
8月15日・16日の2日間、韓国・ソウルで開催された「WBSCバーチャルカップ2026 ワールドファイナル」。
実際に飛んでくるボールを打ち、その結果が画面上のフィールドへ反映される“バーチャル野球”は、リアルな打撃とデジタル技術を融合させた新たな競技として、世界各国へ広がり始めている。
日本代表として本大会に出場したのが土屋剛さんと四方田隆聖さん。共に初参加である2人はグループリーグを突破し、ノックアウトステージへと駒を進めた。
後編では大会での戦いぶりにフォーカスし、四方田さんに2日間を振り返ってもらった。※全2回のうち2回目
(取材 / 文:白石怜平、Photo credit: morpheus0416)
初戦で崖っぷちも、観察で即修正を図る
日本代表のグループステージ初戦は、大会4試合目に組まれたサウジアラビア戦だった。2人は日本戦の前にそれまでに行われた3試合を見ており、四方田さんは「こんなにも難しいのか」と感じていた。
と言うのも、各国の選手が思うようにボールを捉えられず、0−0もしくは1−0といったロースコアの展開が続いていたからだ。
そしていざ自身が打席に立つと、その難しさを身をもって知ることになる。
「私の1打席目は三球三振でした。全然球に当たらなかったです。僕も土屋選手も最初の打席で三振してしまって。『これはまずいのではないか』という焦りはありました」

試合は最後まで得点を奪うことができず、0―1で敗戦。各グループ3チームのうち上位2チームがノックアウトステージへ進むため、初戦を落とした日本は早くも後がない状況に追い込まれた。
初戦の後、2人はこの競技で勝つための方法を改めて考えた。その一つが、“とにかく三振をしない”ことだった。
バーチャル野球では、実際の野球とは異なる走者の進み方をする場面がある。四方田さんたちは試合を見ながら、先頭打者が出塁して三振せずにボールを前へ飛ばし続ければ、得点できる可能性が高まることに気付いた。
「先頭打者が何らかの形で塁に出れば、点がつながるのではないかという話は土屋選手としていました。三振さえしなければ前に飛ばすことで走者を進められるので、1イニングにヒットが2本出れば点になるようなイメージです」
もう一つ、2人が参考にしたのが開催国・韓国の選手たちのアプローチだった。打席での姿を観察し、自分たちも即座に取り入れた。
「韓国の選手たちがバッターボックスのかなり後ろに立っているのを見て、僕らもとにかく距離を取ろうと。あとはフルスイングというより、とにかく当てる。ツーストライクになったら絶対に三振しないようにと対策を練りました」

前回世界王者から挙げた1勝で次のステージへ
3試合を挟んで同日に行われたグループステージ第2戦。相手は前回大会を制した韓国の「Defending Champion」だった。
選手2人はいずれも韓国の独立リーグでプレーした経験を持ち、今大会でも優勝候補の一角と目されていた。実際にこの後、ノックアウトステージを勝ち上がって大会連覇を果たすことになる。
初戦を落としている日本は、この試合に敗れればグループステージ敗退が決まる中、世界最強の相手と対することになってしまった。
その状況で先制を許した日本代表。しかし、初戦後に考えた対策がすぐさま結果に表れる。
1点ビハインドで迎えた3回表、2アウトから四方田さんがヒットで出塁すると、土屋さんに打席が回ってきた。
「本当に最後、頼むという感じでした」
土屋さんが捉えた打球は、スクリーン上のスタンドへ飛び込んだ。
この一打は今大会全試合を通じて唯一の本塁打だった。日本はそのリードを守って逆転勝利を収め、後に世界一となるチームへ唯一の黒星をつけた。
「すごく自信になりましたね。1試合目から2試合目までに振り返って、対策したことがうまくハマった感じでした」

初戦では三球三振から始まってまさかの敗戦だったが、ここからわずかな時間で相手の戦い方を研究し、自分たちなりの攻略法を見つけ出し世界王者を破った。
競技経験がほとんどなかった日本代表にとって、大きな手応えを得る1勝となった。
高校生で構成された韓国チームとノックアウトステージで対戦
1勝1敗となった日本は他チームの結果を受け、各グループ上位2チームが進むノックアウトステージへの進出を決めた。
翌16日に対戦したのは、韓国の「HMDtrio」。2人はいずれも18歳の高校生で、Wildcardでの出場だったが、約6万人が参加した7月の国内予選で準優勝の実力者である。
試合は相手に先制点を許すと最後まで逆転できず0-2で敗戦。初めて挑んだ2人のバーチャル野球2026は、ノックアウトステージ初戦で幕を閉じた。
「悔しかったですし、終わってしまったな…という感じがありました。3イニングなので、一試合も20・30分くらいで終わってしまいますし、本当にあっという間でしたね」
HMDtrioはそのまま決勝まで進み、最後はグループステージで日本が破ったDefending Championと対戦。Defending Championが勝利し、大会2連覇を果たした。
四方田さんと土屋さんは、HMDTrioの2人とは前日練習から交流を重ねていたという。体格こそ大きくなかったものの、スイングの美しさや野球への情熱が印象に刻まれていた。
「2人ともすごく野球が好きなんだなと感じましたね。今後、野球においても韓国でスター選手になる可能性を秘めていると思うので、今後活躍を聞くのが楽しみです」

国際大会で感じた「日本野球」への期待
今回が自身初の日本代表として臨んだ四方田さんにとって、日の丸を背負った経験は、競技の勝敗以外にも多くのものを残した。
その一つが、海外の選手たちから日本野球へ向けられる関心の高さだった。
「日本が世界ランキング1位ということもあって、他の国の選手たちからすごく期待されていると感じました。『甲子園に出たことがあるの?』と聞かれたり、日本の野球を知ってくださっている選手も多かったです」
大会には8カ国・地域から選手が集まり、前日練習では国を越えてアドバイスを送り合い、大会後にはSNSでもつながった。
WBSCが大会中の様子をSNSで発信すると、四方田さんの元にも日本の野球仲間から「そんな大会があるんだ」「できるならやってみたい」といった反応が届いたという。
「興味を持ってくれる人はすごく多いんじゃないかなと感じました」

まだ日本では馴染みの薄い競技だけに、日本代表が世界大会に出場したこと自体が、バーチャル野球を知ってもらう一つのきっかけにもなった。
さらに本大会を経験したことで、四方田さんはバーチャル野球が日本の野球普及にも活用できる可能性を感じていた。
世界大会では難易度の高い設定が使用された一方、機材では球速や難易度を変更できる。日本で事前練習を行った際には、設定を下げることで初心者でもヒットやホームランを打ちやすくなると感じていた。
「小さいお子さんや、野球に興味を持っている初心者の方には、『野球で打つことって楽しいんだよ』というのを伝えられるのではないかと。
そこから実際に野球をプレーしたいという気持ちにつながってくれれば、すごく魅力のある競技になってくると思うんです」
バット一本で気軽にプレーできるのがバーチャル野球の特徴だが、さまざまなきっかけで一度野球から離れた人でも、もう一度野球熱を呼び覚ます可能性も秘めていると考えている。
「今後この機材が日本で普及して、国内大会や予選が行われるようになれば、一度野球をリタイアした方でも楽しめると思います。全世代、性別も関係なく楽しんでもらえる要素が詰まっていると感じますね」

新たな競技者を増やすだけではなく、“もう一度野球に戻ってみたい”という人も増やしていく。競技人口減少という課題に向き合うBFJにとっても、新たな野球普及の形になりうる手段を体感で得たのだった。
世界で得た経験を、次の野球普及へ
四方田さんはバーチャル野球について「ビジネスチャンスもあるのではないか」と感じたと語った。
施設とテクノロジーを組み合わせ、誰でも気軽に野球へ触れられる環境をつくる。猛暑によって屋外でスポーツを行う難しさが増す中、屋内で楽しめることも今後の強みになり得ると考えている。
そして何より大きかったのは、初めての国際大会で世界各国の野球人とつながった経験だった。
「他の国との関わりやコミュニケーションはすごく大事だと思いました。その横のつながりも含めて、世界的な野球の普及にも取り組んでいけるのではないかとも考えています」

子どもが初めてバットを握る入口にも、一度野球を離れた人が再び戻ってくる場所にも、さらには国境を越えて人と人がつながるきっかけにもなり得るバーチャル野球。
日本代表として世界各国の選手と競い合った四方田さんの経験は、リアルとデジタルが交わる新たな競技の姿とともに、これから野球と人をつなぐ可能性を示している。
(了)
