【注目施設探訪 第8弾(後編)】日米のトレーニングは何が違うのか。スクワットと投球メカニクスを結ぶ「キューイング」の意識


※本記事は前後編の後編。前編を読む



2023年までアメリカの独立リーグで右腕投手としてプレーしながらメジャーリーガーを目指し、トレーナーに転身した赤沼淳平代表は2024年10月、京都府八幡市に「GVOathletics(ジーヴォアスレティクス)」をオープンさせた。


今、口コミで多くのドラフト候補たちが訪れているのは、赤沼代表のスタンスが信頼と成長につながっているからだろう。


「僕自身は『flow(フロウ』と呼んでいて、選手の動きの流れを邪魔しない指導を心がけています」


そう言って赤沼代表が見せたのは、ゲリット・コール(ヤンキース)の大学時代の動画だった。


今年3月にトミー・ジョン手術(側副靱帯再建術)を受けて今季は全休となる見込みだが、2023年にサイ・ヤング賞を獲得するなどMLB最高峰の投手だ。


だが大学時代の投球フォームを見ると、現在ほど洗練されたメカニクスではない。赤沼代表が語る。


「大学時代はガチャガチャです。もちろんドラフト上位候補だし、ここから磨いたら良くなるだろうなという感じだけど、今投げている姿とは違いますよね。

なぜ洗練されていったのか。一つの要因として、トレーニングがいいからだと思います。コールはよくベンチでスクワットをしていますが、そのフォームを見たら、こういう投げ方になるよねと感じました」



トレーニングで心がけること


日本でも今や、高校生以上ではトレーニングは当たり前の練習法になった。特にスクワットは、動きづくりとして取り入れられている。その理由を赤沼代表が説明する。


「普段の練習として行うことがトレーニングです。その動きが悪ければ、どんなにピッチング練習をしても良くなりません。

どれだけ投球フォームを改善しても、トレーニングのフォームが悪ければ投球フォームも元に戻ってしまう。スクワットはシンプルにおもりを上下させているだけなので、投げるより簡単ですよね。それがうまくできなければ、投げることもできないよね……という感覚です」


赤沼代表は指導する投手に対し、スクワットが正しくできているかどうかを必ず確認する。具体的にはフォーム、筋肉量、筋出力をバランス的に見ていく。


「例えば僕が理想とするフォームで『80kgでスクワットをやって』と言えば、できない選手がほとんどです。それでも球速150km/hを出す選手もたくさんいるけれど、球が弱かったり、バラついたり、バッターに打たれたりするケースが多い。

それを『俺、150km/h出ているから、このままで良くないですか?』とすると、中途半端な選手で終わってしまう。僕自身がそうでした。その原因を潰すことが、最初にやるべきことだと思います」


その際、トレーナーにとって大切になるのが、選手たちにどんな声をかけるかだ。そこに日米の違いがあると、赤沼代表が続ける。


「アメリカ人のトレーナーで驚いたのが、『プッシュ!プッシュ!』しか言わないことです。最初はなんでだろうと思ったけど、プッシュする感覚を見ているんですよね。日本ではよく『ケツを落とせ』『膝を前に出すな』などと言われるけど、アメリカ人はシンプルで、力を一番出せるようにアドバイスします。

まずは『プッシュ!』でいき、今のやり方では無理だと思ったら、『ここが弱いから、こういうことを付けたそう』というのがアメリカのメソッドです」


専門的に言えば、「キューイング」というアプローチになると赤沼代表は説明する。どんな言葉をかければ、改善に導けるかということだ。


例えば「ケツを落とせ」や「膝を前に出すな」と言われると、指摘された箇所に頭が行くはずだ。だが、それで全体の動きが改善されるとは限らない。赤沼代表が続ける。


「特定の言葉を言うことで、選手に意識させすぎてしまうことがあります。微妙なニュアンスですが、言葉がけ次第でミスが出やすくなるので、僕は言葉選びをめっちゃ意識しています」


ピッチャーには、それぞれ持っているリズムがある。どうすれば、その持ち味を伸ばしていけるか。成功例が、ヤンキースのコールだと赤沼代表は考えている。


「ピッチャーの持っているリズムを邪魔せず、いらないところは省いていき、必要なものをつけたのが全盛期のコールだと思います。そういうトレーニングをやってきたから、ちゃんとしたところに力が入るようになったんだなという評価です」


選手ならではの動き方に、何を肉付けすれば良くなっていくのか。それが赤沼代表の言う「Flow」だ。



成長が止まったときに必要なこと


トレーニングが当たり前の練習法として定着した今、大切なのはどのように行うのかだ。だからこそ、トレーナーの責任が増していると赤沼代表は語る。


「スクワットを強くするだけでは、球は良くならないですからね。ピッチングにつなげていくには、トレーナーの専門性が重要です。最初はトレーニングをして伸びたけれど、成長が止まったときにはしっかり立ち止まり、振り返って話せる人が必要です。振り返りができるようになれば、自立していきますからね。

『今、何かおかしいんですよね』と感じられて、頼れる人としっかりコミュニケーションをとれる選手になってほしい」


選手時代に自分に足りなかったものが今、赤沼代表にとってトレーナーとしての強みに変わった。それを適切な表現と距離感で伝えながら、一人でも多く成長に導こうと取り組んでいる。



(文/撮影:中島大輔)

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