【令和の野球キャリア③】プロはアマチュア選手をどう評価するのか。西武・広池浩司球団本部長が明かす、成長を見抜くための「ヒント」


2025年のプロ野球(NPB)で目立つのが、楽天の宗山塁、西武の渡部聖弥、オリックスの麦谷祐介など大卒野手の活躍だ。宗山と麦谷はドラフト1位で、渡部は同2位と高い評価でプロ入りしている。


「そもそも論としては、本来高校からプロに入れそうな選手であっても、親御さんの意向もあって進学を選ぶケースが増えていると感じます」


そう話したのは、西武の広池浩司球団本部長だ。

大学に進学すれば将来設計の選択肢が増えることに加え、ドラフトで上位指名されれば契約金が上がりやすいというメリットもある。


では、大学球界のレベルは変化しているのか。広池氏が見解を語る。


「ピッチャーのレベルは上がっていると思います。特に主要リーグに関して。各チームのエース級は、プロの二軍だったら普通に抑えるだろうなというレベルの選手がゴロゴロいます。その中で磨かれているので、確かに即戦力が大卒に多いのは当然です。なかなか高校生では、そこまでの相手との対戦は少ないと思うので」


近年の大卒野手では牧秀悟(DeNA)や佐藤輝明、森下翔太(ともに阪神)がプロ1年目から活躍し、侍ジャパン入りも果たした。


一方、MLBでは2024年にポール・スキーンズ(パイレーツ)が22歳でナ・リーグ新人王を受賞、打者ではロナルド・アクーニャJr.(ブレーブス)やフェルナンド・タティスJr.(パドレス)が20代前半からチームの主力になるなど、デビューの若年化がトレンドになっている。


若手が早くから台頭する背景の一つは、スマートフォンの普及も大きいだろう。誰でも手軽に情報を取れるようになり、選手の成長を大きく後押ししている。


プロ野球で編成トップを務める広池氏は、近年のレベルアップを肌で感じている。


「日本では野球人口が減って危機的状況ですが、トップ層のレベルはむしろ上がっていると思います。感度を高く張っていれば、小さいときから必要なトレーニングや技術の知識が得られるので。日本、アメリカを問わず、早くから活躍できる選手が出てくるのも頷けます」


西武ライオンズ・ 広池浩司 球団本部長


ドラフト指名と甲子園出場の関係


日本の高校生にとって、“登竜門”的な位置づけにあるのが甲子園大会だ。では、プロ球団からのドラフト指名とはどれくらい関連があるのだろうか。


2024年ドラフト会議では54人の高校生が指名されたなか、甲子園出場経験を誇るのは21人(38.9%)。

逆に言えば、33人(61.1%)は甲子園に出なくてもプロの目に留まった。


投打別に見ると、さらに傾向が浮き彫りになる。


投手は33人が指名され、甲子園出場者は11人(33.3%)。支配下では13人の投手が指名され、甲子園に出たのは5人(38.5%)。育成では20人が指名され、甲子園出場経験を持つのは6人(30%)だった。


「ピッチャーは“主体”なので、強豪校で揉まれる必要は必ずしもないと思います。投げすぎず、すくすく育っていき、体ができたタイミングでレベルの高い野球を経験すれば間に合う。センスの塊で、小さいときから一線級の相手をくぐり抜けてきたスーパーピッチャーもいますが、そうではなくてもプロに入れると思います」(広池氏)


対して、野手の傾向は異なる。2024年のドラフトでは計21人の高校生が指名され、甲子園出場者は10人(47.6%)。支配下では9人が指名され、6人(66.7%)が甲子園を経験した。ただし育成では12人が入札され、甲子園出場経験を有するのは4人(33.3%)だった。


「野手は打つのも守るのも走塁も全部“反応”です。早くから高いレベルでの経験、反応を繰り返し、センスが磨かれていくと思います。強豪校に行けば相手のレベルも高く、試合もたくさんできる。そこで切磋琢磨していくのが、今も必要だと思っています」(広池氏)


冒頭で挙げた3選手の出身高校を見ると、宗山と渡部は広陵、麦谷は健大高崎を中退して大崎中央を卒業した。支配下での指名は強豪で経験を積んだほうが得られやすいが、育成なら無名高出身でもチャンスがある。昨年のドラフトを踏まえると、そうした傾向が浮かび上がる。



プロで“最強”になれるタイプ


プロはアマチュア選手をスカウトする際、どんな視線を向けているのか。

特に観察しているひとつが、自身を成長させる力だ。広池氏が語る。


「グラウンド内での姿で見極めようとすると、一つひとつの仕草ですね。ウォーミングアップにどういった感じで取り組んでいるか。選手との会話の仕方はどうか。これは昔から変わらないかもしれないけど、顕著なのは失敗したときの仕草、声かけ、ベンチでの態度。自分と味方を含め、非常に大事だと思います」


いわゆる人間性や考え方であり、メイクアップにも通じるところだろう。広池氏が続ける。


「いかに失敗から学び、立ち直ろうとしているのか。一つひとつのウォーミングアップも、ただやらされているのではなく、自分で考えてやっているか。キャッチボールでも、自分で引き出しを持っているか。特に投げ始めにいろんなものが出てきます。

打者ならいつも同じように振るのではなく、状況に合わせて自分でスイングをかけているか。

守備時は周りへの声かけや、ベンチに指示される前に動いているのか。そういった姿にヒントが隠れています」


プロに入れば、アマチュア時代より恵まれた環境で自分をレベルアップさせることができる。例えばテクノロジーはその一つだが、ここでも使い方が重要になると広池氏は指摘する。


「計測した数字が出て、『おお、すごい』で済ましている選手は昔のスピードガンの時代と変わらないと思います。自分の感覚と照らし合わせ、『あ、こういう感覚で投げると、こういう数字が出るんだ』『打者はこういう反応をするんだ』と一つひとつ結びつけて検証できている選手は飛躍的に上がっていく。

なおかつ言えば、その球を投げるためのスキルを磨く方法、ドリルやトレーニングにつなげられる選手は最強です」


プロの球団にはコーチに加え、バイオメカニストやアナリスト、トレーナーなど各種専門家がそろっている。彼らの知識をどのように借り、自分の成長につなげていくのか。コミュニケーション力や思考力、戦略性も選手たちに求められる部分だ。



親や指導者にできること


テクノロジーの導入やトレーニングの浸透などにより、野球界のレベルは飛躍的に上がっている。選手たちは高い能力を求められるなか、指導者や保護者も含め、どんな点が重要になるのか。プロ球団の編成トップの立場から、広池氏にアドバイスをもらった。


「今も昔も体が強いことだと思います。プロ野球選手になるだけではなく活躍したいのであれば、まずは体をしっかりつくっていかなければいけない。だから食べて寝てトレーニングするというサイクルをしっかり回せるように。親としてサポートできるのは、特に子どもの頃はそこだと思います」


その上で指導者や保護者にとって大事になるのは、「適度な距離感」だ。広池氏が続ける。


「何もない状態の選手であれば、最初は指導が必要です。ただ、ある程度のレベルまで行って基本動作ができるようになった人に答えまで教えてしまうと、本当に思考能力がなくなってしまう。

だから、教えすぎないこと。『これも伝えてあげたい』と思うことはいっぱいあるし、最後まで言っちゃうほうが楽ですけど、あえて失敗させて『やっぱりそうなったよね』となるのが大事かな。


ずっと与えられてきた人が急に高校や大学で自立性を重んじるチームに入ったら、戸惑うと思います。指導者や保護者は勝ちたいから教え切りたくなるけど、毎回『これはこうして』と言っていたら操り人形になっちゃう。その紐が取れたときに、何もできないという状態になるのは避けたい。だから考える余地を与える、我慢は必要だよね。そして、体ですね」


昔から変わらずに大事なこと、さらに今の時代だからこそ重要性を増していること。その二つを両立させることが、令和の今、豊かなキャリアを築くために求められる。



(文・中島大輔)

記事へのコメント

  • シェアする