
全日本野球協会(BFJ)と日本野球連盟(JABA)が主催する「野球データ分析競技会」の第4回大会が2月22・23日、東京都内のJapan Sport Olympic Squareで開催された。
開会挨拶でBFJの山中正竹会長が、「日本の野球界でも野球の科学を大事にし、現場の指導者とアナリストが融合した組織を求めている球団、チームが増えてきました」と語ったように、近年、野球におけるデータ活用の重要性は高まっている。
そのなかでカギを握るのが、アナリストやバイオカメニストなど「データと現場」をつなぐ人材だ。
そうした人材の育成を目的とするのが野球データ分析競技会で、高校生や大学生、大学院生がチーム(3人1組)、あるいは単独で参加。
決勝に駒を進めたのが早稲田大学高等学院、同志社大学、北海道大学、高知工科大学、立命館大学大学院、東京農工大学の6チーム。決勝では東京六大学の計80試合のトラックマンデータから「野球の競技力向上」をテーマに分析し、発表が行われた。
最優秀賞は立命館大学大学院の「タイミングをずらす変化球、評価できていますか?」。優秀賞は北海道大学の「継投のタイミング」。
今回の大会レポート第一弾では、早稲田大学高等学院、同志社大学の発表を取り上げたい。
オープナー導入の3つの利点
早稲田大学高等学院の千嶋脩市さん、新村永太さん、古田恵梧さんのテーマは「オープナーの有効性」。
研究背景は「東京六大学では、一定の能力を有しているにもかかわらず、登板機会に恵まれないことで、ステップアップできない例が散見される」、「大学時代に登板過多によりネクストステップで活躍できない例も多く、より効率的な投手運用はできないかと思った」ことだった。
オープナーはMLBのタンパベイ・レイズが2018年5月20日に初めて行った投手起用法で、本来リリーフの投手を先発させて1イニングを投げた後、2回からいわゆる先発投手に代える継投術だ。
レイズは2018年、162試合のうち68試合でオープナーを採用して下記の勝敗だった。
・オープナー採用時:39勝29敗、勝率.574
・オープナー非採用時:51勝43敗、勝率.542
オープナー導入のメリットの一つとして挙げられたのは、1試合において同じ打者との対戦回数を減らせることだ。
二つ目のメリットは、一般的に初回の失点が多いなか、リリーフに特化した投手を投げさせることで失点減少を期待できることだ。
三つ目のメリットは、一般的にリリーフ投手は登板機会が流動的になりやすいなか、オープナーの投手は必ず初回に投げるので準備しやすいことだ。
投手は「立ち上がりが難しい」とよく言われるが、東京六大学のイニング別決勝点の回数を見ると、初回に挙げられていることが多い。
以上などのデータや分析を踏まえ、オープナーに起用すべき投手(学生野球)としてこう定義づけた。
・試合数が少ないため、リリーフエースの登板機会を増やすことを重視し、積極的にオープナー起用するべき
・連戦の場合は、経験の少ない投手を起用することも可能
そして結論では、オープナーのメリットをこう提示した。
(1)上位打線において顕著に見られる周回効果を削減できる
(2)防御率が悪い初回において、失点のリスクを軽減できる
(3)リリーフ陣の負担を軽減できる
「逆境を味方に」するために
同志社大学の尾形寛太さん、金山幸暉さん、渡邉麻央さんのテーマは「逆境を味方に」。東京六大学は1チームあたり15試合と試合数が少なく、「選手のメンタルが試合結果を左右するのでは?」というのが研究背景だと説明された。
打者なら2ストライクに追い込まれた場面や、投手なら得点圏に走者を背負った場面などを「逆境」とし、緊張がどうプレーに影響するかを分析。以下がその手法だ。
分析では、打者と投手の結果が提示された。
以上の研究をふまえ、実戦ですぐに活用できるという提案がなされた。
(1)得点圏に走者がいる場合、積極的に代打を使う
(2)同点またはリードしている状況において出塁率を上げるケースバッティングの練習が必要
(3)ボール球を先行させるという戦略を積極的に使う
(4)先発投手の被打率が序盤で高い場合も、中継ぎを投入するのには様子を見る
以上が同志社大学の発表だった。
野球ではプレーが記録として蓄積されていくという特徴があるなか、近年、オープナーや大胆な守備シフト、OPSを重視した打順編成など、多くの新戦術が採用されている。ビッグデータによる分析が進み、現場に与える影響も大きくなっているわけだ。
今大会の発表では柔軟な発想が多く見られたが、重要なのは常識にとらわれず、根拠を持ち、勝利への道を冷静に探っていくことだと改めて感じられた。
(文/撮影:中島大輔)
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