少子化と野球人口減少が同時に進む現在、どのようなチームや指導が求められているのだろうか――。
5月29日、株式会社ユーフォリアで同社の橋口寛代表取締役社長と株式会社ノッティングヒルの荒木重雄代表取締役によるオンラインイベント「プレーヤーズセンタードなチームのつくり方」が開催された。
「野球一強」の終焉。2004年を境に変わるスポーツ環境
「野球人口減少」がさけばれて久しいが、なぜ、どのように減っているのか。両氏が最初に投げかけたのは、2004年を境に我々は「真逆な世界」を生きているという指摘だった。
日本の総人口がピークを迎えたとされる2004年。その前後を比べると、以下のように形容できる。
【〜2004年】
戦後の人口増、高度成長、バブル。
人口が積分のように積み上がり、野球は「野球狂の時代」で裾野を広げ続けた時代。
地上波で常に巨人戦が放送され、”みんなが野球をやる”前提が成立していた。
【2004年〜】
人口は減少局面に入り、人口ピラミッドが「まったく違う国」のかたちへ。
Jリーグ発足、ラグビーW杯、卓球・バドミントンなどスポーツの選択肢が爆発的に広がり、野球一強の時代は終わった。
“昔と比べて減っている”議論は、もう成り立たない世界に来ている。
野球人口減少の裏側にある「習い事化」
「野球人口減少」と言われるが、世代別にはどんな傾向があるのか。日本野球協議会の普及振興委員会による「野球普及振興活動状況調査2024【報告書】」を参照すると、以下のように整理できる(同調査では、2007年から2023年までの各団体の登録選手数を発表)。
【伸びている領域】
・中学硬式:特に目立つのがポニーリーグで、1326人から3587人に増加(※2008年から2023年のデータ)
・女子野球:全国大会・実業団化が進行。硬式の登録人数は1519人から2937 人に増加(※2015年から2023年のデータ)
・大学野球:体育会の就活価値も追い風。硬式は2万146人から2万8252人に
・還暦・生涯スポーツ:シニア層の拡大。還暦野球は9000人から9620人に(※2010年から2023年のデータ)
【縮小している領域】
・中学軟式:部活動の縮小&環境変化。30万5300人から12万9454人に
・小学校 学童軟式:少子化と習い事化で大幅減。29万9360人から16万2380人に
・高校野球:部員数の継続的減少。硬式は16万8501人から12万8357人に
・チームスポーツ全般:サッカー・剣道・柔道など
以上のデータから見えるひとつが、「野球の習い事化」が進み、「遊びの野球」が減っているということだ。これは時代の変化とも大きく関係していると考えられる。
一方、野球を始めた選手は上の世代まで続け、大学野球の部員数は増えている。そう考えると、重要になるのが「継続率」をいかに高めていくのかだ。
4割が「野球をやめたい」。問われる指導のあり方
その意味で、現在の野球界における“問題点”を示唆するデータがある。
日本野球協議会の普及振興委員会による「全国中学生アンケート2025」を参照すると、「野球をやめたいと思ったことがある」という選手が39%存在するのだ。その理由で上位を占めたのが以下だった。
・練習が辛い 31%
・指導者と合わない 26%
考えられるのは、勝利至上主義やスパルタ式、上意下達など“昭和型”の指導が、令和の子どもたちには合わなくなっているということだ。子どもたちの気質は大きく変わっており、指導者やチームにもアップデートが求められる。
一方、「高校でも続けたい」とした中学生は48%。半数の中学生は野球を続けたいと考えており、野球界として重要になるのが「中学から高校への接続」をどうするのか、だ。
そこで荒木氏が指摘したのは、「ユース世代は成長期と位置づけると、『野球も個人競技』なのでは」という発想の転換だった。
「野球も個人競技」へ。選手が主役のチームづくり
荒木氏は2023年4月、故郷の群馬県桐生市で桐生南ポニーを立ち上げた。ビジョンに「『日本一の成長環境』を目指し、常に全国で戦えるチーム」を掲げ、中学野球のアップデートを目指している。
チームの理念は「主体性を重視し、徹底的に“愉しむ”。楽をする楽しみではなく、できないことができるようになる愉しみ」。
ミッションは「野球を通じて、その先の長い人生を生きる人間力を育む」。
以上のチーム方針に加え、閉校となった旧桐生南高校の跡地を活用、法人化してのチーム運営、さらにスポーツ科学の導入など独特のアプローチを行い、“新時代の中学硬式野球”として注目を集めている。
2026年春時点の所属選手は94人、そのうち県外・市外比率は70%。従来のチームとは異なる環境を整えているからこそ、選手や保護者に選ばれているのだろう。
桐生南ポニーにはコーチやスタッフが18人在籍し、手厚いサポートを実現。51社の協賛企業とともに地域との共創を実現しているのも、新たなモデルと言える。
「やらせる野球」から「やりたくなる野球」へ
チームのあり方に目を向けると、桐生南ポニーが掲げるのは“主語の転換”だ。
従来の中学野球は「このチームで勝とう」と、チームありきで考えられてきた。簡潔にまとめると、以下のようになる。
・チームが主役で、選手はそこに属する
・チーム練習が量と時間の中心
・“全国大会で勝つ”が最大の動機づけ
・成績が出ない選手は出場機会が限定される
・結果として、早熟が圧倒的に有利になりやすい
対して、桐生南ポニーが重視するのは「個人」だ。「一人ひとりが、いかに育つか」を追い求めている。
・選手が主役で、その集合体がチーム
・スキルは個別にアカデミー型でつくる
・週末にチームを組成し、試合で経験を積む
・全員が試合に出る前提(リエントリー活用)
・早熟も晩熟も、同じだけ機会を得られる
先述したように、論点となるのは「中学から高校への接続」だ。「高校3年間=人生の滑走路」と考えると、「中学3年間=“人生の滑走路”への準備期間」と言える。そこで上記のように「個人」を中心に考え、一人ひとりをいかに伸ばせられるかと考えているのだ。
以上のように踏まえると、チーム運営者の役割も従来とは変わってくる。
・指導→環境の提供(成長支援)
・感覚と経験→データによる可視化(ラプソード、インボディなど)
・アナログ運営→DX活用による効率化(運営ツール=Sgrumの活用)
その一例として紹介されたのが、「やらせる野球ではなく、自らやりたくなる野球」の実現だ。具体的にはデータを活用し、「“主人公・自分”を可視化する」ことで成長を促している。
▼ KYUTO Level Up Chart

コンセプトは「ゲームの主人公は『自分』。前回と今回の測定値の変移をレーダーチャートで可視化し、選手自身が“自分のレベル”を確認しながら、成長そのものを愉しむ仕組み」。
【測定機器・項目】
・ラプソード(ピッチング/バッティング)→球速・回転数・打球速度・打球角度
・Dropbox・Doblo 連携→映像/動作データの蓄積
・インボディ(体組成計)→体重・体脂肪率・筋量の推移
・フィジカル測定→ジャンプ・スプリント等の基礎能力
*月1回の定期測定→レベチで「自分の伸び」を実感→練習の動機づけに直結
以上のような取り組みで、中学野球のアップデートに取り組む桐生南ポニー。
荒木氏は最後にこうメッセージを寄せた。
「中学3年間は、人生100年のうち、わずか100分3。しかし、その後の長い人生の “滑走路に乗る前フェーズ”。ここで何を学ぶかが、野球そのものではなく、人生全体の基礎をつくる」
野球を通じて、何を学んでいくのか――。
令和の時代に求められるものを、改めて考えさせられる時間だった。
(文:中島大輔)
株式会社ユーフォリア
ユーフォリアは「人とスポーツの出合いを幸福にする」をミッションに、スポーツの課題をテクノロジーで解決するスポーツテック企業です。スポーツ選手のコンディション管理・ケガ予防のためのSaaS型データマネジメントシステム「ONE TAP SPORTS(ワンタップスポーツ)」、スクール・部活動のための運営管理アプリ「Sgrum(スグラム)」、各種団体のためのグループコミュニケーションサービス「らくらく連絡網+(プラス)」などを開発・提供しています。さらに、これまでスポーツ界で培ってきたノウハウを生かし、一般企業のビジネス課題を解決する事業も推進中です。
本社 :東京都千代田区麹町4-8-1 麹町クリスタルシティ東館10階
設立 :2008年8月18日
代表者 :代表取締役社長 橋口 寛
事業内容:スポーツ領域における ITソリューション提供(コンディショニング管理・各種データベース開発・コンサルティング)、スポーツマーケティング(戦略構築・商品企画・実行支援)、スポーツデータサイエンス、臨床研究支援、健康経営支援
URL:https://eu-phoria.jp
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