第5回執筆者:平野裕一(常務理事 選手強化委員会委員長)
日本の野球では勝率、防御率、奪三振数などで投手の能力は評価され、打率、打点、本塁打数などで打者の能力は評価されてきました。
しかし、それらが本当に選手の能力を表しているのか?勝利に貢献しているのか?とアメリカで問われ出して、もっと能力と関係が深い、もっと勝利と関係が深い指標を見つけようということになりました。
そんな指標ができれば、練習の仕方は変わりますし、試合での戦術も変わることになります。
メジャーリーグの試合を観ているとFIPなどという聞きなれない言葉が聞こえてきます。
これはFielding Independent Pitchingの略で、守備の影響を抜きにした投球ということですから、被本塁打と与四死球という悪い側から奪三振という良い側を引いて計算される投手の能力を評価する指標といわれています。小さな値が望まれることになります。
また、OPSなどという馴染みのない数字も出てきます。これはOn-base Plus Sluggingの略で、出塁率と長打率とを足したものですから、打者がチームの得点にどれくらい貢献できているかを表す指標といわれています。
こちらは大きな値が望まれることになります。これらの数字は選手の能力と関係が深い、勝利と関係が深い指標ということで使われるようになってきたのです。
そうなると、こうした指標に何が影響するのかということになります。
投手であれば速いボール、切れのあるボールがFIPには貢献するでしょう。そこで投球の「振舞い」を測ろうということになりました。
一方、打者であれば強いスイング、良いミートがOPSには貢献するでしょう。その結果は打球に反映されるわけですから打球の「振舞い」を測ろうということになりました。両方ともボールの「振舞い」を測れば影響するものが見えてくるわけです。
ここ5年ぐらいでしょうか、日本の野球でも投球や打球の「振舞い」が測られるようになり、社会人野球ではそれらのデータが公表されてもいます。投球速度やスピン、打球速度や角度などです。
もちろん、中学や高校の選手が短絡的にこうしたデータを目標にするのは危険ですが、大学や社会人の選手であれば目標にできますし、彼らを指導する時には参考にもなります。
そしてこうしたデータを分析して練習や試合に役立つ情報にすることも行われるようになりました。その役はアナリストが担うわけです。日本のプロ野球では60人を超えるアナリストが働いていると聞きます。この先、アナリストの活躍は野球を一層魅力的なものにしてくれるでしょう。
全日本野球協会(BFJ)ではこうしたアナリストを育成するための「データ分析競技会」を来年2月にジャパン・スポーツ・オリンピック・スクエアで開催します。
毎年1回ずつ開催してきて今回で4回目になりますが、実際の投球や打球の振舞いを分析して練習や試合に役立つ情報を提案するというコンペです。是非、参加してその面白さを実感してください。
(昨年の様子)
ひらの・ゆういち
1953年生まれ、東京都出身。BFJ常務理事・選手強化委員会委員長。法政大学名誉教授。野球を中心とした競技スポーツのバイオメカニクスとトレーニング科学の第一人者。東京大学硬式野球部監督時代の1981 (昭和56)年春季リーグ戦では、早慶から勝ち点を挙げ優勝争いを演じ、「赤門旋風」として社会現象に。4位に終わったがシーズン6勝は東京大学史上最高記録。
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