
野球界には各団体やチームに関するステークホルダーが多数おり、それぞれが長い時間をかけて膨大な情報や経験を蓄積してきた。ただその一方で、情報が届ききっていないことが課題となっている。
そんな“点”を“線”へとつなぐ取り組みが、公益財団法人 球心会がリリースした「BEYOND OH! プラットフォーム」である。
選手や保護者、指導者、チーム・団体など、ベースボール型スポーツに関わる人々をつなぎ、野球界に蓄積されてきた情報や経験を共有していく新たな基盤。
それは”オール野球界”の旗の下、野球界が一つになって構築しているもだった。
(取材 / 文:白石怜平、表紙写真:球心会提供)
野球界の情報一元化を目指し誕生
「BEYOND OH! プラットフォーム」は、2025年11月中旬にWeb上で公開され、今年4月下旬には「球心会公式アプリ」として運用を開始した。
アプリには、野球少年少女を支える保護者が体験談や知見を共有する「パパママブログ」をはじめ、全国の野球教室や体験イベントの掲載、ユーザー同士が悩みや情報を共有できるコミュニティ機能を搭載。
さらに、キャッチボールや野球ができる場所をユーザー投稿によって可視化する「野球マップ」や、地域・年齢に応じてチームを探せる「野球チーム情報」なども備えている。

目指すのは単に情報を掲載するアプリではなく、ベースボール型スポーツに関わる全ての人々が情報や知恵を持ち寄り、野球界全体で育てていくプラットフォームである。
これは25年6月の設立発表時から明かしていた構想で、代表理事を務める王貞治氏が抱く課題意識が背景にある。
王代表がプロ・アマを問わずさまざまな野球関係者と意見を交わしていく中で見えてきたのが、「ベースボール型スポーツに興味を持った人が、その次にどうすればいいのか分からない」という課題だった。
球心会はプラットフォーム誕生の背景についてこう説明する。
「王代表が12球団のオーナー会議に参加したり、他のアマチュア団体さんたちとコミュニケーションを取っています。
その中で、野球などに興味を持ったお子さんや保護者の方が『次に何をすればいいんだろう』『どこから情報を取ればいいんだろう』といった悩みがあると話題になりました。
解決に向けて議論する中で、『情報が一つにまとまっていた方が見えやすいよね』という考えから始まりました」
各団体は長らく独自の普及活動やイベント、情報発信を継続している。球心会はそれらに取って代わるのではなく、すでに各所に存在している情報や取り組みをつなぐことを目的としている。
それぞれが持っている情報をつなぎ、必要な情報を適切なタイミングで提供できる基盤づくりを目指して25年9月頃から構築がスタートした。
ユーザーとも“共創”で日々進化
まずは、同年11月に東京ドームで行われた「BEYOND OH!PLAY KIDS」で告知することを一つの目標に据え、企画から進めていく。
開発にあたっては球心会だけでなく、「BEYOND OH!プロジェクト」に関わる各団体や開発会社などから意見を集約し、それを反映していった。
構築を後押ししたのが、王代表が常々大切にしている考え方だった。
「王代表は『進めながら変えていけばいい。まずはやってみよう。つまずいたり意見をもらったら、そこで修正すればいいわけだから』と。何か物事を進めるときによく仰っているので、後押しになりました」

王代表が常々語るチャレンジ精神がここでも浸透していた
開発で大きなテーマとなったのが「誰にとっても使いやすいものにすること」。
ユーザーとなるのは子どもたちや保護者だけではなく、指導者・競技団体の関係者など年代もデジタルへの習熟度もさまざま。
そのためアイコンだけで操作を促すのではなく、ダウンロード時にガイドを表示するなど“一目で分かる”設計を意識して開発された。
プラットフォームが掲げる「共創」の思想を象徴する機能の一つが「野球マップ」である。
「野球やキャッチボールができる場所が分からない」という課題に対し、ユーザー自身の経験を集めることでアプローチしている解決につなげようというもの。
ID登録したユーザーが、実際に利用した場所について「ここでキャッチボールができた」といった情報を投稿。その声を蓄積しながら、利用状況を地図上に可視化する。
運営側が全国の公園や施設を一つひとつ調査するのではなく、その地域で暮らし、実際に野球に触れている人たちの経験によって情報を充実させていく。
もう一つ、ユーザーの経験を生かしたコンテンツが「パパママブログ」である。
野球を始めたからこその悩みや家庭での子どもとの関わり方、さらには食事やトレーニングなど、野球少年少女を支える保護者ならではの経験や知見を発信している。
現在は東尾理子さんや根本美緒さん、青木佐知さんも親の立場として発信を行うと共に、アプリで情報を得る保護者たちからも「自分も書きたいです」という問い合わせも寄せられている。
地域の情報や経験を必要とする人へ渡すなど、ユーザーとも共創することでプラットフォームはアップデートしており、野球の知恵の循環が日々活性化されている。

それぞれの“気づき”を共有し合える場所に
球心会が掲げるキーワードは「オール野球界」。
競技団体や野球普及に携わる関係者らが参加するプロジェクト会議を毎週開催しており、女子野球やティーボール、ソフトボールなどの関係者を交えてベースボール型スポーツを取り巻く課題や未来について議論を重ねている。
これまでは知識やノウハウが属人化という印象があり、球心会としても王代表のある気づきから、その根拠を垣間見たことがあったという。
「王代表が公認野球指導者基礎資格を取得されたのですが、『こういうものがあるんだ』『こういった指導法があるんだ』と新たにお気づきになった点もあったそうです。
それを聞いた時、野球界の各団体や組織の努力がまだ伝わっていない部分があると思ったんです」
現在もベースボール型スポーツの各団体などと継続的に議論を重ねている球心会。プラットフォームにおける今後の展望としては、コミュニティ機能を活発化させたいと構想を明かしてくれた。
「これから野球を始める人が『どんな練習をすればいいのか』と悩んだ時、野球界を支えてくださった方たちがコミュニティを通じて自身の知識や参考になった情報を伝える。
技術や指導方法だけでなくチーム運営などでそれぞれが持っている課題や疑問はあるとは思うので、そこをここで共有しながら自分の意見を発信することで、野球界の知恵はもっと広がると考えています」

「BEYOND OH! PLATFORM」が目指しているのは、これまで各所に存在していた野球界の“点”をつなぎ、次の世代へ知恵を隈なく継承していくことである。
その新たな土台が、今着実に広がりを見せている。
(了)
