
「札幌六大学リーグを有名にしたい」
北海道大学野球部の1年生、上田拓朗さんは2月22・23日に行われた第4回「野球データ分析競技会」のプレゼンの冒頭でそう話した。
「札幌六大学は毎年プロにも育成枠などで輩出しています。でも、『一球速報』に東京六大学や仙台六大学の試合は掲載されているけど、北海道のリーグは一つもないので載りたいと思っています」
2024年には星槎道都大学の佐藤爽が西武に育成4位で指名されるなど、毎年プロに選手を送り出している札幌六大学リーグ(札幌学生野球連盟)。
1部に所属する北海道大学で上田さんはアナリストとして活動している。野球部の初代アナリストで先輩の4年生に野球データ分析競技会について聞き、参加を決めた。
「皆さん、野球の中で一番難しいことはなんだと思いますか?」
プレゼンで上田さんはそう投げかけた。
正解は「継投のタイミング」。
さらに最も悩むのは「ピンチで継投したときの初球」と話し、分析のテーマにした。
「継投において、あのときにこうしていれば結果が変わっていたかもしれない」
上田さんは大学野球やプロ野球を見ながら、そう思うことがあったという。
だが、それはあくまで「結果論」だ。そこで今回、東京六大学のデータから考察することにした。
継投成功への4つの提言
東京六大学の各チームがイニング途中で継投したときのデータを用い、上田さんは以下を分析した。
・初球にどのボールを投げているのか
・初球の結果と継投内容の相関
・総合的な継投タイミングの判断
イニングの始めで継投するのは「あらかじめ決めている場合や、球数など一つの区切りがあるので行いやすい」のに対し、イニング途中の投手交代は「一瞬の判断が求められる。かつワンポイントなどの作戦もあるので、この継投が成功しているのか、失敗しているのかを見るのに最適だと思った」。
6チームの継投を比較するにあたり、最初に提示されたのが「1回の継投あたりの失点数」だ。
(本人提供)
上記のデータをふまえ、上田さんは以下の二つが関係しているのではと考えた。
(1)初球のストライク率
(2)初球の球種
(本人提供)
「失点数÷継投回数」が1.64と高いA大学は、「ストライク率が19%と低く、変化球の割合が64%と変化球に頼っている」。
対して、「失点数÷継投回数」が0.826と最も低いC大学は、「ストライク率が65%と最も高く、直球と変化球のバランスがいい」とわかった。
以上をふまえ、上田さんは「ストライク率や球種の割合はそれぞれ相関が強いわけではないが、この二つのバランスが失点率の抑制に関わるかもしれない」と仮説を立てた。
その上で示されたのが以下のデータだ。
(本人提供)
次に示されたのが、単打、四死球、犠打の後の継投率だ。
(本人提供)
上田さんが調べると、長打を打たれた後に継投しているのは試合後半の場合が多かった。つまり、「リリーフの準備が遅れて打たれていることではない」と指摘した。
その上で、まとめとして発表したのが以下の4点だ。
(1)C大学はピッチャーの素早い見切りによる勇気のある継投。さらにどのボールでもストライクを入れられる自信。この二つが合わさり、他大学より継投に成功していると言える。さらに凡打の後、相手バッターに合わせた継投が多かった
(2)単打、四球、犠打の後の継投率は、失点率との負の相関が高い
(3)初球の球種はあまり関係ないので配球を組み立てやすい。自信のあるボールを投げればいいが、変化球のボール球での様子見のボール(1球)は無駄
(4)後半イニングに継投できるピッチャーを温めることが大事
以上の発表により、上田さんは優秀賞に輝いた。
「もう少し裏付ける根拠があると思ったので、そこをもっと詰めていきたかったです。(実戦で活用してもらうために)今度は監督やコーチにプレゼンしたいです」
データを「勝利」に結びつけるために
上田さんは野球部でアナリストとして活動する際、選手たちから「このピッチャーのここを解析して」「このイニングのこのデータを出して」と頼まれることが多くある。
試合をデータから細分化して見ることで、例えば同じ球種でも外角になると球速が低下する傾向にあることなどがわかるという。
普段、アナリストとしてチームの勝利に貢献している上田さんは今回、野球データ分析競技会のシンポジウムで講師の話を聞き、改善点に気付いた。
「データだけにとらわれすぎても勝てない、と感じました。選手たちは試合の中で感じられ雰囲気もあるし、試合の中で思考を変えることもあると思います。それらとデータの調律をどうやっていくか。
どのデータをとって、どの場面でそのデータを捨てて、選手自身に任せるのか。そういうところの調和が難しいので、もっと突き詰めていけたらと思います」
チームの勝利を実現するために、現場とデータをいかにつないでいくか。上田さんはアナリストとしてより多くの成果を出し、札幌六大学リーグの存在感を高めていきたいと考えている。
(文/写真 中島大輔)
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