データという客観的情報を携えて野球”未経験”の高校生たちが挑んだ競技会

チーム全員が野球経験なしの異色のメンバー

 第1回野球データ分析競技会に参加した全7チームのプレゼン内容を振り返る短期連載。5回目は、ファイナリストで唯一の高校生だった神戸大学附属中等教育学校チームの「競技力向上のための提言」のプレゼンテーションの内容を紹介していく。大会当日、3番目に発表を行った神戸大学附属中等教育学校チーム。3人全員が野球経験なしという異色のチームでもあった。

 チームの代表を務めた上田遼馬さんは、小学校1年生からサッカーをやっていたが、野球を見るのは好きだったという。中学3年生の時に数学の講座を受講した際に担当だった林兵馬先生から統計を学ぶことを進められ、今大会への出場も決めたという。

「僕たちの学校では、高校卒業のタイミングで2万字程度の論文を提出しなければいけません。林先生の指導のもと統計を学んできた集大成として、今回の大会出場はとても意義があるものだと感じましたし、論文作成にも生かせると思い、参加を決めました」

 これまでの学習がどれだけ自分の身についているかを試す良い機会でもあった。しかし、トラックマンデータを見るのは初めての経験。「事前にトラックマンデータが渡されることは知っていましたが、実際に見てみると細かいデータが多くそれを理解することに時間を要してしまいました。そういう意味でもデータの理解という点において他チームと差が出てしまった印象はあります」と、上田さんは、プレゼン直前の様子を教えてくれた。それでも、プレゼン前に、「唯一の高校生ですが、できることを一生懸命やりました」と発言したように、自分たちの分析には自信があったとも振り返った。

 神戸大学附属中等教育学校チームは、野球全体の競技力向上には、アマチュアのトップである社会人野球のレベルアップが球界全体の向上が欠かせないという点に着目。資料となったトラックマンデータか社会人野球の現状を考察していったと説明した。

 考察の中でわかったことが、現在の社会人野球は投高打低傾向であること。NPBと社会人野球で打率、出塁率、長打率を比べた場合、打率はわずか.001差だったが、出塁率で.037、長打率で.029という差があった。また、得点に繋がりやすい打球速度と打球角度の組み合わせの分類とされるバレルゾーンに飛ばした割合をメジャーリーグと社会人の数字で比較したところ0.068もの差があったことがわかった。

実は高校野球よりホームラン数が少ない社会人野球

 このことから、社会人チームにおける打撃力強化には、バレルゾーンに打てる確率を高くすることが必要になるのではと考えたという。ここから提言をまとめるため、主成分分析という手法を用いて、NPBと社会人野球の比較をしていった。主成分分析とは、次元を削除する統計手法で、野球では指標など多くの変量で表されている。しかし、この変量が多いとわかりにくくなってしまうため、次元を削除し、少ない変量で説明することでデータを理解しやすくするというものだ。

 今回は、2020年を除く2014年から2021年までの7年間のデータを分析し、打者の傾向を以下の3つに分類した。

第1主成分 打点少ない型

第2主成分 パワー型(打率低、本塁打多)

第3主成分 安打型(打率高、本塁打少)

 この結果、第2主成分に属する球団チームの優勝確率が高いことが判明。ここから、打率が低くてもホームランを打てる打者が多いチームが成績優秀であることを導き出した。

 次は社会人野球の主成分分析。ここでは、提供されたトラックマンデータをもとに、50打席以上立ったチームを対象にして、以下の3つの分類を示した。

第一主成分 アウトカウントが多い=全国常連(強い)

第二主成分 エラー少なく本塁打多い

第三分 アウトカウントが少ない=弱い

 この主成分分析を発展させる分析も実施。そこから、社会人野球では、ホームラン数が少ないチームでも全国大会の常連になれる可能性を秘めていることがわかったという。

 リーグ戦のプロ野球に比べ、トーナメント戦が多い社会人野球でスモールベースボールの戦略が取られるのは当然のこと。しかし、トーナメント主体の高校野球よりも、社会人野球でのホームランが少ないことは問題点となり、球界全体の競技力向上を目指すのであれば、社会人の打撃力強化は不可欠といえるわけだ。

未経験だからこその視点を大切に

 ここまでの分析結果をもとに、ホームランを増やすために必要なことを提言していった神戸大学附属中等教育学校チーム。打球強度別(DELTA社のデータを用いて、HARD、MID、SOFTに分類)に本塁打との相関を調査し、打球強度のMIDの割合が低いほど、本塁打が多くなったことを説明した。また、どのタイミングでバットを振ればいいかも考察。プロ野球でも、社会人野球でもファーストストライクを振ったほうが、高い率を残していた。

これらの結果をもとに、以下の4つを最終提言として示した。

・ファーストストライクは積極的に狙いに行く

・特に0ボールの時は積極的に狙う

・2ボール、3ボールのときは無理に狙わない

・バレルを意識して打撃力向上を図る

 プレゼン後、統計を学んでいるとはいえ、高校生としてはレベルの高い発表をしたのではないかというのが率直な感想だった。自チームの発表を上田さんに振り返ってもらうと、「素直な感想として自分たちがやってきたことが他の大学生とかと比べても大きく見劣りしていなかったと思います。僕たちにとってはいい戦いができましたし、自信にもなりました」と胸を張った。その一方で「短い時間で観衆を引き込むスライドを作成するなど、大学生に学ぶこともたくさんありました」と語る。

 大会当日、会場に足を運んでいた侍ジャパンの栗山英樹監督とも会話。そこで「普段野球に携わらない人の視点が大切とおっしゃってくれたのがありがたかったです。僕としては、素人目線だからということではなく、自分がやれる範囲で客観的に伝えたいという気持ちがあった。これからも、そういう視点を大切に、いろいろと勉強していきたいと思います」と話してくれた。

 現在高校3年生の上田さん。今後は大学へ進み、経済や経営の分野で活躍できる人材になりたいという。今回の大会を通じて、大きな成長を遂げた3人。彼らのような挑戦者が増えることが、今後の競技会のレベルアップにもつながるはずだ。

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