット目では4得点中2打点をマーク。
息を吹き返した日本は最終回に數田彩乃がサヨナラ打を放ち、島は勝利のホームを踏んだ。
「あの試合は1点ずつ重ねて最後にサヨナラ勝ちができた。これで勢いに乗れたと思います。予選で他国の試合も見ていた中でフランスは強いと感じていましたし、そのフランスに勝てた。
前回大会では下位グループだったチームがここまで強くなっていたことにも驚きました。勝ったけど引き締められたのが大きかったです」
フランス戦のサヨナラ打で勝負を決めた數田彩乃 (©World Baseball Softball Confederation)
前回大会に続き、侍ジャパンを率いた若松健太監督も、この勝利が大きな意味を成していたと感じていた。
「メキシコ大会の時も、(今大会フランス戦と同じ)2日目の第一試合でリトアニアに負けたんです。ただ、今回のフランス戦はピンチがありながら乗り切ることができた。
次の試合以降勢いがつきましたし、2年間での成長を感じました。特にメキシコ経験組は同じことを感じていたと思いますし、ミーティングでもこの話はしましたね」
スーパーラウンドで光った兄貴分の活躍
スーパーラウンドでは3試合(キューバ、ベネズエラ、チャイニーズ・タイペイ)。強豪の南米2チームに加えてアジアカップで頂点を競った相手というさらにタフな試合が続いた。
2勝1敗で決勝に進出することになるが、島は本ラウンドではある選手の存在がチームを救ってくれたと語った。
「本池選手が(スーパーラウンド2試合目の)ベネズエラ戦で空気を変えて引っ張ってくれました。3日間2試合が続いた最後、しかもこの直前にキューバとフルセットで試合をしていたので、みな満身創痍の状態でした。
特に三上(駿)選手が全試合出続けていて、その影響が少なからずあったので、2セット目から本池選手が出場しました。
1セット目を落としてしまっていた中、そこから吹き返して2、3セットと取ることができたのですが、本池選手が安定した打撃で攻撃面から勢いづけてくれました」
ベネズエラ戦でチームを牽引した本池太一 (©World Baseball Softball Confederation)
本池は第2セットで2安打1打点の打率10割、続く第3セットも3打数2安打で打率.667を挙げた。
特に第2セットでは初回に先制され、3回を終えた時点でビハインドの状況。
若松監督も、「フランス戦よりもベネズエラ戦の方が厳しい戦いと感じていた」という2度目のピンチの状況でもあった。
そんな中で迎えた終盤の4回、先頭打者で出塁し同点の足掛かりをつくると、5回にも再び先頭で出塁し決勝のホームを踏み、まさにピンチを救う活躍を見せた。
「一番年長で精神面で引っ張ってくれたのもありますし、淡々と努力を重ねていて、試合に出ていなくても献身的にサポートしてくれる兄貴分でした。太一くんがいなかったらズルズル行っていたと思います。
8人しかいない中でも個々が役割を果たす。Baseball5の魅力をまた感じることができました」
スーパーラウンドまでの戦いぶりについて、チームの精神的支柱である六角彩子にも伺った。
「フランス戦での競り勝った試合やベネズエラ戦での逆転勝ちなど、負けている場面でも耐えて耐えて最後まで諦めない姿勢。そして最後には勝ち切れる強さを発揮できたかなと思いました。
このような試合運びもできるというのは日本チームの自信にもなり、強みだと発見できました」
そして決勝は再びあのキューバと対戦することになった。
記事へのコメント