【令和の野球キャリア⑱】「野球をやりたい子はたくさんいる」。設立6年で10人→400人に選手を増やした、東京インディペンデンツの発想法


「野球がやれる場所を提供する」というコンセプトの下、活動の輪を着実に広げているのが東京インディペンデンツだ。


慶應大学の野球部出身で、学童野球の八幡イーグルスで長らく監督を務めた杉山剛太代表が2019年にインディペンデンツを立ち上げた背景には、野球界への危機感があった。


「学童野球の各チームにはうまい選手がだいたい2、3人いて、その子たちが中学生になって入るチームはたくさんあります。一方、それ以外の『野球が好きだけど、まだ本格的には……』という子の入るチームが、部活動の状況もあってすごく減っています。受け皿になるチームがないと、野球界はどんどん先細りすると思ってインディペンデンツの中学部をつくりました」


無所属でチーム発足した理由


子どもたちがどのタイミングで伸びるかは、個人差が大きい。早熟の子もいれば、大学入学以降に大きく成長する選手もいる。


もし中学世代で受け皿がなければ、晩熟タイプの可能性を消しかねない。そうした状況を危ぶみ、インディペンデンツは「選手のピークが20~25歳となる指導」を掲げて活動を始めた。


ユニークなのは、発足当初はどの連盟にも加入しなかったことだ。保護者の負担を減らすべく、その決断に至ったと杉山代表は説明する。


「野球チームに子どもを入れる際、保護者に一番負担になるのはチームの運営に関することですが、そこは我々スタッフが解消できる部分です。その次は大会。会場への送迎や運営の手伝いなど、いろんな役割が出てきます。それなら大会に参加せず、代わりに選手たちがモチベーションを保てる機会を自分たちで提供できればいいのではと考え、近い理念を持つチームと『PFF(Players’ future-first)リーグ』を始めました」


どうすれば自分たちの理想を実現できるか。その発想でチームの環境をつくっているから、インディペンデンツはさまざまな点で独特だ。


例えば発足当初、選手たちは硬式と軟式を同時にプレーした。


「軟式球の規格変更で、硬式球との差が少なくなりました。軟式球はボールの跳ね方が大きいので、守るのが難しいですよね。軟式のメリットもたくさんあるんです。軟式の場合、中学から始めましたという子も結構いるし、いろんな選手を受け入れることを考えました」(杉山代表)


同じチームで硬式と軟式を使い分けてみると、さまざまな意見が出た。「軟式しかやりたくない」という声があれば、「硬式のほうがいい」という選手が徐々に増えていった。そこで、軟式と硬式のチームを分けることにした。


さらに、硬式チームは2023年度からポニーリーグに加盟している。選手たちから「公式戦に出たい」という声を受けての決定だった。


「選手や保護者のニーズに合わせ、やりたい場所をつくるという形でうちは成り立っています。なかには『硬式はやりたいけど、ポニーには参加しない』という子もいます。逆に言うと個々でニーズは違うし、『野球をやりたい』という子はたくさんいるんです」(杉山代表)

杉山剛太代表


お金を払い選手、指導者、運営が対等に


6年前に10人強で発足したインディペンデンツの中学部は2025年9月現在、軟式は31人、硬式&ポニーは30人、小学生から高校生までを含めると400人弱が活動している。練習場所は東京都大田区や港区、世田谷区のグラウンドを借り、選手たちは東京都の品川区や港区、神奈川県の横浜市や川崎市などから通ってくる。


月会費は2万円。コストを少しでも抑えるべく練習中の服装は自由にしているが、道具代やグラウンド代、遠征費に加え、指導者への費用も発生する。中学の部活動より選手の自己負担は増えるが、理想的な環境を実現するには必要になると杉山代表は言う。


「うちは選手、指導者、運営がそれぞれ対等の立場でやることを意識しています。指導者にお金を払っているから、ちゃんと見てもらう。一方、選手と保護者には指導者を評価してもらい、運営側にもいろいろな意見をもらいます。逆に言うと、お金をもらっているからそうやれるし、お金を払っているからそう言える。ボランティアになると、どうしても言えない部分が出てきますよね。それでは、対等な関係になりにくいと思います」


東京インディペンデンツは小学生を対象に、スクール事業やプライベートレッスンも行っている。希望者は集中的にレッスンを受けられる一方、指導者は生計を立てる手段になる。そこで上がった収益の一部を中学部に還元し、インディペンデンツ全体をうまく回していけるように組み立てている。


U18という“受け皿”


2004年2月には、高校生を対象にU18を発足させた。きっかけは、中学時代に在籍していた選手の要望だった。杉山代表が振り返る。


「中高一貫校に通っている子が高校の野球部に入ろうと思ったら、イメージと全然違い、そこには入りたくないと。それで『U18をつくってほしい』と言われたのがきっかけです。高校で野球部に入らなかったら、野球をやれないというのはおかしいですよね。それでU18をつくったら、中学で野球をやっていた女子選手や、野球部を退部した選手などニーズがたくさんありました」


当初は25人でスタートし、現在は40人に。千葉県から通ってくる選手もいる。大々的に募集しているわけではなく、自分で検索して見つけてくるケースがほとんどだという。


「うちはHPやSNSに力を入れて、自分たちの活動やコンセプトを積極的に発信しています。指導内容を見て、ここでやりたいという選手も来てくれます。HPへの一番多い流入ワードは『高校生 野球』。きちんとしたコンセプトを持って活動し、告知をしっかり行えば、希望者が来てくれるという状況です」(杉山代表)


もちろん、東京インディペンデンツもすべてうまく行っているわけではない。過去には保護者から「練習内容が薄い」と指摘され、杉山代表が見ると、確かに練習がうまく回っていないこともあった。


その都度、コーチに「もっとこうしたほうがいい」とアドバイスし、改善に努める。保護者、選手、指導者、運営側が自由に意見を言い合うことで、より良い環境をつくろうとしている。


そうして現場のニーズを拾い上げていけば、野球人口減少を食い止められるのではないか。杉山代表はそう考えている。


「野球人口減少と言われますが、野球をやりたい子はたくさんいます。東京近郊だと、やる場所がないだけです。できる場所をきちんとつくっていけば、人口減以上に減ることはないと思います。さまざまな競技があるなか、野球だけ大きく減らしているのはおかしいですよね。きちんとフォローしていけば、まだまだやりようはあるはずです」


どうすれば、子どもたちが野球をしたいと思うのか。世の中の価値観が大きく変化している昨今、競技者を増やすには現場のニーズを突き詰めることが不可欠になる。


逆に言えば、東京インディペンデンツが独特のあり方で活動を拡大しているように、アプローチの仕方はまだまだあるはずだ。



(取材・撮影/中島大輔)

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