【スポーツマンシップを考える】ルールとの向き合い方を考える(前編)


フィールド外におけるさまざまなルール


2025年1月28日、日本学生野球協会の審査室会議は、東京の私立高等学校野球部の監督に対して無期謹慎処分を決定したというニュースが報じられた。

これは、日本高野連が規定する「高校野球部における中学生練習参加規定」および「中学生との接触ルール」に違反したためである。ルールについて認識していながら、必要な正式手続きを取ることなく中学生を高校に呼んで練習させたり、禁止されていると知りながら中学生宅を訪問したりしていたという。

これらのルール違反が複数年度にわたり、対象人数も多かったことから、2024年10月5日を遡及開始日とする無期謹慎という重い処分が科された。


また、2024年シーズンから日本野球機構(NPB)および各球団が新たに策定したルールにより、観客を対象としたプロ野球の撮影・配信等に関する規制が導入された。

「配信・送信行為は球場内に限られない」、「ボールインプレー中の選手の写真・動画を不特定多数が見るSNSで配信する行為の禁止」、「営利目的での配信は禁止」、「選手・観客・チアリーダーなどの身体の一部を拡大・強調して撮影する行為を禁止」、「ID等の個人情報が写る撮影は禁止」といった内容である。

このルールは公式戦・オープン戦・一軍・二軍を問わずすべての試合に適用され、観客には禁止事項に従う法的義務が生じるとされている。


新ルールの主な目的は以下の3点に集約される。


①営利目的の無断配信など、プロ野球コンテンツの不正利用を防止すること

②選手や審判への誹謗中傷を防止すること

③売り子・チア・観客などへの迷惑行為を抑止すること


試合の撮影はこれまでどおり原則可能であり、家族や友人との共有も問題ない。

対象は入場券を購入して観戦する公式試合に限られ、キャンプや練習試合などは含まれない。各球団が独自に定めるルールにも従う必要がある。


主に規制されるのは、広告収入を目的とした動画配信や、誹謗中傷・プライバシー侵害といった悪質なケースである。

違反者には退場や出入り禁止の措置が取られ、異議申し立てはできない。なお、試合中継の放送映像をインターネット等に投稿する行為は、このルールの対象外であっても著作権法違反にあたり、厳しく禁じられている。



野球のルール、スポーツのルール

 

ルールとは、社会の秩序を保ち、人々が安全かつ円滑に、そして幸福に生活できるようにするための仕組みである。個人の自由や安全を守ると同時に、公平さを確保し、トラブルを防止・解決する役割を果たす。目標を達成するためにも欠かせないものである。


一方、野球をはじめとするすべてのスポーツにおける競技ルールは、スポーツの仕組みや進行方法を定めるものであり、スポーツを楽しむための基本的な約束事である。プレー方法や望ましい行動を示す「レシピ」のような役割も果たす。

ルールを守ることは、すべての人が気持ちよくスポーツを楽しむための前提であり、それができなければスポーツに参加する資格はない。ルールを尊重することこそが、スポーツを楽しむための第一歩である。


スポーツのルールが果たす主な機能は、以下の3つに整理できる。


【公正性・共通化(公平な条件の整備)】

 勝敗の決め方、プレー人数、競技時間などを統一し、誰もが公平に競技できるようにする。ルールが共有されなければ、スポーツは成立しない。


【安全性・非暴力(暴力の抑止)】

 スポーツは理性に基づいて楽しむものであり、暴言や暴力を抑え、公正なプレーを促す。

 「自力救済の禁止」――自分の力だけで問題を解決しないという近代社会の原則にも通じる考え方である。


【困難性(難しさを愉しさに変える)】

 成功を難しくすることで、挑戦の面白さが生まれる。サッカーのオフサイド、バスケットボールのトラベリング、ラグビーのスローフォワード、野球のボークや飛びづらいバットなどがその例である。困難を乗り越える喜びが、スポーツの愉しさを深める。


こうした機能はすべて、「スポーツをより愉しくするため」に存在する。

時代とともに道具や環境が変わる中、ルールも進化していく。スポーツのルールは、競争を愉しむための本質を形にしたものである。



スポーツのルールと歴史を学ぶ意義


スポーツの歴史やルールの変遷を学ぶことは極めて重要である。スポーツは時代の流れや技術、環境の変化とともに進化し、道具や戦術、ルールもそれに応じて改良されてきた。したがって、ルールを尊重することは、単に文面を守るだけでなく、その背景や意義を理解することを含む。


特定の競技や大会がどのような歴史を経て現在の形に至ったかを知ることは、スポーツマンシップを育む上で不可欠である。スポーツを本質的に愉しむには、その歴史や伝統を理解し、自らも文化の一員であるという自覚を持つことが求められる。ルールの理解やプレー中の行動は、次世代への継承にも関わるものであり、すべての参加者が責任を負っている。


ラグビーの「トライ」の得点数の変化は、ルールの進化を示す代表例である。

19世紀の初期には、トライ自体には得点が与えられず、ゴールキックを行うための手段に過ぎなかった。1891年に国際ルールとしてトライが1点、コンバージョンキックが2点と定められた。その後、1893年にトライが2点、1900年に3点、1971年には4点(1972年施行)、1992年には5点に引き上げられ、現在に至っている。

これは「トライを狙うこと」がゲームをより魅力的にするという考えが反映された結果といえる。


スポーツマンシップについて考えるとき、その競技の歴史・文化・伝統・慣習を理解した上で判断することが重要である。

単なるルール違反や表面的な行動で善悪を決めるべきではない。正しい判断には、競技への深い理解と実体験に基づいた観察力が必要である。

ルールへの理解と尊重は、優れたスポーツマンに求められる基本的な資質である。



中村 聡宏(なかむら・あきひろ)


一般社団法人日本スポーツマンシップ協会 代表理事・会長

立教大学スポーツウエルネス学部 准教授


1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。スポーツ分野を中心に広告、出版、WEB、イベント等の企画・制作・編集・運営に従事。スポーツビジネス界の人材育成を目的とした「スポーツマネジメントスクール(SMS)」を東京大学から全国に展開。2015年より千葉商科大学サービス創造学部に勤務。2018年、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会を設立。2023年より立教大学スポーツウエルネス学部に着任。2024年、桐生市スポーツマンシップ大使に就任。

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