【優勝/準優勝監督インタビュー】 京都国際高校・小牧監督が振り返る夏(前編)


第106回全国高校野球選手権大会は京都国際が初優勝を果たして幕を閉じた。

史上初のタイブレーク決着となった決勝戦では、京都国際の個性が光り2-1で制した。中崎瑠生、西村一毅の二人のサウスポーを中心にした硬いディフェンスと勝負どころの集中打は甲子園開催100年に相応しい新チャンピオンの誕生だった。

ほんの数年前までは「甲子園は目標ではかった」と指揮官の小牧憲継監督が語るほど選手の育成に特化したチームを作っていた。そんなチームがどのようにして日本一に辿り着けたのだろうか。甲子園の戦いぶりと、この十数年で積み上げてきた京都国際の歩みを追った。



「やっぱりこの逞しさがこの学年の強さやったんやろなって感動しましたね」


優勝報告の行事と遅れた新チームの指導に追われる多忙な日々が続く小牧監督は優勝後の3年生の姿勢を見て、この夏の成果を改めて感じた。


「大会が終わってから始業式の関係もあって3年生は1週間ほど帰省させていたんです。それで、始業式前の前日に戻ってきたら、もう、練習をしていました。22時半が点呼なんですけど、22時くらいまで打ち込んでいましたね」


京都国際の強さを一言で言うと「自発的練習量」だ。

指導者陣が止めないといけないくらい練習に向かうストイックさがこのチームの強さだ。決勝戦後の宿舎でも、帰省直後でも、3年生がいまだに練習量を落とさないと言うのはただ驚きしかない。




「少しでも長く野球をやりたい。甲子園で優勝するという目標よりもそっちの方が強かったですね。本当にメンバー外もみんなが良く練習しました。だから、甲子園で勝っていい想いをさせてやりたいという気持ちは強かったです」

 

印象に残っているシーンがある。

 

決勝戦の延長10回裏、2−1と1点リードして2アウト。マウンドの西村が最後の打者を三振に斬って取り選手たちがマウンドに歓喜の輪を作った。

甲子園では見慣れたシーンだが、その刹那、京都国際のボールボーイを担当している3年生の選手たちが人目も憚らず大泣きしていたのだ。

夏の甲子園は21年連続で観戦しているが、決勝戦後にこんなシーンを見たのは初めてだ。


「ボールボーイをやっていた選手の中学校の指導者から『人のために涙を流せる。うちの子があんなに育ってると思わなかった』といってもらったんです。勝っておめでとうと言われるよりもそう言っていただけてすごく嬉しかったです。

本当に最後は一つになったというか、目に見えないプラスアルファの力が働いたような優勝だった気がしますね」


この夏の京都国際の戦いぶりはまさに一致団結していた。

まずは決勝戦を振り返ってみる。

 

史上初のタイブレーク決着となったこの試合は、京都国際が先攻めだった。

延長10回表、無死1、2塁から始まるこの場面。打順は9番からだったが、小牧監督はここで大きな決断をする。

9イニングを無失点に抑えていたエースの中崎に替えて西村を代打に送ったのだ。西村はマウンドに行く予定の選手だが、この采配には裏があった。


「タイブレークの場面でバントを考えますけど、相手がシフトを敷いてくることを考えるとそれだけではいけない。ああいう場面でサインを無視して打ってライナーゲッツーになる。

人間は失敗したことから考えると思うんですけど、西村はそういう失敗することを恐れない子だったんで、技術面とメンタルの両方を考えて西村に行かせました。裏のマウンドで投げる予定でしたけど、体を動かしといた方がいいのかなというのもありました」

 

ここで西村は一仕事をする。


無死1、2塁から西村がバントの構えをすると、高い守備力で勝ち上がってきた関東一は激しいバントシフトを仕掛けてきたのだ。いわゆるブルドック・ピックオフプレーだ。


しかし、2ボール1ストライクになった後4球目、西村はヒッティングに切り替えた。


サインではない。

「シフトを引いてきたら打ってもいい」という許可が降りていた中で、西村が自分で判断してヒッティングにしたのだ。これが左翼前に転がって満塁。続く1番の金本祐伍が押し出し四球、2番の三谷誠弥も右翼犠飛を打ち上げて2得点。これで試合は決まったのだった。

 

自主判断による一打からの勝利が京都国際らしい。


小牧監督は新チーム結成の頃は細かい指示を送るが、あまりとやかく言わない指導方針という。




「指導者が答えを言わないようにはしています。正しい方向に導いてあげないといけないんですけど、自分たちで考えておかしな方に進み出した時に、こういう考え方もあるんじゃないかとかいうことを話します。まずはやらしてみるってことですね。


野球って最終的には自分たちの感覚が大切になるんで、自分たちでわからないと監督やコーチに言われたことをその場で返事しても中身が全く伴ってない選手になってしまう。

新チーム当初は口うるさく言い続けますけど、ある程度のレベルまで来ると、選手たちに任せることが多いです」


最後の場面もバッテリーの思考が光った。


タイブレークで始まり、西村の失策から1点を返された。なおも逆転のピンチとなったが、最後は西村のスライダーが空を斬ってピンチを脱した。

このシーンで驚きだったのは最後の決め球がチェンジアップではなくスライダーだったことだ。

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