
4月某日、横浜市内でBaseball5の体験会が開催された。
休日ということもあり、家族連れの参加が目立ち、ショッピングモール内に設けられたフィールドは“誰でも楽しめる”空間に。海風が心地よく吹くなか、Baseball5の魅力が市民に広がった。
(写真 / 文:白石怜平)
“始まりの場所”横浜で市民と交流
会場となったのは「三井アウトレットパーク 横浜ベイサイド」。
ショッピングモール内のイベントスペースが、Baseball5の特設フィールドへと変貌した。
2日間にわたって行われたこの体験会は、市民と競技が出会う交流の場に。
Baseball5とこの横浜の地は深い縁があると、全日本野球協会(BFJ)の伊藤浩人さんは語る。
「最初の日本選手権が開催されたのは、ここ横浜武道館でした。横浜はBaseball5にとって思い入れのある場所であり、“始まりの場所”なのです。今後も市民の皆さんを中心に、より多くの方々にBaseball5を知ってもらいたいですし、横浜を軸に展開していくことも考えています」
原点の地・横浜に再び帰ってきた
ゴールデンウィークには、横浜のシンボルでもある赤レンガ倉庫にてエキシビションマッチと体験会が開催された。
2022年・24年とオープンの部(15歳以上)で世界大会を戦った侍ジャパンの選手たちが、各所属チームに分かれて真剣勝負を披露。
その後は体験会を通じて、観光客や通行人に競技の魅力を伝える貴重な場となった。
一方、今回のベイサイド会場では、BFJに加えてBaseball5チーム「Hi5 Tokyo」の選手たちも参加。
チーム名の通り、東京を拠点に活動しており、主に品川区と文京区で毎週練習を重ねている。
創設者は、2011年の夏の甲子園で日大三高を優勝に導いた元投手・吉永健太朗さん。2023年にチームを立ち上げ、翌2024年の「侍ジャパン チャレンジカップ 第1回 Baseball5 日本選手権」で早くもベスト4入りを果たした。
この日は、Hi5 Tokyoから手島海斗選手と杉本孝太郎選手の2人が、Baseball5の魅力を参加者に伝える役割を担った。
Hi5 Tokyoから参加した手島選手(写真上)と杉本選手(同下)
子どもたちの全力プレーに会場が笑顔に
休日のショッピングモール内とあり、会場周辺には多くの家族連れで賑わっていた。3人のスタッフが速くて鋭い打球を壁に打ち込むと、その音に引き寄せられるように、次第に人が集まってきた。
伊藤さんは語る。
「最初の一歩を踏み出すには勇気が必要です。だからこそ、私たちがまず親しみやすく、入りやすい雰囲気を作ることを心がけました。楽しそうな空気づくりを意識しました」
通った人たちが興味を持って列をつくった
イベントスタッフは通行人に気さくに声をかけ、子どもたちをフィールドへ招き入れると、一人ひとりにBaseball5の基本動作を丁寧にレクチャーした。
まずは、競技の概要を野球との共通点や違いを交えて説明。その後、「投げる」「打つ」「走る」といった要素を段階的に体験してもらった。
特に“打つ”動作では、難しそうに見えても子どもたちはすぐにコツをつかみ、壁まで届く打球を打てるようになっていった。
杉本選手は笑顔で、
「ボールを初めて持った子どもが、投げるのも打つのもどんどん上達していって。私たちも教えていて本当に楽しかったです」
伊藤さんら3人が丁寧に子どもたちに説明した
すべてのボールを打ち終えた後は、ミニゲームの時間。
伊藤さん・手島選手・杉本選手のチームと、子どもたちのチームに分かれて試合形式で対戦が行われた。
子どもたちが笑顔でベースに向かって全力で走る姿、飛んできたボールを一緒に捕りにいく場面は、会場全体を温かく包んだ。
手島選手もこのように語る。
「全員が次の塁を目指して必死に走っていて、その姿が本当に微笑ましかったです」
攻守に分かれ、ミニゲームも行われた
このような40分間の体験プログラムが1日で複数回実施され、2日間続いた。
中には1回の参加だけでは物足りず、再び列に並び“もう一度やりたい!”と戻ってくる子どもも。
スタッフは「何度でもいいよ!」と応じ、再びボールを追いかける子どもたちを温かく迎え入れました。
伊藤さんはこの体験会を通じて、子どもたちの変化を肌で感じた。
「みんなが笑顔でプレーしてくれて、成功体験がたくさんあったと思います。投げる楽しさ、打つ楽しさに加えて、試合形式ではヒットや得点も自分の手で生み出せる。短時間でも『自分でもできた!』という経験を持ち帰ってくれたはずです」
そして、その楽しそうな姿を見た周囲の人たちが「自分もやってみたい」と思い始め、自然と良い循環が生まれていきました。
「今後も地道に活動を続けていきたい」
今回のような体験会は、Baseball5の普及にとって重要な一歩となった。
ショッピングモールという、誰もが立ち寄れる空間での開催は「非常にいい環境だった」と伊藤さんは振り返る。
「多くの市民が行き交う場で、気軽にBaseball5を体験できる。その中で、子どもたちが笑顔で帰っていく。2日間を通じて、私たちにとっても一歩どころか二歩、三歩と前に進めた手応えがありました。この実績をもとに、他の地域にも展開していきたいですね」(伊藤さん)
子どもたちが元気に楽しくBaseball5に取り組む2日間になった
今年も各チームは、自らの地域を拠点にイベント参加や大会の主催など、普及活動を積極的に推進している。
今回参加した両選手も、普及において使命感を持って活動に臨んでいた。杉本選手は終了後、このように考えを明かしてくれた。
「子どもたちはもちろん、大人も性別や年代に関係なく一緒に楽しめる競技です。今後さらに競技人口が増えれば、規模の大きな大会や、トップ選手を招いたBaseball5教室もできるはず。野球やソフトボールと一緒に、“ダイヤモンドスポーツ”として盛り上げていきたいです」
今後もそれぞれの立場から競技を普及させていく
Hi5 Tokyoとしても、チーム単位で普及・強化活動に取り組んでいる。
高知県の中学校でユースチームの選考と練習会を行ったり、都内高校と連携して育成活動を進めるなど、未来を担う若手選手の育成にも力を入れ始めた。
Baseball5の普及に対し、BFJも強い使命感を抱いている。伊藤さんは今後の展望を語って締めた。
「私たちは“選ばれる存在”にならなければなりません。そのためには、楽しそうにプレーしている姿をたくさん見せて、広げていくことが大切です。
今日の体験が、Baseball5や野球、ソフトボールを好きになる“きっかけ”になればうれしいです。地道ではありますが、こうした機会を大切に、今後も活動を続けていきたいと思います」
なお、来年開催予定の「第3回 Baseball5 日本選手権」も、再び横浜武道館で行われることが決定している。
“始まりの場所”横浜が、これからもBaseball5の発信地となっていく。
(おわり)
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