「Baseball5」
まだ日本ではあまり聞きなれない言葉ですが、国際的な野球という面で注目を浴びているスポーツです。今回は全日本野球協会 Baseball5担当の長又淳史氏にこれまでの歴史と今後の展開について解説いただきます。
Baseball5は2017年に世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が考案、競技化した新アーバンスポーツです。この競技の原型となったのがキューバの街中で日常的に楽しまれている「クアトロ・エスキーナス」という遊びです。「4つの角」という意味のこの遊びは、いわば日本の手打ち野球と似ていますが、違いはピッチャーがいないことです。野球が国技であるキューバでは、この遊びは子供を中心に、狭い路地裏や壁に囲まれた道端などで楽しまれているようです。キューバを訪れたWBSCの幹部がこの遊びをしている子供たちの光景を見たのをきっかけに、新アーバンスポーツとしての可能性を感じたWBSCは、この競技をヒントにBaseball5を公式競技化しました。
Baseball5の詳しいルールについては公式ルールブックをご覧いただければと思いますが、競技名のとおり各チーム5名ずつのチームで対戦します。野球・ソフトボールとの一番の違いは前述したようにピッチャーとキャッチャーがおらず、打者は自分でトスを上げたボールを手で打ちます。打者は自分の思い通りに打てる一方、空振りや場外へ打てば(ホームラン)アウトとなります。またフィールドのサイズも全体で野球の内野部分に収まるほどの広さです。守備隊形は外野手がおらず、野球の内野に当たる部分に野球と同じくファースト、セカンド、サード、ショートに加えて2塁ベース後方にミッドフィルダーが配置されるのが基本です。その他スライディング禁止など細かいルールはありますが、基本的には野球と同じルールとなります。ただし1塁は衝突防止のためダブルベースとなっており、駆け抜けた後のセーフティーゾーンも設けられています。
日本人にとって野球・ソフトボールという競技は依然人気の高いスポーツですが、世界においては北米、中南米、アジア、一部のオセアニア地域が主にプレーされている地域であり、ヨーロッパ、アフリカ地域では人気度が低いのが現状です。ヨーロッパ、アフリカ地域の人々は野球・ソフトボールという競技の存在さえ知らず、見たことがない人も多いと聞きます。長年にわたり海外青年協力隊(JICA)などを通じてこれらの地域にも野球を広めようとした活動は行われていますが、中々根付くまでには普及していません。原因は多々あると思いますが、一番は用具が少ないことかと思われます。野球・ソフトボールにはグローブとバットが不可欠ですが、普及の進まない地域ではいずれも現地で用具が販売されておらず、また元々が高価なものでることも一因です。この要因がある限り、特に貧困なアフリカ地域などでは普及は難しいと考えられます。
そこでWBSCは、このBaseball5を野球・ソフトボール競技普及の足がかりにすべく、新アーバンスポーツとして競技化したのです。発祥地のキューバもそうですが、野球用具が容易に入手できない地域にとって、Baseball5はボール1つあればプレー出来ることから野球・ソフトボール競技に通ずる動きが手軽に体験出来ます。この手軽さから、WBSCがアフリカ地域でも普及活動をはじめ、徐々に広がりつつあります。
野球・ソフトボールではバットをボールに当てるには一定の練習と技術が必要ですが、Baseball5は自分の裁量で打てるため、初めての人でも「打つ」楽しさが最初から味わえます。そのため公式ルールでも「思いっきりフィールド内に打つ」ことが定められており、セーフティーバントのような打ち方をするとアウトとなります。
日本人であれば野球に馴染みがない人でも、打てば1塁へ走るということぐらいはほとんどの人がご存知かと思いますが、野球・ソフトボールが普及していない地域では3塁へ走り出す人もいます。Baseball5を体験していただければ感じていただけると思いますが、Baseball5はこういった基本の動きから、野球の次のプレーを考える動きまで、守備の選手数などは違うものの頭を使う競技です。キャッチャーがいないことから、ホームのカバーリングなど次のプレーの動きを予測しながら守備をすることも重要となります。
Baseball5唯一の用具であるボールは、WBSCの定めた公認球がありますがまだ普及が進んでいません。国内でもWBSCの規定をクリアしたボールは一部販売されていますが、まず遊んでいただく分には野球ボール大のゴムボールを使用いただいて問題ありません。体育館など屋内でもプレーできることから天候にも左右されず、守備を素手で捕ることは野球の練習の一環にもなります。是非皆さんも一度遊びからBaseball5を体験していただければと思います。
Baseball5 JAPAN 公式サイトはこちら
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