
全日本野球協会(BFJ)主催の2024年度野球指導者講習会(BCC)。
毎年特に人気となっているカリキュラムには実技講習があり、投手・捕手・守備・打撃の4項目が展開されている。
NPBの世界で名を残した元選手たちが講師を務める本講義。今年度の捕手編は、中尾孝義氏(元中日ほか)が担当した。
中日などでチームを優勝に導いた名捕手が講師を担当
中尾氏は1980年ドラフト1位で中日に入団。1年目から116試合に出場し、2年目の1982年も正捕手として投手陣を牽引し、チームのリーグ優勝の原動力となった。
1989年には巨人に移籍し、斎藤雅樹投手の復活をアシストするなど、捕手としての実力を発揮した。
1992年に西武に移籍し、翌年現役を引退。通算980試合に出場。捕手という過酷なポジションながら、打率.263、109本塁打と打撃でも活躍した。
指導者としても長くユニフォームを着続け、1995年から2006年までの12年間で、台湾を含む5球団でコーチや二軍監督を歴任する。
その後も専大北上高校の監督や慶應義塾大学の外部コーチを務めるなど、アマチュア球界でも指導を続けた。
中尾氏は冒頭で、捕手にとって最も大切なこととして「投手の投げたボールを捕れるかどうか」を挙げ、ミットの構えから丁寧に解説した。
「構えはまず、相手に捕球面が見えるようにすることが大事です。構えでさまざまなコースに来るボールを捕れるかが決まってきます」
構え方から講義はスタートした
中尾氏はこの後、ホームベースの後ろにしゃがむように構え、姿勢について補足した。
「昔は背筋を伸ばして正対するように教えられましたが、やりすぎてしまうとミットのある手は自由に動かせますが、投げる手にボールが来た時に捕りづらくなってしまいます」
背筋を伸ばしすぎた場合、手だけで捕球することになり、パスボールの可能性が高まる。そのため、「あらかじめ左肩を前に置いて構えると、(右打者の外角側に投球が外れても)膝も動かしやすく、投手も見やすくなります」と説明した。
左肩を前に置くことで、膝を柔軟に使える
ワンバウンドも「足を使って」捕球
構えの後は捕球動作について。捕球の際のポイントを述べた。
「ミットで捕りに行くのではなくて、来るボールに対して早く自分のミットがそこにあるかどうかです。
捕った時に突き出すのではなくて、ミットの上の面を投手側に向けるように動かすと芯に入りやすいです。あとは、前でも後ろでもなく、肘が伸びない程度にしましょう」
ミットの上の面を向けるように捕球する
捕手にとって不可欠な技術が、ワンバウンド時の捕球だ。ここで止められるかどうかが、勝負の分かれ目や味方からの信頼獲得に大きく影響する。
ワンバウンド時のコツも伝授された。
「基本はミットで捕りますが、ミットで捕れない時は体で止めにいかなければなりません。そのためには、しっかり膝を開きながら構え、ボールが来るまで顎を落として目線で追います」
ワンバウンドの捕り方も実演を交えて解説
ここでは正面に来た場合の捕り方だが、当然左右にも難しい投球が来ることがある。その場合の止め方についても解説が続いた。
「つま先だけで立つと体重が後ろに乗りすぎてしまい、体が動かなくなってしまいます。ですので、体の中で捕れるように足を使ってください」
足を使いながら“体の中”で捕る
スローイングも足がポイントに
構えから捕球の動作を解説した後は、質疑応答へ。その一つとして、スローイングについての質問が寄せられた。
ここでは、相手走者が盗塁を試み二塁へ走った際の、足の動く順番が問われた。
中尾氏は「捕手にとって永遠の課題です」と述べ、足の動きだけでなく、全体の動作も絡めて解説した。
「先ほど話したように、左肩が前に出ていればミットからボールをスムーズに移し替えられます。その上で足の動きですが、ステップは右足から。捕ったら、右足をあえて大げさに踏み出せるようにします。
左足は自分が投げたい方向に向ける必要がありますが、クロスにならないように注意します。真っすぐ向けて、体重を右足から左足へ移します」
二塁送球の際は勢いよくステップすることを伝えた
ボールをリリースする際は、体を素早く回転させることが重要であると中尾氏は語った。さらに、肘の使い方についても解説が続いた。
「肘と体との間に距離がないと、強いボールは投げられません。そして大切なのは、ワンバウンドでもツーバウンドでも構わないので、(二塁上で構えている野手の)ラインに投げることです。野球では高い球を投げてはいけません」
さらに、「速く投げなければと考えるあまり、手を素早く動かすだけになってしまうのは避けてください」と注意喚起。
そのため、より正確なフォームについて実演を交えながら説明した。
「まずは左肩を投げる方向に向けながらスタートし、胸も投げる方向に向くまで我慢します。向いたら肘を伸ばします。フィニッシュでは右肩が投げる方向に向いて、体が巻き付くように。これが一番いいスローイングだと考えています」
スローイングは体を開かず腕を伸ばし切る
捕手にとって重要な「投手へのサイン」に関する質問も
捕手は1イニング・1球の中で多くの仕事をこなさなければならない。
大きな役割の一つが投手のリードだ。サインの出し方についても質問が寄せられた。
「一塁コーチャーや一塁ランナーに見えないように。もし変化球だと分かってしまえば、盗塁される恐れがあります」
こう答えた中尾氏は、見破られないようにするための足の位置と、サインを出す指の位置について解説した。
「右足は閉じる。左足は少し開いても構いませんが、ミットで隠してください。サインを出す指は下に置きすぎると見られてしまうので、体の内側で出す意識を持ってください」
サインを見破られない基本も足の位置にあった
投手とのコミュニケーションについても質問が及んだ。サインが決まらない時、どうやって投手に合わせるべきか相談があった。
「自分が出したサインに首を振られることはありますよね? そうなれば、投手の投げたい球でいいと思います。
ただ、『この場面では絶対この球でなければいけない』という時も、キャッチャーの視点からあります。そういう時は強く指を出して、自分の気持ちを表現してください」
捕手の怖さを楽しさへと変えるには?
この講義では技術だけでなく、考え方や練習方法など多岐にわたる内容が紹介された。中でも「捕手の楽しさを子どもにどう伝えるか」という質問が挙がった。
中尾氏が捕手に挑戦したのは高校入学後。当時は恐怖心もあったという。そんな中尾氏がやりがいを感じたのは、ある成功体験からだった。
「盗塁を刺せた時、“キャッチャーって楽しい”と思えたんです。最初、子どもたちは捕手を怖い、ワンバンを止めたら痛いといったイメージを持っていますよね。その場合はケージの網を前に置いて、体に当てないように投げる。
それで、ワンバンを捕球する形だけを練習してイメージ付けをさせてください」
さらに同じ質問者から、「打者が近くでスイングする怖さを克服するにはどんな練習が効果的か」という質問も寄せられた。
「次にバッターが振った時、目を瞑らないことが大切です。目を開けていれば、打球がどこへ行ったかが分かるからです。そのためには、ボールを吸収する厚めのネットを目の前に置いて、来るボールに目を逸らさない練習をします。
慣れてきたら、バッティング練習で捕手をやります。実際にバッターが打つ時にも目を閉じない練習。段階を追ってやってみてください。数をこなせば慣れていきます」
段階を追うことで恐怖心が和らいでいくと述べた
この後も質問は時間いっぱいまで続き、1時間ほどの講義を終えた。
受講者とコミュニケーションを取りながら、牽制やフライの捕り方など、技術面でも知見が深まる機会となった。
(おわり)
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