
世界約80ヵ国以上の国で普及しているベースボール型アーバンスポーツ「Baseball5」。
打者は自らトスしたボールを手で打ち、守る選手も素手で捕球する。必要な用具はボール一つ。
バットやグラブを使わず、全体のプレーゾーンは野球で言うマウンドから本塁までの距離(18.44m)とほぼ一緒の18mというスペースで行える。
限られたスペースでも楽しめる新たなベースボール型競技は、経験や年齢・性別を越えて、誰もが一緒に夢中になれるのが何よりの魅力。
Baseball5が誰でも楽しめる要因について深掘りするべく、選手と普及の両面から競技の最前線を走る六角彩子選手に、その面白さを聞いた。
(取材 / 文:白石怜平)
スタートから味わえる“成功体験”
六角選手は、日本のBaseball5界の第一人者として普及時から牽引している存在。
現在も現役としてプレーをする女子野球では日本代表選手として長年活躍し、Baseball5とは2019年に出会った。
以降こちらも日本代表として国際大会で活躍しながら、国内では体験会や学校訪問を積極的に行い競技の普及にも力を注いでいる。
そんな六角選手は、Baseball5ならではの入り口をこう表現する。
「スポーツは上手くなればなるほど楽しくなるものだと思います。Baseball5もその要素を持ちつつ、初めてでも成功体験を得られることが一つ大きなことだと思います。
入り口から成功を味わえて『楽しい!』から入れる。楽しいからこそ、もっと知りたくなる。それがBaseball5の良さと感じています」
野球やソフトボールを初めて体験する人にとって、最初の壁になりやすいのがバットでボールを捉えること。空振りが続くケースもあり、経験者との差も表れやすい。
一方でBaseball5では自分で上げたボールを手で打つため、初めてボールを手にした人でもまず「打てた」「前へ飛ばせた」という喜びを味わうことができる。

成功体験をすぐに体感すると共に、“難しさ”が楽しさにつながると六角選手は考えている。
「始める時に攻撃時は『手で打って走る』、守備の時は『手でキャッチして投げる』というようにシンプルです。でも、その中にもちょっとした難しさがあるから『もっとやりたくなる』と感じられる。いい意味で簡単すぎないところも魅力だと思います」
ここで述べた“簡単すぎない”。守備ではボールを捕る・投げるという一見単純な動作に感じるが、打球を弾いてしまったり、送球が逸れてしまえば相手はセーフとなってしまう。
この2つが正確にできることで初めてアウトを取ることができるため、決して簡単ではない。
Baseball5ではグラブやバットを使わず全て自らの体でプレーするため、このように簡単さと難しさが共存する競技でもある。

子どもたちと接して感じた“全員が主役になれる”競技
六角選手は全国の小学校を訪問し、Baseball5を授業で活用している。先生として学生たちと間近に接する中で、プレー以外でも子どもたちが成功体験を重ねていると感じていた。
「ゲーム形式になると子どもたちも勝ちたいと思うので、特に何も助言しなくても『自分はどうしたらチームのためになれるだろう』と考え始めます。
カバーへ回ったり、遠くへ飛んだボールに対して中継に入ったりする。個人のプレーだけでなく、チームワークにおいても成功体験を得ていると感じます」
学校現場では、もう一つ印象的な変化が起きていると語る六角選手。球技や体育に苦手意識を持つ子どもたちが、チームの中心となって盛り上げる姿もあり、それは一度や二度ではないという。
六角選手自身がBaseball5の魅力を感じた一番理由が”男女混合競技”であることだった。男性と女性が同じフィールド、同じルールで戦えることに強く惹かれたからこそ、全員が主役になれることに強い意義を感じている。
「女の子がすごく楽しそうに参加して、さらに指示まで出していることに先生方が驚かれることは多いですね。一人ひとりに活躍の場があって、みんなが主役になれる。運動が得意な子だけでなく、それぞれに存在感を発揮できるのがBaseball5だと思います」

イベントそして真剣勝負の場でも「笑顔になれる」
Baseball5は子どもから大人まで“誰でも楽しめる”ことが特徴の一つ。野球やソフトボール、さらにはスポーツ自体の経験を問わず門戸が開かれている。
各チームは体験会やイベントを積極的に開催しており、仲間同士だけでなく一人でも参加できるように選手たちは暖かく歓迎している。
「興味はあるけれど、一緒に始める人がいない」「野球やソフトボールをやったことがないので行きづらい」。そんな不安を抱えている人でも、ボール一つから最初の一歩を後押しする。
そして、体験した後に次々に出てくるのは「Baseball5って楽しいんですね」といったポジティブなフレーズである。その要因について以下のように語った。
「Baseball5特有の雰囲気があると思います。コート上では5人でやるので、ワンプレーごとに全員でハイタッチし合いますし、常に声も掛け合う必要があります。コミュニケーションの頻度も密度も濃いので、初対面同士であっても心の距離が近づくのだと感じています」

全力でボールを追い、打球の行方に一喜一憂していると、大人も子どもも瞬く間に夢中になる。
かつて何かに熱中していた頃の感覚がBasebal5を通じて蘇ってくる人もいれば、長らくスポーツへの苦手意識があった人もスポットライトを浴びる。
また、六角選手はBaseball5は「すごく笑顔が多い競技だと思うんです」と続ける。
それはイベントだけでなく、日本選手権や国際大会といった真剣勝負の場でも、コートやベンチで豊かな表情があふれ出ていることから感じたことだった。
年齢や性別そして国境を超え、コート内外問わず笑顔でお互いを尊重する光景にこそ、Baseball5という競技の魅力を垣間見ることができる。
6歳と87歳が同じコートに立ち、生涯スポーツにも応用
このように子どもから大人まで楽しめるBaseball5であるが、生涯スポーツとしても活路が見出されている。
六角選手が21年に創設し、埼玉県加須市を拠点に活動する「5STARs」では、23年は鴻巣市・24年からは地元加須市で「Baseball5 Festival」を主催している。
行政や教育機関と連携し、地域の方々100人以上が参加する大規模なイベント。
昨年は6歳の子どもが打席に立ち、守備に就いたのは87歳と年齢差が80歳を超える人たちが同じコートで一つのボールに熱中した。
「ほかの競技では安全面を考慮すると難しいかもしれないですが、6歳の子が打つ時に87歳の方が守っている光景を見て、『これはBaseball5ならではだな』と強く感じました。
終わってからも年配の方たちのコミュニティが積極的にスポーツをやろうという雰囲気になってると聞いたのですごく嬉しいですね」

事前にチームを結成し出場するよう呼びかけていることから、参加する教員同士が放課後に練習を重ねて臨むなど、地域を活性化する機会として市民に浸透している。
加えてその場で集まったメンバーもチームに参加できる部門を設けており、上述のように一人でも気軽に参加し、新たな絆を育む場も醸成されている。
六角選手をはじめ選手たちは様々な形で魅力を発信するなど、ボール一つで誰でもできるBaseball5。これから一歩を踏み出す方たちに向けて、以下のように想いを伝えた。
「まずは、やってみてもらえたら嬉しいです。体験した後に試合の動画を見て、『こんな動きができるの?』などと知ってもらい、またトライしてみていただければ、どんどん楽しさを感じてもらえると思います。最初は、素手でキャッチボールをするところからでいいので、ぜひコートに立ってみてください」
道具も豊富な経験は必要なく、ボール一つと少しの好奇心があれば始められる。手にボールが当たった瞬間から誰もが主役になれるこの競技には、年齢問わず楽しさと上達の可能性が広がっている。
(了)
