【Baseball5を学ぼう】 日本代表 六角彩子(前編) 「男女が一つのチームでできる喜びを感じた」競技の未来を切り拓くパイオニアとしての道のり

本編で連載企画としてお送りしている野球型のアーバン(都市型)スポーツ「Baseball5を学ぼう」。

第4回は選手特集をお送りする。そのトップバッターを務めるのは、六角彩子選手。

日本で唯一のWBSC公認インストラクターとして世界中を回り普及活動に勤しみながら、日本初のチームである「5STARs」の創設そして日本代表としても輝かしい実績を残してきた。

今回、Baseball5のパイオニアである六角選手にロングインタビューを実施。選手としてこれまでの活躍についてお話を伺い、3回にわたってお送りする。

(取材 / 文:白石怜平、以降敬称略)

講習会ですぐさま感じたBaseball5の魅力

上述の通り六角はBaseball5の日本代表であり、さらに野球でも「茨城ゴールデンゴールズ」の女子チームでプレーを続けている。

かつて女子野球日本代表「マドンナジャパン」の中心選手として、2010年のIBAF女子ワールドカップ(W杯)では首位打者を獲得し大会MVP、さらに年間最優秀選手に日本人として初めて選出。その後16年まで3度のW杯に出場した。

日本代表をこの年限りで引退した六角は、現役を続ける傍らで女子野球の普及に向けた活動も現在同様行っていた。

そんな中19年1月、共に普及活動を行っていた山田博子氏(現:全日本女子野球連盟会長)から紹介を受けた。

「山田さんから『Baseball5という面白い競技があって、六さんにすごく合うと思う』と声をかけてもらったのがきっかけでした」

Baseball5の魅力をすぐに知った(筆者撮影)

そこで参加したのは、都内で行われたBFJ(全日本野球協会)主催のBaseball5講習会。17年に誕生した同競技がついに日本へ初上陸したタイミングだった。

Baseball5は、専用のボールを打者が自らトスを上げて手で打つ。バットやグラブは不要で、ボール1つあればできるのが大きな特徴である。また、打球が場外に出た場合やフェンス直撃となってしまえばアウトとなるため、”ホームラン”が存在しない。

この日初めて体験した六角は「めちゃくちゃ面白い!」と衝撃を受けた。

「女子と男子が協力しないと勝てないスポーツ・ボール1つでできるというのが、すごく魅力的でした。私はずっと野球をやってきて、男女差を感じるスポーツだなと感じていました。そんな中でBaseball5をやった時、まず男女が一緒のチームで競技ができる喜びを感じたんです。

あとは野球で言うホームランがアウトになるので、パワーがあればいいわけでもない。男女差が出にくいスポーツなので、そこがまず楽しいと思いました」

男女が同じフィールドでできるのも特徴の一つ(筆者撮影)

18年よりWBSCが本格的にBaseball5の普及に力を入れており、既に欧州やアフリカなどでも行われていたことから、国際的に拡大する機運が高まっていた。

「これは絶対に広がる」と感じた六角は、野球人としてもう一つの視点を持っていた。

「アジアそして日本で男女混合のダイヤモンドスポーツが普及されることで、女子野球にもさらに注目が行くのではないかとその時思いました。それほどBaseball5への可能性を感じましたね」

WBSC公認インストラクター就任から日本でのチーム結成へ

六角が初めてBaseball5を体験した際、その動きがWBSCの方々の目に瞬く間に留まった。アジア地域での普及において必要不可欠な人材と確信した関係者があるオファーをした。

「WBSCが5大陸で3人ずつ、計15人の世界のインストラクターをつくろうと動き出したタイミングでもありました。そこで、日本にBaseball5ができそうな選手がいるということで養成講座のお声がけをいただきました。私も『ぜひお願いします』ということで、キューバで3日間行われた講座に参加しました」

19年3月にこの「WBSCコンチネンタル・コーチング・プログラム」を修了し、現在も日本で唯一のWBSC公認インストラクターに就任した。

キューバの講習会を経てWBSC公認インストラクターになった(本人提供)

11月には大阪で行われた「第3回 WBSC総会」にも登壇し、開催地の代表としてBaseball5の魅力と可能性について紹介した。この年は全国各地で行われた体験会へと足を運び、国内での普及に力を注いでいった。

しかし翌20年、大きな足踏みを余儀なくされることになる。世界的に猛威を振るった新型コロナウイルスの感染拡大である。

外出すらできない状態が続く日々。それでも六角は普及活動を止めることはなかった。

「あの状況下ではどんな活動をすればいいかを考えて、メディアだなと。ただ、取り上げてもらうとなると何か活動をしていないと難しいと思ったので、自分でやろうとBaseball5用のサイトをつくりました。

ルールの解説やボールはどこで買えますなど、そういう記事を書いていくことで普及活動を続けていました」

アジアカップやワールドカップといった国際大会は軒並み延期となったが、その間日本では20年の秋からイベントが徐々に再開され、小学校でも体験プログラムも行われるようになった。

小学校など体験会で普及活動を行っている(本人提供)

なお、この間に六角は女子野球においてある決断をした。クラブチームの「侍」から、20年4月に新たに誕生した「埼玉西武ライオンズ・レディース」の初期メンバーとして移籍したのだ。

「Baseball5もですが、女子野球を広めるにはすごくいいタイミングでした。日本代表で一緒に戦ってきた人たちが集まるということで、そういう環境でもう一回挑戦したいと思い移籍しました」

そして21年の夏が終わる頃、六角はBaseball5においても一つ大きな動きを起こした。

「9月にBaseball5のチームとして5STARsを立ち上げました。体験会で面白いと感じてもらいながらも『どこでできますか?』と聞かれてもこれまでチームがないので、やる場所が限定されていました。

それなら先を見せるためにもチームをつくらなければいけないと思い、高校から女子野球で一緒にやってきた村山(智美)と2人でつくりました。ここではやりたい人が誰でも入れる形にして、最初は2週に1回の頻度でスタートしました」

最初は2人でのスタートとなった(本人提供)

自身が拠点を置く埼玉県で、主に加須市や上尾市で体験会を地道に開いていった2人。SNSでの発信も行うなどして参加者を募り、Baseball5の魅力がどんどん浸透していった。

チームのメンバーも増えていき、3年近くでオープン(15歳以上)メンバーで15人・ユース(15歳以下)が16人の計31人が在籍するまでに規模を大きくしていった。

動きにおけるBaseball5と野球の違いとは?

現在、硬式野球とBaseball5の両方で競技活動も行っている六角。双方世界レベルでプレーしている立場から、同じダイヤモンドスポーツの中での違いを訊いた。

「やはり異なります。動き方もそうですし、バットを使うか・手を使うかでも全然違います。Baseball5に特化したトレーニングとしては、チューブを使って弾いてみたり、手を伸ばした状態で回転を速くするような動きを取り入れました」

5STARsでも瞬発力を高めるトレーニングを行っている(筆者撮影)

Baseball5と両方やることで、野球につながる部分があるという。特に守備の面で感じたことを明かした。

「Baseball5を始めてから守備がもっと上達したと感じています。ボールをしっかり手に入るところまで見るようになりました。グラブを使わない分、ちゃんと見ないと捕球できないんです。打球の反応・判断力そしてハンドリングもすごく良くなったと思います」

また、スイングにおける違いもこう解説してくれた。

「野球で言うと右打者は右足を軸にしますが、Baseball5ですと基本踏み出した足を軸にして打つんです。そこが違うと感じています。人によってさまざまですが、体の近くで打つ人もいますし私は距離をとって遠心力で打ちます。

打撃では遠心力で力を伝えていると語る(筆者撮影)

打つ手においても、野球では左打席に立つけれどもBaseball5では右で打つ選手もいます。投げる動作に近いので投げ手で打つのが多いのかもしれないですね」

なお体験会で多くの方の動きを見ていても、野球との違いを感じることがあるという。それが、Baseball5の面白さへとつながっていた。

「野球がすごく上手い男性選手が、Baseball5をやってみると難しかったりするんですよ。特に打つことについては全然違うので、女子の方が巧くて強い打球を打てたりするので、やはり違うスポーツなんだと感じる一方で、そこが面白い部分だと思います」

22年からは、延期されていた国際大会がついに開催された。六角はBaseball5においても活躍の場が日本から世界へと広がっていった。

つづく

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