
1月25日、桜美林大学で「第1回東京都立特別支援学校 Baseball5 体験会&交流会」が行われた。
都内の特別支援学校4校の生徒と共に、“ボール一つ”から活気と感動であふれる空間となった。
イベント開催に尽力した「ジャンク5」代表の若松健太氏と、同所属の島拓也選手に話を伺いながら、チームの描く世界と共にレポートする。
(写真 / 文:白石怜平)
強豪チームであり、教育を通じた普及活動も行う
ジャンク5は「侍ジャパンチャレンジカップ 第1回 Baseball5 日本選手権」のオープン(15歳以上)の部を優勝し、日本代表選手も多く輩出している強豪チーム。
若松氏はその侍ジャパンBaseball5代表の監督で、島選手は同代表の主将を務めている。
昨年10月に行われた「第2回WBSC Baseball5ワールドカップ2024」でジャンク5からは大嶋美帆・唐木恵惟子・三上駿の3選手も入り、日本が準優勝する原動力となった。
侍ジャパンBaseball5も率いる若松監督
また、チームを運営している「ジャンク野球団」が一般社団法人であることや、若松氏が桜美林大学の准教授でもあることから、“教育×Baseball5”として普及活動を幅広く行っている。
その一つが大学と連携した教育プログラム。
大学のある町田市で、女子児童の体力平均値が他の地域よりも低いデータが出たことから、町田市および周辺地域の小中学生を対象にBaseball5を交えた取り組みをスタートした。
昨年3月にスタートして以降毎月行われ、地域コミュニティ形成にも貢献している。
昨年3月から教育プログラムが開催されている
”ベースボール型スポーツで共生社会の実現”を掲げる
ジャンク5としては、特別支援学校とも4年ほど前から関わりがある。そのルーツを若松氏はこう明かしてくれた。
「障がい者就労支援会社と私で親交がありまして、障がい者従業員の健康レクリエーションとしてBaseball5をやってみよう!という話になりました。
21年と23年に本社のある山形県で行いまして、この取り組みが『Baseball5で共生社会を築くことができる』という手応えになったんです」
ここからさらに支援の輪が広がっていく。
特別支援学校で長年勤務し校長も歴任した、桜美林大の山口真佐子 特任教授が若松氏の熱意や行動に心動き、Baseball5を応援するようになった。
4年前からBaseball5を通じた共生社会への道が開いていた
加えて、ある社会課題を耳にしたのだという。
「東京都とも直接話をする機会があったのですが、特別支援学校での体育授業や卒業後の健康面で課題があることを聞いた時、『これは何か貢献することができるのでは』と考えるきっかけになりました」
そんな中で昨年実現したのが、東京都立羽村特別支援学校への出張授業。
若松氏を始めジャンク5のメンバーが学校へと出向き、児童や生徒たちがBaseball5とふれ合える機会を創出した。
8月末に行った特別支援学校での体験授業(若松氏提供)
これらの過程の中で、ジャンク野球団として新たなミッションが生まれた。
「ベースボール型スポーツで ”共生社会” を実現する」
上記の活動や山口特任教授との関係、そして若松氏らジャンク5の想いがリンクしてできた目標だった。
「ベースボール型スポーツは、健常者での体育授業において課題が多いことから敬遠されている傾向にあり、特別支援学校の体育授業でも同じであることが分かりました。
自分が幼い頃から関わってきたベースボール型スポーツがそう思われていることがとても悲しかった。現場では諦めの空気も漂っていて、『そこを助けたい!』という気持ちが原動力になりました」
Baseball5にはさまざまな課題解決の可能性がある
総勢100名を超える”世界初”の取り組み
掲げたミッションの実現に向けて、この1月に大きな歩みを進めた。
参加したのは羽村特別支援学校に加えて、東京都立南大沢学園(八王子市)・東京都立町田の丘学園・東京都立多摩桜の丘学園の計4校。
特別支援学校が集まり、Baseball5を通じたイベントを行うのは”世界初の”試みである。山口特任教授らと会話を進める中で、各校に呼びかけて実現することができた。
Baseball5を通じた世界初のイベントが実現した
「健康・スポーツ × 福祉のコラボレーション。今まで一度も実施したことがなかったのでそこも重要なポイントでした」
若松氏がこう語ったイベントは、児童・生徒約30名が参加し、保護者や各学校教員の方々や運営スタッフを加えると総勢100名を超える規模となった。
進行役は島選手が担当。上述の教育プログラムでも率先して会を引っ張っており、「Baseball5が楽しくて、またやりたくなるようなイベントにしたい」と、試合同様に牽引役を担った。
イベントでも進行役を担っている島
まずキャッチボールから始め、その後は4校の児童・生徒をシャッフルした4つのグループへと分かれる。これには他校同士でのコミュニケーションを活性化させる意図があった。
車いすを使用する生徒には、桜美林大Baseball5部員が中心となりサポートするなど全員がボールを扱いコートを駆け回った。
桜美林大baseball5部もサポートに加わった
2チームは試合形式・残り2チームは練習と順番に回していき、ジャンク5の選手や同大部員がレクチャーをしながら、投げる・捕る・打つを実際に体験。
試合形式では、守備側が捕球してから一塁手が捕球するまでにどれだけ塁を進めたかで点数を加算する特別ルールを策定した。
ホームインや好プレーを見せた仲間にはお互いにハイタッチで出迎えるなど、コート全体で笑顔と活気があふれた。
互いに一つひとつのプレーを讃え、喜び合った
保護者の方々からは涙と感謝の言葉も
約90分のイベント終了後、保護者の方々から感謝のコメントが寄せられた。
「車いすの子なんですけれども、同世代の仲間と関わりたい気持ちがあって参加させてもらいました。『本当に楽しすぎる!』と言ってくれたので今回参加できて本当によかったです」
「学校でチラシを見て知りました。本人はずっとワクワクしていまして、『いつ?いつ?』とすごく楽しみにしていました。今日参加できてすごく楽しかったと言ってくれました。本当にありがとうございました」
保護者の中には涙を流す方もいるなど、活気の後は感動の場へと移り変わった。当日は会を見守っていた若松氏も、熱い想いが自然と込み上げてきた。
「山形県でのイベントも感動があったのですが、東京で4校ミックスで実施できたことで、保護者や学校関係者の歓声や笑顔・挑戦することへの手応えをとても感じました。
言葉にはできない不思議な感動があった。何より世界初の試みなので、今後に向けてめちゃくちゃ燃えているとしか言いようがないです」
島選手もコートから参加した児童や生徒全員の姿を見守った身として、感じたことを語った。
「Baseball5をプレーしている姿を見て、競技力とかではなく『誰でも楽しくできるスポーツでいいな』とその良さを純粋に感じられました。
私がこのスポーツを始めて、技術の向上を考えなくてはいけないと考えたときに、この子たちのプレーを見て原点に帰れた。このスポーツの魅力を改めて感じさせてもらいました」
生徒・児童がワクワクを全身で表現した
今後、知的障がい者のためのBaseball5チーム「パラ・ジャンク5」、「パラ・ジャンク5ユース」を結成する運びとなり、共生社会の実現に向けて一層歩みを進めている。
島選手は改めてこれらの活動を行う意義をこのように述べた。
「障がいの有無や年齢性別関係なく、本当に『みんなができるスポーツである』ことを伝えたいです。
”全員”がスポーツを一緒にできるし、授業ができる。そういう社会にしていきたいですし、何より同じ時間を共有できることが一番の意義だと考えています」
Baeseball5は”みんなができる”スポーツであることをチームで示している
そして若松氏は最後、Baseball5でのパラチームを結成した先の未来を具体で見据えていた。
「Baseball5はレベルや性別差も少ないため、全員が楽しく参加できます。また。コミュニケーションを多く取るスポーツなので、他者との会話が生まれるし、かつ運動量も確保できます。
『パラ・ジャンク5ユース』、『パラ・ジャンク5』は大会参加などの夢を与えることができる。それは、保護者も含め“生きる”ことへの活力となれるし、人生を変えることができると考えています」
こうしてスタートした世界初のイベントは始まったばかり。
ここに集まった全員の熱を、これからさらに波及させていく。
(おわり)
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