【スポーツマンシップを考える】野球×スポーツマンシップ=人材共育


参議院で話題となったスポーツマンシップ

 

2025年4月10日、参議院外交防衛委員会のなかで質問に立った国民民主党所属の参議院議員・榛葉賀津也氏より、一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構(J-ABS)代表理事であり、日本スポーツマンシップ協会公認のスポーツマンシップコーチでもある友成晋也氏が挑戦するアフリカでの野球普及についての言及があった。


日本人がアフリカで野球を普及していることが、中学英語の教科書にも掲載されていることを引き合いに出しながら、「アフリカで野球を伝える目的は教育であって、スポーツマンシップを説くことだ」と語ったのである。

ベースボールではなく、日本流の野球と教育を絡めて、アフリカでスポーツマンシップを育もうとアフリカ野球普及を牽引する友成氏について、そして、彼が取り組む「ベースボーラーシップ」教育やアフリカ甲子園大会などについて、榛葉氏は紹介した。

 

これに対して、外務大臣・岩屋毅氏、独立行政法人国際協力機構(JICA)理事・小林広幸氏らが答弁する形で議論が深められていった。

2025年8月20日から22日にかけて、横浜で開催予定の第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)に向けた議論も行われ、アフリカにおけるODAにおける「スポーツと開発」というテーマに関しては、スポーツマンシップ教育の実践をこの分野に活かすべきであるといった示唆も含め、約20分におよぶ質疑が展開された(※1)。

 

榛葉氏は「(アフリカも)今はいろいろなことが変わり、むしろ我々が教わることも多くなってきた」、「助けてやろうなどというおこがましい考えではなく、Win-Winの形で何ができるか」、「子どもたちが日本の野球を通じて日本を知り、規律を学び、そしてさまざまなことを学んでいくことによって、(アフリカへ日本企業が進出するための)信頼できるパートナーが生まれてくる」などと述べたが、

彼の言葉からも、教えて育てる「教育」的思考だけでなく、ともに学び育み合っていく「共育」的思考の大切さを感じとることができる。

 

なにより、こうした参議院の委員会において、「スポーツマンシップ」というキーワードが話題となったことに加え、あらためてこうした概念や教育ソフトとしてのスポーツの価値を再確認できたことは貴重である。今後、どのような展開を見せていくのか、期待を持って見守りたい。


アフリカでベースボーラーシップ普及活動を行う友成晋也氏 (写真提供:アフリカ野球・ソフト振興機構)



桐生市議会における質問と答弁


群馬県桐生市で展開されているスポーツマンシップ教育をまちづくりに活かそうとする取り組みについては、本連載のなかで2024年9月に掲載した『スポーツマンシップでまちづくりに挑む』で取り上げたとおりである。

 

ちなみに、いまから1年あまり前の2024年3月19日に行われた桐生市議会においても、公明党所属の桐生市議会議員・丹羽孝志氏より「スポーツマンシップをまちづくり、人材育成に活かすために」に関する質問が行われていた。

 

丹羽氏は、令和6年度予算案審議のなかで、荒木恵司市長より示された「球都桐生プロジェクト」における


 ① 球都桐生ブランドを活かした地域活性化

 ② 地域全体の価値向上と魅力発信

 ③ 心身ともに健康な青少年の育成

 ④ 桐生市のスポーツ全体の活性


という4つの要素を再確認し、これらについては野球だけでなく桐生市全体に関わる取り組みであるという点で共感しているとしたうえで、スポーツマンシップに関する議論が行われたのである。

 

このなかで丹羽氏は、「球都桐生プロジェクトにおける一番の収穫はスポーツマンシップという理念に出会い、その真髄に触れる機会を得たことである」と述べ、「荒木市長が示した4つの要素、そしてそれに関連して実施されるさまざまな取り組み、さらにはよりよき人を育み、よりよき社会を創っているという意味において、すべてに共通する理念であり根幹ともいえる部分がスポーツマンシップである」と語った。


球都桐生プロジェクトの一環として行われた、スペシャルセミナー、侍JAPAN監督としてWBC2023を制した栗山英樹氏をお迎えしたトークイベント、さらにこの議会直前の3月4日に行われた講演会など、筆者の講演内容を要約しながら、

「スポーツ=Good Gameをめざしてプレーする身体活動」、「Sportsman=Good Fellow(よき仲間)」、「スポーツマンに求められる3つのキモチ=尊重・勇気・覚悟」、「スポーツマンシップ=尊重・勇気・覚悟、これら3つのキモチを持ってGood Gameを実現しようとする心構えのこと」と紹介しながら、

「スポーツマンシップとはスポーツに関係する、しないに関わらず桐生市民にあまねく推進できる要素として、まさに球都桐生プロジェクトの根幹ともいえるのではないか」そしてまた「スポーツマンシップをまちづくりに活かすため、スポーツ界にとどまらず多くの市民、教育、文化、産業、福祉、地域などのさまざまな団体等にも啓発をしながらその普及に取り組むべきではないか」といった質問を繰り広げた。

 

これに対して、桐生市市民生活部長・関口泰氏が「(4つの要素)これらすべてを達成する上で、非常に大きな役割を果たすものと考えている」と述べると、荒木市長からも「スポーツマンシップの考え方を理解して、実践することで他人から信頼を得ることはスポーツのみならず社会生活を営む上でも大切なことで、そのような人を増やしていくことがまちづくりにつながると考えている。このため日本スポーツマンシップ協会と連携をして積極的にスポーツマンシップの普及啓発に取り組んでまいりたい」そして、さらには「市職員の育成にも大いに通じるものがあると感じているところであり、まずはこの精神を学ぶことから始めていきたい」といった答弁がなされた。

 

このように、球都桐生のまちづくりにおけるスポーツマンシップ教育の活用に関して、桐生市議会のなかで約15分におよぶ議論が繰り広げられたのである(※2)。


栗山英樹氏を招いて行われた球都桐生ウィーク・シンポジウム (2023年9月6日)(写真提供:球都桐生プロジェクト)


スポーツマンシップを語れる仲間たち

 

冒頭に紹介したアフリカにおけるベースボーラーシップ普及事業に関しては、2021年に開催された「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」において、木更津市がナイジェリア連邦共和国のホストタウンを務めたことがきっかけとなり、同市では、草の根技術協力事業「ナイジェリア青少年非認知能力向上プロジェクト」をJ-ABSとともに提案してきた。このたびJICAに採択され、2025年度からの3年間、ベースボーラーシップ普及事業が展開される予定だという。

 

奇しくもこの木更津市は、桐生市とともに、野球の都「球都」のひとつである(そのほか、敦賀市・松山市を含めた4つの「都」が球都とされている)ことは、あらためて日本において根づいてきた野球の底力を実感するところでもある。

 

なお、J-ABS代表理事の友成氏も、日本スポーツマンシップ協会公認のスポーツマンシップコーチのひとりであることは前述したとおりである。このスポーツマンシップコーチとは、日本スポーツマンシップ協会が展開する資格認定制度「JSA Sportsmanship Coach Academy」を履修し、資格取得した仲間たちのことである。

「グッドコーチ(Good Coach)をめざそう」というコンセプトの下、スポーツの現場やビジネスシーンにおいて、スポーツマンシップが果たす役割やスポーツマンシップを理解・実践・教育する意義をあらためて理解し、より多くのスポーツマンを育むように導けるGood Coachの育成と同志のネットワークづくりの実現をめざして、2020年7月にスタートした。

必ずしも、スポーツの現場における指導に限定したものではなく、スポーツマンシップについての語り部を増やしていこう、そして、思考を共有し合える仲間を増やしていこうという取り組みである。

 

2025年3月時点で、485人の受講生を数えるようになったが、なかでも桐生市関係者はそのうちの12人を占め、さらに増えつつある。共通言語で語り合える同志が地域に集まり、市長が旗を振り、学びの場がさまざま設けられてアクションされていくのは非常に心強い限りである。

 

野球の力、スポーツの力が、単なる競技として、エンターテインメントとして発揮されるだけではなく、スポーツマンシップという概念の共通理解を通して、このような教育的な見地からあらためて注目を集めるようになってきていることが感じられる。

もちろん、まだまだ道半ばであり、大きなうねりとまではなっていないかもしれないが、スポーツマンシップ教育の重要性に対する理解は少しずつ浸透し始めているようだ。あらためて、みなさんとともに学びながら前進していきたい。


友成氏は日本スポーツマンシップ協会公認スポーツマンシップコーチでもある (写真提供:アフリカ野球・ソフト振興機構)



(参考)

※1)参議院インターネット審議中継(2025年4月10日 外交防衛委員会)


※2)群馬県桐生市議会Youtube(令和6年3月19日 第1回定例会 一般質問 丹羽孝志議員)



中村聡宏(なかむら・あきひろ)

一般社団法人日本スポーツマンシップ協会 代表理事 会長

立教大学スポーツウエルネス学部 准教授


1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒。広告、出版、印刷、WEB、イベントなどを通してスポーツを中心に多分野の企画・制作・編集・運営に当たる。スポーツビジネス界の人材開発育成を目的とした「スポーツマネジメントスクール(SMS)」を企画・運営を担当、東京大学を皮切りに全国展開。2015年より千葉商科大学サービス創造学部に着任。2018年一般社団法人日本スポーツマンシップ協会を設立、代表理事・会長としてスポーツマンシップの普及・推進を行う。2023年より立教大学に新設されたスポーツウエルネス学部に着任。


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