
今年も11月に「第2回全日本野球サミット」が開催される。
2025年11月、中学野球の未来を野球界全体で考えるべく第1回が開催された。全国47都道府県から高校野球・軟式野球・中体連などの関係者が集まり、部活動の地域展開に向けた現状や先進事例を共有した。
それから約1年。実際に地域展開が始まった自治体もあり、新たな中学野球の形が徐々に生まれている。
第2回の開催を前に、公益財団法人全日本軟式野球連盟(全軟連)の吉岡大輔事務局長に、中学軟式野球の現在地や目指すべき姿を聞いた。
(取材 / 文:白石怜平)
いよいよ地域展開がスタートし、見えたものとは?
昨年のサミットでは、部活動の地域展開を巡る国の方針や課題、すでに地域クラブ化を進めている事例が全国の関係者に共有された。
吉岡事務局長は「地域によって進捗はさまざまなのが今の状況です。地域展開が完全に始まったところもあれば、間もなくスタートするところ、まだ準備段階というところもあります」と現況について語る。
この1年で大きく変わったのは「実際に制度が動き始めたこと」。地域によっては行政・教育委員会・競技団体・学校・地域クラブなど、各ステークホルダーがどう連携するかという新たな課題も見えてきた。

その中で何より守らなければならないのが、子どもたちのプレー環境である。
「地域展開されることで、子どもたちの競技機会が失われてはいけません。今までと同じ、もしくは今まで以上に、子どもたちが野球をできる環境を提供していかなければならないと考えています」
そのための仕組みの一つが、都道府県軟式野球連盟における「少年部」の設置である。指導を希望する教員が兼職兼業などによって所属し、引き続き中学野球に携われるよう整備するもので、順次全国の支部へと展開されていく。
この少年部には、指導だけにとどまらない意図がある。
「これから中学野球を支えていくことを考えれば、指導だけではなく大会運営にも関わってもらいたい。中学野球を支えてきた指導者の皆さんにも、運営する側に入っていただくことが少年部をつくる目的の一つです」
地域展開の進行によって、大会運営も今後その形が変わる可能性がある。全中大会では中体連を中心に、都道府県によっては軟式野球連盟と連携する一方、同連盟主催の大会は各地域の連盟が中心となって運営してきた。
また、各地域の軟式野球連盟では役員の高齢化なども進んでいる。
教員が地域の連盟運営にも加わることで、人材不足を補うと同時に、組織を次世代へつないでいくことにもなる。
地域展開は「誰が教えるのか」だけでなく、「誰が中学野球を支えるのか」を見直す機会にもなっている。
「連盟改革でもありますが、中学軟式野球全体の改革にもなり得ると思っています」
この1年で踏み出した新たな一歩の数々
組織の枠を越えて中学野球を支える動きも、少しずつ形になり始めている。
昨年の全日本野球サミットでは、広島東洋カープが地域で進めている学生審判員の養成・派遣について事例が共有された。その広島県では新たな連携が動き出している。
現在、日本野球協議会の中学野球プロジェクトでは、各地域の野球団体が連携する「都道府県協議会」の設置を推進。その一環として、全軟連と日本高等学校野球連盟(日本高野連)の担当者が広島を訪問した。
そこで同じテーブルについたのが、広島県高野連と同県軟式野球連盟だった。
「軟式野球連盟からは、『広島の子どもたちの野球や小中学生の野球を活性化するために協議会をつくりませんか』とお話をしました。そこからスタートを切れた感覚があります」

今後は審判員など競技を支える人材の交流も検討されているなど、立場を越えて知恵や人材を持ち寄って、地域全体で子どもたちの野球環境を支える。昨年のサミットで共有された“横の連携”が、広島で動き始めていた。
そして中学生が野球を始め、続けるための受け皿にも新たな動きが起きている。
学童野球チームが中学生年代のチームを新設したり、一般の軟式野球チームが中学生向けの活動を始めたりするケースも出てきた。その一例が、奈良県の佐藤薬品工業(株)が運営する「さとやくベースボールアカデミー」である。
「企業チームが中学生のアカデミーを設立したことには価値があると思っています。ただ勝つだけではなく、中学校の部活動を尊重しながらその受け皿の一つとして活動する。
中学生が野球を続けられる新たな場所として、こうした取り組みができたことには大きな意味があると思います」
大切なのは、地域や子どもたちのニーズに応じて、持続可能な活動の場をどう整えるか。そのためには、指導者の確保や指導の質の担保にも向き合う必要がある。
そこで全軟連では現在、中学生年代の活動に関する少年部ガイドラインの策定を進めている。
「勝利だけを目的に、成長段階にある子どもたちへ過度な活動や指導を求める環境にはしない。学校部活動が担ってきた教育的な価値を、地域クラブも含めた中学軟式野球全体でどう継承するかも含めて検討中です。
また、活動の目的や運営母体などが異なるチームが同じ大会で競う機会が増える中では、競技としての公平性をどう確保するかという課題もあります。
どのような活動形態であっても、子どもたちが納得して競技に参加できる大会や成果発表の機会をどう作っていくかは、今後の重要なテーマだと思っています」
「中学軟式野球=部活動」から一歩先へ
吉岡事務局長が、これからの中学野球を考える上でポイントに挙げたのが、固定観念を見直すことだった。
「特に中学校の先生方に伝えたいのは、『中学の軟式野球=部活動』と思いすぎている部分があるのではということです」
学校部活動は技術だけでなく、礼儀礼節や時間を守ることなど、人間的な成長を促す教育の場としても長年中学野球を支えてきた。
その価値を残しながら、今後は学校外のクラブも含めて子どもたちを支えていく必要がある。
「中学校の先生も、クラブの人たちも、連盟の人たちも、みんな野球が好きで、野球をプレーする子どもたちのために自分の時間を使っている。それなのに『部活だから』『クラブだから』というだけで手を組めないのは、もったいないと思うんです。
プレーするのは選手です。目の前にいる一人ひとりを大事にして、“みんなで育てる”という価値観をみんなが持っていくべきと考えています」

“スポーツ好き”を育てる「BALANCE IS BETTER JAPAN」への参画
子どもたちを中心にスポーツ環境を考えるという視点は、野球界の外にも広がっている。
全軟連は現在、「BALANCE IS BETTER JAPAN」の活動にも参画している。
全軟連のほか、日本サッカー協会(JFA)、日本バスケットボール協会(JBA)、日本ハンドボール協会(JHA)、日本ラグビーフットボール協会(JRFU)、日本スポーツ協会(JSPO)が競技の垣根を越えて連携。
競技人口を奪い合うのではなく、スポーツ界全体で子どもたちの成長を支え、多様なスポーツに触れながら長く楽しめる環境づくりを目指す活動だ。
吉岡事務局長は、他競技と意見を交わす中で共通する課題を感じているという。
「会議に参加していると、『抱えている課題は野球と一緒じゃないか』と感じました。同じ課題を野球だけで解決するのではなく、スポーツ界みんなで解決した方がいい。野球基準ではなく、スポーツ基準で見ることが重要だと思います」

その先にあるのは、「野球好きを増やす」だけではなく「スポーツ好きを増やす」という考え方だ。
日本野球協議会が実施した「全国中学生アンケート2025」では、中学生になってから野球を始めた選手が全体の34%を占めた。
中学軟式野球は、別のスポーツに親しんできた子どもや、中学生になって初めて興味を持った子どもにとっても、野球と出会う重要な“入り口”となっている。
幼少期から一つの競技だけに絞る必要はない。野球と他競技を同時に続けても、他競技を経験してから野球を始めてもいい。
「BALANCE IS BETTER JAPANは『スポーツ好きを育てよう、増やそう』という想いから発足したものです。今日はラグビーをやりたい、だけど明日は野球をやりたいことを否定しない。そういう世界観をみんなで現実にしていきたいです」
部活動の地域展開も、単に学校に代わる野球チームをつくるためだけの改革ではない。
さまざまな競技に触れながら成長する子どもたちにとって、野球が選択肢の一つであり続ける。そのためにも「スポーツ」という広い視点から環境を考えることが求められている。
第2回は“双方向”なサミットへ
そして11月、2回目となる全日本野球サミットが開催される。
昨年は地域展開の現状や先進事例を“知る”ことに大きな意義があった。それから1年、地域展開は実際に動き出し、各地域が実践の中で課題と向き合い始めている。
今年は一方向的に聞くだけではなく、それぞれの地域が抱える課題や取り組みを持ち寄り、参加者同士で考える場にしていく構想がある。
人口や学校数、行政との関係も異なるため、ある地域の成功例がそのまま別の地域に当てはまるとは限らない。他地域の事例からヒントを得て、「自分たちの地域ならどうできるか」へ落とし込むことが重要になる。
立場や組織の垣根を越え、野球をやりたい子どもたちの環境をどう守り、広げていくのか。
昨年のサミットで共有された課題が実践へと移り始めた今、第2回全日本野球サミットは、それぞれの地域が「次の一歩」を考える場となる。
(了)
