※本記事は前後編の後編。前編を読む
21年ぶりの載冠。
選手として21年前に優勝に貢献した湯浅貴博監督は「選手の時とは別物」と今回の優勝をそう振り返る。そもそも勝負をかけていたとはいえ、予想より1年早いタイミングだったというのが自身の見立てだったという。
就任からの歩み
「(優勝は想定より)1年早くにできたかなと。社会人の監督はどのチームも5年、6年ぐらい。私の考え方の中で5年間を一区切りとして、真剣に物事を作り上げたり、目標に向かっていく。5年を一生懸命、必死になってやる。それで手が届かないということは、それだけの器しかないのかな、と。
現役の時にプロを目指した時もそうだったんです。3年やっていけなかったら向いていないのかな、みたいな。そういう感覚があって5年間の一日一日を大事にしていこう。1年1年、優勝するにふさわしいチームづくりを進めてきました」
”王子らしい野球とは何か”の追求と、大会を勝ち切るマネジメント。
前編ではそれらを伝えてきたが、湯浅監督は選手たちとどのように向き合ってきたのだろうか。社会人は大人であるという見られ方はするが、就任当時の王子をどう変えようとしたのだろうか。
「選手が何と戦っているの?野球をやっている本質って何?っていうところは自分も含めて考えていかなきゃいけないなと最初に考えました。
負けているからそうなっていたところもあるんですけど、いったい何のために社会人野球をやっていて、どこに喜びや目標を設定しているのかというのがすごくクエスチョンだった。
このクエスチョンを1つずつ、みんなで考えて潰していって1つのものにしていこうという作業を一番最初にやりました」
目の前の野球に真剣に向き合うことから始めたという。
湯浅は続ける。
「やりがいはそれぞれにあるんですけど、心を閉ざしているというか、今の若い選手の特徴なのかもしれないですけど、扉を閉じている選手が多くてそこを取っ払う作業が必要だと思いました。
それはコミュニケーションで、選手たちは本気になればなるほど、自分の思いというのが出てくるので練習の中から本気になれるような、一見、理不尽かもしれないですけど、わざと選手を怒らせるというか、本気にさせるように仕向けていきました」

(写真提供:王子野球部)
個人目標とチーム目標のすり合わせ
もちろん、今の時代はコンプライアンスというものが存在する。社内規定に沿っての引き出し方ではあったが、ヘッドコーチの加藤茂樹がその点においては長けていて、選手たちの本心を引っ張り出した。野球をすること以前に、心をどこにおいていていくのかというのがクリアになっていったという。
一方、社会人野球の難しさの一つに、監督自身がそうだったように、プロを目標にしている選手が少なくないことだ。チームの戦力になって初めてプロの道が開けるものだが、一つの組織としたらまとまりにくいという難しさもはらむ。
そこは自身がプロを目指してきた経験者だから、気持ちもわかるのだという。
「私は特にプロを目指していた人間で断念した経験もあるので、ミーティングを重ねたりして自身の経験を話しながら、同じような境遇であればアドバイスをするようにしていますね。OBには成功した人間もいますので、オフの時には話してもらったりします。プロに行けなかったらそれはそれで気持ちも下がることも理解しています。
でも結局、最後には強くなろうねっていう話をします。人間の磨き方ですよね。プロに行けなかったのは誰のせいでもない。自分に矢を向けないと何も始まらないよってよく言いますよね」
人としてどうありたいのか。何のために社会人野球をやっているのか。目標に心を向けてきたからこそ、それが夢破れた時になくなるのではなく、何のために野球をやるのかという境地に立ち帰れるということである。本当の目標がそうして定まっていく。
「勝負事なので、君たち勝ちたいよねと。俺も勝ちたいよっていうところで、高校野球は甲子園。大学だったら神宮。社会人はどこを目指すかと言ったら東京ドーム。いい景色をみんなで見ようよっていうところにつながっていくんです。
王子は2004年に優勝していて、幸いにして当時のスタッフもまだ残ってるし、優勝の景色を見せたいんだという思いは誰もが持っているので、歴史を塗り返えていくのは君たちだよって話していくと一つになっていきます。
ただそうなっちゃった、つまり、たまたま優勝しちゃったということをしたくなかったので、ちゃんと取りに行くんだよと。会社にも理念や指針があるように、私も私なり野球部の理念や指針を作って、示す方向を年頭に話しています。本当に取りにいくんだというところから果たせた優勝なので、指し示すことはできたのかなと思います」

(写真提供:王子野球部)
王子野球部のこれから
チームとしての目標を掲げてそこに向かう。”5年で優勝”が1年短くなったとはいえ、そこには指揮官自身の指針があったからで、今回の優勝も強い組織を作っていく上での通過点という見方もできる。
21年ぶりの優勝は多くのOBや会社に喜びをもたらしたが、5年という一つの節目の中で、これからの歩みも今回の優勝と同じくらい重要になってくるだろう。
21年かかった2度目の優勝から王子はどのような野球部になっていくのだろうか。
湯浅監督は言葉に力を込める。
「10回、11回、12回と優勝しているチームがあるわけで、そうしたチームと肩を並べるような、チーム・会社になっていけば、自ずとファンの皆さんや従業員の方にも喜んでもらえると思います。
2回目の景色が見れたということは3回目、4回目も貪欲に狙いに行ってもいいと思いますし、それだけ期待されているとは思うので、その声に応えるためには、どういうふうにしていたらいいのか。
私が何年も監督をやっていくわけにはいかないので、後ろにつなぐためには、どういうふうにチーム作りをしていたらいいのかなというのを考えていきたいですね。5年目に日本一を取るとイメージしてきて、1年早かったですけど余白が残っています。連覇を狙えるのはうちのチームだけなので、真摯に謙虚に狙っていきたいなと思っていますね」

次なる目標を見据える (写真提供:王子野球部)
連覇となると予選が免除される一方で、チームのモチベーションを保つのが難しい側面もある。ただ、それは何度も優勝してきたチームなら経験していることで、優勝を掴んだからこそ、次のステージへ向かうための試練として王子に訪れたともいえる。
2連覇というプレッシャーはチームが前進していくための必要な試練と捉えてどう乗り越えていくのか。21年ぶりの優勝からさらなるステージに向かう王子に今後も注目していきたい。
(取材/文:氏原英明)
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