
6月18日、日本野球協議会が都内で「中学球児応援プロジェクト」に関する会見を行った。
部活動の地域移行も開始するなど改革が進んでいる中学野球。そんな中学球児を全面サポートするために、野球界が手を組んだ。
アンバサダーに栗山英樹氏(北海道日本ハムファイターズCBO)と斎藤佑樹氏(元北海道日本ハムファイターズ)を迎え、その第一歩を踏み出した。
(写真 / 文:白石怜平)
中学生の野球環境を新たに拡充する機会に
会見には日本野球協議会会長の山中正竹氏(全日本野球協会会長)、同副会長の榊󠄀原定征氏(NPBコミッショナー)、栗山氏、斎藤氏の4名が参加。
この日はプロジェクトの最初の取り組みとして、11月15日に「全日本野球サミット」が開催されることと、栗山氏・斎藤氏のアンバサダー就任が発表された。
会見に参加した、左から栗山氏・山中会長・榊原副会長・斎藤氏
本プロジェクトは野球の普及・振興とともに、野球を始めた子どもたちが安心して続けられる環境の整備を目指し発足した。
きっかけは、2020年に文部科学省より「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革」の概要が発表されたことだった。
22年にはスポーツ庁・文化庁より「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」が発表され、部活動の地域移行を含む部活動改革の方針が示された。
この方針に基づき、25年5月には翌26年度からの6年間を「改革実行期間」と設定。全国の休日・平日の部活動を原則全て地域展開へ完全移行することが定められた。
日本野球協議会の普及振興委員会では、中学野球部における活動実態を調査するなど、上記を踏まえて情報収集や検討会を重ねてきた。
山中会長は24年6月の幹事会において「中学部活動の支援というのが最重要課題である認識です」と示し、「中学生の野球環境を新たに拡充する機会と捉えて『中学球児応援プロジェクト』が発足しました」と説明。
同年7月に発足後はプロ・アマ双方で10回協議を重ね、この日の会見に至った。
中学野球部の支援を“最重要課題”と示した山中会長
山中会長はプロジェクト最初の取り組みとして挙げたのが、上述の「全日本野球サミット」の開催であった。
このサミットは全国の野球関係団体と連携し、部活動の地域移行を力強く推進することを目的として行われる。
現状や課題、部活動改革の成功事例を共有することで、野球界が進むべき方向をより明確にすることを目指す。
参加者は都道府県野球協議会の役員や、各都道府県の高校野球野連・軟式野球連盟ならびに中体連の役員を予定している。
「中学部活動の地域展開は自治体によって方法や進捗が異なるのが現状です。野球においては、各都道府県の野球団体との情報共有・協力が必要不可欠です。
そのため、全国の野球協議会(※)などと連携をし、野球界全体で取り組む必要があることからサミットの開催を行うことになりました」(山中会長)
(※高野連の調査では、47都道府県中31の自治体で野球協議会が設置されていることが確認済みで、さらに設置するという動きもある)
「文化である日本野球のベースは中学野球に」
全国の中学校で野球をする生徒は24年時点で約13万人と、10年前の約22万人から減少の一途を辿っている。
少子化による影響で学校単位での選手数確保が難しい状況にあり、日々の活動や試合も満足に行えない中学野球部も存在するのが現状である。
榊原副会長は上記の課題を挙げ、中学野球が日本の野球で担っている重要性を述べた。
「野球は品性・知性・技術を高め、人間性まで鍛えることができる本当に素晴らしいスポーツであり、日本で育った“重要な文化”です。そのベースは中学野球にあると考えています。
この13万人の生徒が将来、高校や大学あるいはプロで野球を続ける源泉になるためにも、中学野球の発展はとても重要だと考えています」
榊原副会長は「日本野球のベースは中学野球にある」と語った
会見の場で、中学野球を応援する理由を全日本野球協会の高橋大地氏(現事務局長)が説明した。
「日本野球協議会では2016年よりプロアマ各団体の普及振興活動調査を実施しています。
その結果を踏まえて、野球に広く触れてもらうためには野球をまだ経験してない子どもたちへの活動が大事ではないかと考え、最新の調査では未経験者向けの体験活動や幼稚園・保育園等の訪問活動を行ってきました。
その一方で、中学校部活動の改革というのが国の方針で進められてきた中、我々も調査・協議を重ね、やはり野球界全体で中学生も支えていかなくてはいけない。そう考えまして、中学野球への支援に力を入れることとなりました」
日本の文化である“地域が人をつくる”
そして、今回アンバサダーに就任したのが栗山英樹氏と斎藤佑樹氏。両者は北海道に野球場を建設するなど、普及活動にも力を入れていることから白羽の矢が立った。
その発信力を活かし、中学生たちやその関わる方々への応援メッセージを伝えることや、プロジェクト活動の推進役を担うことが期待されている。
栗山氏は本プロジェクトについて、「日本の文化である“地域が人をつくる”ことをもう一度思い出そうと。それに対して野球界が力を合わせて応援しよう!というプロジェクトだと僕は捉えています」と述べた。
栗山氏は会見で自身の経験も交えて想いを語った
新潟県長岡市を訪問するなど、日本の各地域へと精力的に足を運んでいるという栗山氏。
さらに自身が東京学芸大出身で周囲が教員だったこともあり、定年後もクラブ活動のサポートを行っている話を耳にしていることから、中学部活動の現状を誰よりもその肌で感じている。
「中学校の先生から指導者が変わっていく体制というのは、ものすごく大変な状況で、『どうやってやればいいのか』という話をよく聞く印象を持ちます」
ここでは部活動の地域移行におけるプラス面を、自身の経験を交えながら語った。
「実は中学一年の時にバレーボールをやってました。それで怪我をしてバレーができなくなって野球に戻ってきたんです。
部活から地域クラブになると日によって異なる運動ができたり、文化部も含めていろんな体験ができるので、様々な指導者に出会えることができます。
地域的には実現にすごく大変なことではありますが、中学生全体を大人みんなで成長させていく点では大きな意味を持つと感じています」
栗山氏はさらにプラス面を挙げ、中学生だけでなく指導者にとってもメリットになり得る可能性を示した。
「例えば数の少ない中学校で1人だけ野球をやりたい人がいたら、地域の活動から集まってチームがつくれると野球ができる可能性が高まりますよね。
指導者もいろいろな地域の生徒を預かるので、『どう教えるべきか』『自分もどう勉強したらいいか』といった、最も大切な教える側のレベルアップにもつながるだろうなと考えています」
学生そして教員双方のメリットを挙げた
栗山氏が述べた“地域が人をつくる”。この言葉は中学生だけではなく、教員にとっても意義のあるフレーズであった。
地域移行のトリガーが教員たちの働き方改革であることから、その点も慮った話をした。
「顧問の先生たちはこれまでは生徒たちは可愛いので、休みもなく全生活をかけていた時代でしたが、今はすべてが幸せになっていくべき時代なのかなと。
ですので、負担に感じている方をなるべく軽減させてあげるというのは、それこそ地域の力だと思います」
中学時代の経験が今の礎に
栗山氏とともにアンバサダーに就任した斎藤氏は、挨拶にて山中会長や榊原副会長と同じく「野球界にとってチャンスだと思います」と力強く述べた。
中学野球にまつわる話として、自身が3年生だった時に今へとつながる話を披露した。
「中学生の頃、顧問の先生は野球経験が少ない先生でした。誰がサインを出すかという状況の中で、当時キャプテンだった僕が塁上でサインを出したり、選手たちで作戦を考えたりしていました。
その経験があったからこそ、今も自分で考えて行動ができることになったきっかけだと感じています。
中学生の時期でないと得られない経験や、それも野球を通じて得られるさまざまな経験ができることによって、将来何かの形で活きてくると思いますし、我々もそのサポートを精一杯していきたい気持ちです」
自身の中学時代の体験を話した斎藤氏
斎藤氏はその後、あくまでも自身での考えという前提のもとでプロジェクトにおけるアイデアを2点挙げた。
「一つは指導育成システムを仕組みとしてつくることです。
人それぞれ教え方は異なりますが、その中でも『ここだけはしっかりと押さえなければいけない』ポイントは、きっとどのスポーツにもあるはずです。
そのポイントを野球界の共通認識として持っておくことが必要かと感じています。
2つ目は指導者のマッチングを実現するサービスかシステムができれば良いのではと。
地域によって指導者が多い場所と少ない場所があります。ただ、指導者の需要は必ず存在しますので、今挙げたものを活用すれば指導者が少ない地域でも充足できるのではないかと思っています」
ここでは具体的なアイデアも披露した
中学球児応援プロジェクトは11月15日の全日本野球サミットで本格スタートを切る。
このチャンスをきっかけに野球界がさらに一つとなり、野球のみならずスポーツ界の可能性を広げていく。
(おわり)
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