「球数制限」だけでは不十分。投球障害を防ぐ4つの視点

今季、NPBで最もハイパフォーマンスを見せている投手の一人が西武の平良海馬だ。先発マウンドに上がる前、自身に課しているミッションがある。

100球でどれだけ失点を抑え、長いイニングを投げられるか、だ。

平良が“100球勝負”と考える裏には、明確な根拠がある。

「野球は『シーズンスポーツ』だからです。だいたい100球を投げたら交代し、次の試合でいかにいいパフォーマンスを出せるか。それを繰り返しながら、シーズントータルでどんな成績を残せるかが大事だと思います」(週刊ベースボール2026年8月31日号より抜粋)

プロ野球の先発投手は基本的に週1回登板し、1年間、試合をつくり続けることが求められる。それを繰り返すための“目安”が、1試合で100球という球数だ。

プロより多く投げる高校球児

対して高校野球では、1試合でプロの投手以上に投げる者も珍しくない。

今夏の甲子園大会では、履正社の木村颯が2回戦の享栄戦で167球を投げて完投した。天理の長尾亮大は3回戦の高川学園戦で、158球を投げて完投勝利を飾っている。

高校野球は負けたら終わりのトーナメント戦で行われることもあり”投球過多”になりがちだが、しばしば議論を呼んできた。

はたして発展途上の高校生に、プロの投手より多い球数を投げさせてもいいのか――。

10年ほど前からそうした声が強まり、2025年に正式ルールとして採用されたのが「球数制限」だ。日本高校野球連盟は「1週間で500球以内」と定めている。

中学野球は連盟によって異なり、「1日最大70〜100球、または7イニング以内」だ。

学童野球では、一般の小学生は「1日70球以内・1週間210球以内」、4年生以下は「1日60球以内・1週間180球以内」と全日本軟式野球連盟は規定している。

成長途上の投手たちに、投球障害の予防が必要なことは間違いない。そこで導入されているのが「球数制限」だが、それだけで本当に十分なのだろうか。そう指摘するのが、整形外科専門医で「ベースボール&スポーツクリニック」の理事長を務める馬見塚尚孝医師だ。

「材料工学(物質の疲労や破壊を研究する学問)やコーチング学などさまざまな分野を勉強してきたら、単純に球数制限だけが投球障害の予防ではないということがわかってきました」

投球障害には5つのリスク要因がある

馬見塚医師によれば、投球障害には5つのリスク要因(ペンタゴン)があるという。

(1)投球数
(2)投球強度
(3)投球動作
(4)環境要因
(5)個体差

投球障害の予防には上記5つを考慮する必要があるが、実行するには以下の4つの視点が重要になると馬見塚医師は語る。

ひとつ目は、「主体は選手・コーチ」であるということだ。

「障害予防は、トレーナーの仕事だと思っている人が多くいます。でも、どんな練習をしてどう戦っていくかを決めるのは現場の選手と監督、コーチです。つまり選手や監督、コーチが予防法を理解し、こうやっていこうと全力で取り組んでもらわないと予防はできません」

試合や練習での起用や行動を決定するのは、監督や選手だ。つまり障害予防も、当事者自身が必要性を理解して取り組まなければ実行できない。

ふたつ目の視点は、「内発的動機付け=自己決定の尊重」。コーチング学に基づく考え方だ。馬見塚医師が続ける。

「コーチの一番大事な仕事は『安全管理』で、二番目が『選手のやる気を出すこと』です。選手のやる気を出すためには、どうしたらいいか。リチャード・ライアンとエドワード・デシの『自己決定理論』では、『自己決定してもらわないと、やる気は出ない』とされています。コーチが『これをやれ』と命令するのではなく、選手がどうやりたいかを聞いていくしかない。コーチングの進化が、投球障害の予防にも必要です」

「予防」と「競技力」をどう両立するか

3つ目は「競技力との両立」。

「競技パフォーマンスの上がらない予防は、誰にも選択してもらえません。100%の予防をするなら、何もしないのがいいとなるので。投球障害予防と競技力の向上をどう両立するか。我々のような医療者と、現場のコーチが一緒に考えていく必要があります。逆に言うと工藤公康さん(元ソフトバンク監督)や吉井理人さん(現楽天監督)のように、現場の方がコーチング学や医療の知識を学びに来る必要性があります。コーチの椅子に座っているだけでは、予防はできないということです」

4つ目は「心的外傷後成長」という考え方だ。アメリカの心理学者リチャード・テデスキとローレンス・カルホーンが提唱したもので、「『トラウマティック』な出来事、すなわち心的外傷をもたらすような非常につらく苦しい出来事をきっかけとした人間としてのこころの成長を指す」(日本女子大学心理学科オリジナルWebページより)。馬見塚医師が説明する。

「選手に『手術したほうがいいですよ』と言うと、なかには泣き崩れる人もいます。でも捉え方を変えると、手術すれば大学進学後に勝負できる。そういう意味では“チャンス”です。起こってしまったケガに対して、捉え方を変えてもらう。そうすれば次に同じような困難にあたったとき、『あ、切り替えればいいんだ』という考え方になります」

ケガそのものは望ましいことではない。しかし、その経験を通じて考え方や行動が変わり、人として成長することがあるということだ。

以上が馬見塚医師の提唱する、野球の障害予防を考える際の4つの視点だ。

「この4つの視点を持つことで、選手やコーチが無理なく継続できる障害予防の仕組みをつくれるのではと考えています」

そのうえで考えるべきは、投球障害にはどんな要素が関わってくるのかということだ。

*次回に続く

(文/中島大輔・改編/馬見塚尚孝)

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