【野球人リレーコラム】54個の95%以上を占める4つのアウト


第8回執筆者:小山 克仁 (アジア野球連盟審判長)


審判員になったころ、新しいルールブックを手にしたら、「はしがきから3度読みなさい」と先輩から教わりました。

 「公認野球規則2025」の「はしがき」は、次の一文で締めくくられています。


 「最後に、公認野球規則書には、野球がスポーツとして、公平な精神とスポーツマンシップを重んじ、選手・審判員・観客が共に楽しむためのものであること、また、フェアプレーの精神を尊重し、ルールに従ったプレーと審判員・相手チームへの敬意が書かれていることを忘れてはならない」


野球は複雑なスポーツです。予想外なことが起きるため、その一つ一つに対応しているうちに、野球規則は200ページを超える「事例集」になってしまいました。

 

ただ、選手の皆さんには、シンプルに野球を楽しんで欲しいと思います。

 

野球のルールの起源は1845年にできた、いわゆる「ニッカボッカーズ・ルール」と言われています。アレクサンダー・カートライトが制定したのは20項目ほど。

「1チームの人数は9人」、「3アウトで攻守交代」、「打者が3球空振りして3球目を捕手がキャッチしたらアウト」、「打球をノーバウンド、またはワンバウンドでキャッチしたらアウト(のちにワンバウンドは廃止)」といった現代に引き継がれている基本的な項目です。

 

現代野球においても、①三振、②フライアウト、③フォースアウト、④タッグアウトの4つが1試合54個あるアウトの95%以上を占めています。

 

4つのアウト以外の代表例は妨害ですが、誰に優先権があるかを考えれば、答えは簡単に出ます。

投手が投球動作に入る前は五分五分ですが、投球動作に入ったら投手に優先権がある。投手が投げた瞬間から今度は打者優先になり、打者が打った瞬間から次は守備優先。守備側が打球を処理して送球したら、五分五分に戻る……。

 

いかがでしょうか。この優先権を考えることも、相手を尊重する野球の基本精神なのです。

 

事例集として膨大になった野球規則の中には、もう必要ないと思われるルールもあります。「走者アウト」の5.09b(10)がそうです。


5.09b(10) 走者が正規に塁を占有した後に塁を逆走したときに、守備を混乱させる意図、あるいは試合を愚弄する意図が明らかであった場合。この際、審判員はただちにタイムを宣告して、その走者にアウトを宣告する。

 

1911年に大リーグで実際にあったプレーをもとに明文化されました。戒めのルールとして、野球の品位を保つために残っているルールです。

 

日本では「野球」という日本語訳を初めて使った中馬庚が、1895年にアメリカでインフィールドフライのルールができたとき、「簡単に捕れるフライをわざと落として2つアウトを取ろうと考える者は、うち(旧制一高)にはいない」と採用しなかったという逸話もあります。

 

さあ、野球シーズンがいよいよ本格化します。シンプルに、気持ちよくプレーしましょう。

プレーボール!



こやま・かつひと

1961年、神奈川県出身。法政二高で内野手として活躍し、法大では3年から学生コーチを務めた。海老名市役所に勤務しながらアマチュア野球審判員となり、東京六大学野球や春夏の甲子園大会、都市対抗大会でジャッジし、2000年シドニー五輪にも参加した。アマチュア野球規則委員会副委員長。


2025年度 公認野球規則の改正等について

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