
2027年5月に開催される、国際総合スポーツ大会「ワールドマスターズゲームズ2027関西」。
競技ごとに定められた参加年齢などの条件を満たせば、過去の競技実績や代表選考にかかわらず出場できる、すべての人に開かれた世界大会である。
野球では硬式野球と軟式野球の両方が展開され、挑戦してみたい気持ちがあれば世界の舞台に立つ機会が用意されている。
大会の関西誘致に尽力した長ヶ原誠氏(神戸大学 大学院 人間発達環境学研究科 教授)は、この大会が日本の野球界そして野球人に新たな目標をもたらすと考えている。
後編では、硬式野球と軟式野球が大会で実施される意味や大会後に日本の野球界へ残していくべきレガシーなどについて語ってもらった。※全2回目のうち2回目
(取材 / 文:白石怜平、写真:長ヶ原氏提供)
野球人にとって“目標にできる国際舞台”
日本の野球界で「世界大会に出場する」といえば、各カテゴリーでの“侍ジャパン”が思い浮かぶ方も多いだろう。
ただ、そこに立てるのは選考や甲子園などの全国大会で実績を挙げた一握りの選手。野球が好きで一生懸命打ち込んだ経験があっても、多くの人にとって国際大会は「観るもの」「夢の世界」と位置付けられる。
ただ、ワールドマスターズゲームズはその前提を大きく変えてくれる存在だ。
長ヶ原教授は、野球人そして大会評議員双方の立場を踏まえて参加する意義を述べた。
「我々野球人は、目指す舞台に向けて一生懸命に頑張ってきた人たちだと思うんです。高校野球であれば、多くの選手が甲子園を目指しますよね。
各カテゴリーを卒業すると目指す舞台が無くなってしまうと思うのですが、ワールドマスターズゲームズは、その目標にできる国際舞台なんです」

長ヶ原教授が創設した「マスターズ甲子園」も、かつて高校野球に打ち込んだ選手たちが出身校別の同窓会チームを結成し、再び甲子園を目指す大会して始まった。
目標となる舞台があれば、もう一度仲間が集まって白球を追いかけるきっかけが生まれ、再び勝利を目指して絆を深めることもできる。
その舞台が国境を越えて広がるのが、ワールドマスターズゲームズである。
「野球に一生懸命取り組んだ時間は、長い人生で考えれば決して長くないと思うんです。でも魂や情熱は、野球人の心に確かに宿っているはずだと。
この大会はもっと広い世界で、かつ人生の中でも長く野球を楽しめる舞台でもあります」
軟式野球の国際化を前進させるきっかけに
関西大会では、野球競技として硬式野球と軟式野球の双方が展開される。
硬式野球の開催は、学生時代などで本格的に取り組んだ人が年齢を重ねてからも熱中して本気で競技を続けられる場となる。
一方で軟式野球は日本で生まれ、全国各地に幅広く定着している。働きながら休日にプレーする人や競技志向のチームに所属する選手、仲間と草野球を楽しむ人まで、その裾野は広い。
長ヶ原教授は、両競技が行われる価値をこう表現した。
「硬式野球にはこれまで競技に打ち込んできた人がもう一度チームを組んだり、当時の情熱を再び持って臨める意義があります。
それに対して軟式野球は、日本では生涯スポーツとして広く根づいていますが、国際的にはこれから広げていく余地がある。関西大会は、日本発祥の軟式野球文化を世界へ発信する機会にもなるんです」
ワールドマスターズゲームズでは、開催地のスポーツ文化を生かした競技を採用できる。関西大会でも軟式野球に加え、ゲートボールやソフトテニスといった日本発祥のスポーツが組み込まれている。
二つの野球を実施することには、日本の野球文化をより世界的に発展させたい想いが込められていた。
また、自身が立ち上げた「マスターズ甲子園」の参加者を見てきた中でも、目標を持ったことをきっかけに、生活そのものが良い方向へ変化する例は多かったという。
「目指す舞台ができれば、身体をつくり直したり練習を始めたりします。スポーツを『する』だけではなく、競技について知見を深めたり食事を考えるといった行動にもつながっていく。もう一度目標を持つことで、生活の中にさまざまな変化が生まれるんです」
マスターズ甲子園としても、17年にニュージーランドで行われたワールドマスターズゲームに出場した経験がある。マスターズ甲子園のサポーターたちで構成したメンバーで海外のチームと対戦し、銅メダルを獲得した。

17年大会で銅メダルを獲得したマスターズ甲子園のナインたち
その時の経験も長ヶ原教授にとって、実りある経験となっていた。
「普段はメジャーリーグや国際大会を見ている側ですが、自分たちでチームを組んで、実際に世界の選手と対戦できる。これは野球人にとって、とても大きな経験になりますよ」
大会を支える側も、国際化に向けた一歩に
ワールドマスターズゲームズから進める野球の国際化は、参加する選手だけにとどまらない。
審判や競技運営スタッフ、ボランティアなど、サポートといった“支える人”たちも国際大会に出場する同志である。
国際大会を行うにあたっては、支える側のメンバーは海外の選手を迎え、参加国が持つ野球文化やルールの考え方に触れる機会になる。その経験は、27年の大会が終わった後も、日本の各地域や大会運営の現場に持ち帰ることができる。
長ヶ原教授は世界基準の運営を行うことによる今後の可能性も挙げた。
「日本の野球界では、国際試合を担当した経験のある審判はまだ多くありません。ワールドマスターズゲームズをきっかけに、審判の国際化を進めることもできます。選手だけでなく審判や大会関係者、メディアを含めた“支える側”も生涯化と国際化を進めていく必要があります」
大会の先に残したい“レガシー”
ワールドマスターズゲームズ2027関西の開催は、ゴールではなくリスタートの機会であると長ヶ原教授は捉えている。
開催地ではこれまで、本大会に向けたプレ大会や機運を醸成するための催しが行われてきた。そこで築かれた運営体制や地域のネットワークを、大会後も地域のスポーツイベントとして活かし続けていくことが重要になると考える。
「大会を開催するために、各国・各地の人たちも労力と時間をかけて準備してチームをつくります。それを一度限りで終わらせず、開催地のレガシーイベントとして続けていく。地域の人たちが次に目指せる舞台として残していくことが大切です」
関西大会で結成したチームが再び海外のマスターズ大会を目指す。日本へ来てもらうだけでなく日本の選手が世界各地へ進出し、野球を通じて交流を続ける、そんな世界観を描く長ヶ原教授。
上でも述べた“レガシー”をキーワードに掲げ、抱く未来をこのように言葉にした。
「来年の関西大会は、参加した人たちにとって“同窓会の始まり”でもあります。関西で世界デビューをして、そのチームで次の世界大会へ行く。それが参加者側に残るレガシーになると思います」

来年、四半世紀越しに実現する日本そして関西での開催。長ヶ原教授はその想いを込めたメッセージを最後に寄せた。
「まずは大会について知っていただきたいです。そして、登録すれば世界デビューができます。皆さんが続けてきた野球というスポーツで、ぜひ世界デビューをしてください。私たちも、その思い出づくりを全力でサポートします」
再び仲間と集まったり、己の身一つでユニフォームを着て世界各国から参加した選手たちと絆を深め合うワールドマスターズゲーム。
野球人生の新たな1ページを刻む舞台が、2027年の関西で待っている。
(了)
