11月22日から12月18日にかけて、「ジャパンウィンターリーグ2025(以下:JWL)」が沖縄で開幕する。
第4回目を迎えるJWLは、嘉手納町野球場とコザしんきんスタジアムの2球場が舞台。
今年も“野球界の登竜門”として世界中の野球人が集い、人生を変えるかもしれない1ヶ月間が始まろうとしている。
(取材 / 文:白石怜平、一部敬称略)
アマチュア・プロの野球選手が沖縄に集う1ヶ月間
JWLは日本唯一のウィンターリーグとして2022年から毎年開催されている。
毎年11月下旬から約1ヶ月かけて沖縄県で行われ、計14カ国・150名近くが参加するなど年々進化を遂げている。
「陽の目を見ない場所に光を」、「野球界の登竜門を沖縄に」
という2つの理念を掲げ、沖縄に集結した野球選手たちにとって人生の新たな道が広がる期間でもある。
JWLには例年NPBや独立リーグ、さらには海外リーグなど40チーム以上のスカウトが視察に訪れており、新たに契約を勝ち取る選手を輩出してきた。
その他にも所属チームでのステップアップの場になるなど目的や成果は十人十色。
過去に参加した社会人野球の選手では、JWLをきっかけにレギュラーを獲得し翌年の都市対抗野球に出場するなど、選手にとって貴重な実戦の機会となっている。

参加した選手にとって実戦を積めるまたとない機会に(提供:ジャパンウィンターリーグ)
第3回の昨年は、大きな動きがあった回であった。それはNPB球団が初めて参加したことだ。
埼玉西武ライオンズをスタートとし、横浜DeNAベイスターズ・東北楽天ゴールデンイーグルスの3球団がJWLに選手を派遣した。
ここで実戦を積んだ仲三河優太(西武)は今季のファームでも着々と結果を残し、7月には支配下登録に復帰。一軍初出場で初安打・初打点も記録した。
また、一軍で最も活躍したのが西口直人(楽天)。23年に受けたトミー・ジョン手術からの復帰を目指し、24年にファームで実戦登板を果たしていた。
一軍での本格復帰を見据えJWLに参加し、今季見事に復活。52試合に登板し34ホールド・防御率は1.07と、ブルペン陣の柱となる活躍を見せた。
NPBのチームが参加したことによる波及効果は大会後にも見られていた。
アメリカから参加していたロビー・テネロビッツが西武の春季キャンプにテスト生として招待を受けた。入団には至らなかったが、鷲﨑一誠代表は、
「エージェントを利用せずにNPBの門へと繋がった事例になりました。今後に向けてすごく大きな動きだったと思います」
と語るなど、1ヶ月間の間で様々な動きが例年起きている。

西武のキャンプに招待されたテネロビッツ(右から2人目:ジャパンウィンターリーグ提供)
今回は西武に加えて、東京ヤクルトスワローズ・千葉ロッテマリーンズの初参加が発表されている。
その他にもNPB数球団が後日発表予定となっており、より一層活性化が期待されている。
第1回から実施の施策も継続して展開
JWLは22年から「トライアウトリーグ」、23年からは実力に応じて新設した「アドバンスリーグ」という2つのリーグ制を採用しており、今季も同様の形式で行われる。
トライアウトリーグはプロ野球を目指す挑戦の舞台として、アドバンスリーグはプロ野球や社会人など主にチームに所属している選手を対象に、スキルアップの舞台として用意されている。
参加する選手同士でチーム分けが行われ、トライアウトリーグが17試合・アドバンスリーグが36試合予定されている。
全員が均等に打席やイニング数が提供されることから、普段は1打席・1イニング勝負という選手も1試合トータルでの経験を積むことが可能である。
試合時にはラプソードやBLASTといった計測機器を活用し、回転数や打球速度・角度などの詳細なデータをその場で表示する「リモートスカウティング」を今回も実施。
MLBやNPBのトップ選手も通う米国のトレーニング施設「ドライブラインベースボール」のコーチがスタッフとして在籍しており、選手はプレーを終えたその場で改善点のフィードバックを受けられる。
第3回では、この計測でも一つのきっかけを生み出していた。
「今回からコースごとのスイングスピードや打球速度を試合中に出して、どこが課題かを明示しました。トヨタ自動車の今泉颯太選手はその弱点克服に向けて期間中に行った練習をトヨタに持ち帰っても継続してくれています」(鷲﨑さん)

JWLを通じてさらに自らを成長させた今泉颯太(提供:ジャパンウィンターリーグ)
前回に引き続き今回もDAZNで全試合無料配信されることから、上記のデータは中継画面にリアルタイムで表示される。
そのため現地にいなくても選手の結果を把握・比較ができ、“スカウティング”の名の通り選手発掘に向けた材料になると共に、所属チームにとっても在籍選手の活躍や状態を定量的に確認ができる。
また、選手の成長機会はグラウンド上にとどまらないのがJWLの特徴。
期間中の夜には数回に分けた講習会が設けられており、計測したデータ活用やメンタルトレーニング、キャリア構築といったカリキュラムが揃っている。
海外では試合のみであるが、鷲﨑さんは“日本のウィンターリーグならではの付加価値”とは何かを考えて第1回から展開してきた。
「JWLに来た選手には何かしらの成長をしてもらいたいです。だからこそ技術面に加え、メンタルさらにはキャリアなど様々な角度から刺激を与え、選手の満足度を向上させていくのが日本のスタイルだと考えています」

充実した研修カリキュラムもJWLならではの取り組み(提供:ジャパンウィンターリーグ)
JWLを通じて生まれる地域の活性化
JWLが果たしている意義はもうひとつ存在する。野球を通じた地域の活性化である。
昨年はグラウンド外の活動として海外選手による国際交流の場を設けた。
23年の第2回からJICA(独立行政法人国際協力機構)と提携しており、ホンジュラスからは17歳のダビッド・アルトゥーロ・サバラ・ヌニェス選手が参加。
JWL期間中に講師を担い、沖縄の子ども達にホンジュラスの文化を伝える活動を活動を行った。なお今回は、JICAに関連して鷲﨑さんから以下の“予告”が発表された。
「JICAさんからは今年で3回続けて連携をさせていただいていますが、すごい選手を見つけました。南米のペルーから160km/hを投げる投手を派遣していただきます。
日本そして沖縄に来るのは初めてですし、リーグで対戦する選手にとっても貴重な経験になると思います。ぜひこの選手を楽しみにしていただけたら嬉しいです」

今回も新たな風を吹き込む鷲﨑代表(提供:ジャパンウィンターリーグ)
また、球場の外でも縁日やエイサー演舞を楽しんだり飲食を堪能できるなど、県外から来場する観光客にとっても沖縄文化を体感できる場になっている。
こういった様々な取り組みによって前回大会の経済効果は約5億8,300万円に達しており、宿泊や飲食・交通・観光関連産業への波及が大きいことが発表された。
第4回となる今回も地元企業と連携しながら、沖縄市や嘉手納町の魅力を発信する催しが展開される予定であり、経済面でも地域から発展を期待されている。
ジャパンウィンターリーグ2025も開幕まで1ヶ月を切った。年々進化を遂げているが、改めて開催に向けての想いを鷲﨑さんは語った。
「今回も参加人数は過去最大を更新する見込みです。JWLは球界の人材マッチングプラットフォームだと考えています。
世界中の野球人たちがここ沖縄に集まって化学変化を起こしていくことで、描いているプラットフォームの形に近づいている手応えを感じています。
第4回も選手や関わる方たち全てに有意義なものを提供していきます」
“野球界のハブになる”ことを掲げ突き進んでいるJWL。今年も新たな化学反応が、沖縄から始まっていく。
(おわり)
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