「8割はウエイト、2割が技術」四谷学院が実践する“体を先につくる”新しい高校野球

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2026年秋季茨城県大会で初戦敗退し、練習がオフになった取材日の午後。四谷学院高校野球部の広いグラウンドをほぼ一人で独占し、置きティーを行う1年生部員の姿があった。

左打席から豪快に振り上げ、打球を気持ちよさそうに飛ばしていく。遠くから眺める本村幸雄監督が言った。

「大谷翔平みたいなバレル(スイング)でしょ? あいつの入学の条件は一つ。アッパースイングを直さないことです」

2026年4月に本格始動した四谷学院高校野球部には、明確な目的を持って入学してきた部員ばかりだ。15人の1年生たちが、海の物とも山の物ともつかぬ新チームで野球をすることに決めた理由について本村監督が語る。

「やっぱり環境じゃないですか。 それと1期生なので、自分たちがやることが全部伝統になる。そこは保護者も言っていました」

大会以外は毎日ウエイトトレーニング

9月19日、四谷学院は茨城県秋季大会で初戦敗退に終わった。予定より早く創部1年目のシーズンが終わり、本村監督は部員たちに伝えた。

「この5カ月が勝負だぞ。次に入ってくる 1年生は、もしかしたら技術はお前たちより上かもしれない。でも、お前らは『体、全然ダメじゃん』って言わないとダメだからな」

前編で四谷学院を「通信制高校×予備校×野球アカデミー」と表したのは、野球面の方針について、中南米にあるMLB球団のアカデミーに通じるものを感じたからだ。四谷学院では選手の将来を見据え、体づくりを重んじている(※MLB球団のアカデミーについては、Homebaseの過去記事を参照)。

本村監督は「1、2年生の間は、体を大きくすることが一番大事」と考え、そうしたメニューが組まれている。

平日の練習は14時半から始まり、アップやランニングを含めてフィジカル面に30分間費やす。15時から16時半までは技術練習で、以降の30分は片付け。17時から18時はウエイトトレーニングだ。

「大会の前日以外は毎日ウエイトをしています。土曜に練習試合に行って、早く帰ってきたときもやっています。僕のイメージだと8割はウエイトトレーニングで、2割が技術。トレーニングは各自に合わせ、トレーナーが全部プログラムをつくってくれます」

本村監督が四谷学院に招聘した内田幸一トレーナーは、阪神の村上頌樹や元ヤクルトの青柳晃洋のパーソナルトレーナーも務めている。内田トレーナーが各選手にスクワットやベンチプレスで重量の目標を設定し、推定マックスの数値ともに貼り出している。

さらに2週間に1回、インボディで体組成を計測し、毎月の理想体重や理想除脂肪体重が伝えられる。

栄養&休養の徹底で体づくり

体を大きくするために重要なのが、トレーニングに加えて栄養と休養だ。

食堂では毎週、朝昼晩のメニューが、カロリー、たんぱく質、脂肪、食塩の量とともに貼り出される。ご飯(白米)は490gか690g(お茶碗込み)を自身で量ってよそう。

「残飯ゼロでやっていて、誰かにあげるのはダメ。栄養士が考えてつくってくれていて、全部食べてこそ数値が出る。そう考えられるようになり、今は基本的に残さなくなっています」

2週間に1回の面接では体重の推移を見ながら、トレーナーや本村監督から「補食は摂っている?」などと確認される。プロテインやサプリメントは個人で購入するが、種類や回数はトレーナーからアドバイスされる。

休養に関しては、月曜日は完全オフ。スマートフォンは毎日22時までしか使えず、タブレットは回収される。返却するのは翌朝7時に始まる朝活動の時間だ。

「持たせっぱなしにしていたら、寝なくなるからです。そこは徹底しています」

こうして10代中盤から後半にかけて体を大きくさせていくのは、MLB球団のアカデミーと共通している。高校時代は練習させすぎず、体をつくることが最優先事項だ。本村監督が語る。

「絶対に体が大事です。プロ野球でさえそうです。その大事さをわかっていると、卒業して上の世界に行ったときに自分で取り組めます。高校3年間の経験があれば、何をどうつければいいかがわかってくる。今は外にいろんな施設があるから、自分で行けます。大事なのは絶対に体。技術なんて、後から全部ついてきます」

「長所発揮系」で育てる

文武両道を掲げる四谷学院野球部は基本的に大学進学を目指す一方、野球部が狙うのは「3年後の日本一」だ。

「勝負ごとは勝たなければいけないと思っています。勝つために必要なのは、勝負根性や運です。それらは自分で引っ張ってくるものだから、大事にしないといけない。でも、勝利至上主義だけはしたくない。例えば勝つために、野球だけやっているなんて絶対にあり得ない。勝つことも勉強も、人間育成も大事。 全部ちゃんとやる。100%ちゃんとやれた先に、勝てるんじゃないのというのが僕の勝手な考えです。100%やることが、一番大変なので」

秋季大会は初戦敗退に終わったが、本村監督は創部半年間を「順調に進みすぎていて怖い」と言う。部員たちの意識が確実に高まっているからだ。

「ミーティングで負けた理由を話し合うと、『生活面だろう』という反省が出てきます。『もちろんあそこで打てなかったのはダメだけど、その前に俺たち、100%で生活できてなくない?』というミーティングができている。だから、『こいつら、ちゃんと強くなるな』というイメージがあります。そんなこと、普通の学校では絶対に言わないと思うので。僕が持っていきたい方向に行っています」

試合で負けた後、指導者はなぜダメだったかを指摘しがちだ。

だが、本村監督はそうした言い方はしないという。

「ダメということではなく、あくまで課題です。課題は乗り越えていけばいい。いいところは伸ばしていく。悪いところはできるだけ消せばいいけど、それに特化してはダメ。 いいところがなくなってしまうので。

僕は長所発揮系で指導します。野球では、『できないことを一生懸命やってもしんどいから、できることを伸ばして、お前の個性をつくらない?』というやり方をしています。なので、役割分担が必要です。代走に出たら、絶対に走れるとかですね。この5カ月で、『自分は何ができるの?』というものを見つけなさいと伝えています」

四谷学院野球部のアプローチは、伝統的な高校野球とは大きく異なる。まずは個々を伸ばし、その集合がチームになるという考え方だ。 

四谷学院で独特な取り組みに一定の成果が表れれば、アメリカやプエルトリコの「スチューデントアスリート」と同じように、日本でも文武両道の新たな選択肢になっていくかもしれない。

(文・撮影/中島大輔)

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