2021年、日本野球界悲願であったオリンピックの金メダルを獲得。そして、2022年、日本野球界としてリスタートの一年を迎えるアマチュア野球も国際大会の再開が予定される中、全日本野球協会会長(代表理事)である山中正竹氏に特別インタビューを行った。
第二弾は侍ジャパン強化本部長も務めた立場から、東京オリンピック、侍ジャパンの戦いを振り返ります。
ー 2021年は東京オリンピックで日本代表トップチームが金メダルを獲得。侍ジャパンに見たスポーツマンシップと諦めない姿勢。
昨年の東京オリンピックの金メダル獲得は、「文句なしの素晴らしい快挙」であると思います。単に金メダルを獲得したという結果だけではなく、1試合1試合が素晴らしい内容の試合ですごく意味があったなと。残念ながら無観客での開催でしたが、野球の持つ素晴らしさを日本だけでなく、参加6カ国が一体となって、テレビを通して世界に発信できたと思います。
とりわけオリンピックは、トップアスリートが世界一を競い合う場です。24名の代表選手は、日本野球界トップにふさわしい選手を選出できましたが、その選手の力を100パーセント引き出せた監督・コーチ・スタッフも金メダルにふさわしいチームの一員でした。そして、この代表チームの躍進は、日本野球界に関わる全ての皆さんの協力がこの結果につながったと私は感じています。
強化本部長として選手を近くで見て、パフォーマンスとは別の部分にあたる「品性」、わかりやすく言えば、「スポーツマンシップ」が特に素晴らしかったと思います。「スポーツマンシップ」とは「スポーツマン(Good Fellow)になるための心構え、Good Gameを実現しようとする心構え」のことをいいます。彼らのメディアでの受け答えや試合中のベンチからの声掛けの姿など、試合に対して真摯に臨む姿は目を見張るものがありました。この姿を通して、国民皆さんが応援したくなるような状況を彼ら自身で作りあげました。大会中は無観客の中でも、国民と一緒に金メダルに向かって進むことができた。今回の金メダルは、「スポーツマンシップ」で金メダルの価値を倍増させたと思います。
また、特に子供たちへのメッセージとして伝えたいのが「最後まで諦めない姿勢」と「みんなで力を合わせる大切さ」です。オリンピックの初戦のドミニカ共和国戦での戦いはまさにそれらを体現したものだったと思いますが、それ以降の試合も1試合1試合厳しい状況を乗り越えたことで、最後の大きな喜びにつながっていきました。この姿勢は野球をプレーする上で、絶対に忘れないでいただきたいと思います。
ー メンバー選考は日本代表への思いが強い選手を中心に。結果的に最後の粘りに繋がった。
大会を通しての戦いぶりには、メンバー選考も間違いなく影響したと考えています。メンバー選考については、高いレベルの中で、ある程度力量が同じような人の中から24名を選ぶという、本当に大変な作業でした。稲葉監督として、「侍ジャパンへの想いが強い選手を選ぶ」という軸を持っていた。そして、複数年にわたって代表監督を務めて様々な選手を、選出してきただけに、監督と一緒にやりたいと感じてくれている選手も多くなっていました。思いがけない小さな故障や不調を抱えていた選手の存在や周りの雑音に対し、悩んだりした時期もあったと思いますが、最終的には、コーチとのすり合わせを経て、判断基準を崩さず決断をしてくれました。これが、最終的に金メダルにもつながったと思います。この決断は、近くで見ていても非常に透明性があり見事なリーダーであったなと思います。
ー 金メダル獲得につながった組織としての透明性。今後の各世代への大きな財産に。
今回の金メダル獲得の1番の要因は先ほどもお話しした「透明性」だと、私は思っています。組織において決定事項の責任者が分からない状況や縦横で連携が取れていな状況というのは往々にあることだと思います。稲葉ジャパンにおいては、2017年のスタート時に、透明性を持ったチーム編成をしようと合意してスタートしました。これは侍ジャパン組織内だけでなく、各プロ野球球団との間でも同じように動いていました。例えば、代表チーム活動中に選手が故障した際には、代替選手を別のチームから派遣していただくことなどもありました。球団にとってはシーズン中に臨時で選手の入れ替えに対応していくというのはチーム事情もあり大変なことではありますが、侍ジャパン側もきちんと説明し、それぞれの球団・監督が理解をしていただいたのも、大きかったです。
また監督・コーチ・選手の関係性も「透明性」がありました。監督はしっかりと目標をチームへ伝える。その目標に向かってコーチがそれぞれの役割をしっかりと認識して、選手に落とし込んでいく。選手は求められている役割を理解しプレーする。この形は見事なサポートというか、コーチもプロとしての役割を果たしているなと感じました。
今後、国際大会の再開に向けて、それぞれのカテゴリーでチームを作っていくわけですが、この形は大切にしたいなと思います。代表チームは、日常的に多く接しているわけではないので、指導者と選手の間のしっかりとしたコミュニケーションが取りにくい状況です。しかし、選ばれた選手たちの能力というのは、そのカテゴリーでトップクラスです。目標達成のために、その高い能力を短期間で100パーセント発揮できるように、力を引き出すというのは、監督やコーチの大事な役割だと思います。これは、各カテゴリーの指導者には、意識していただきたいですね。
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