【野球人リレーコラム】変化の時代にこそ大切な「観見二眼」


第3回執筆者:日本野球連盟副会長 高見 泰範



第95回都市対抗野球大会は7月19日に東京ドームで開幕し、同30日の決勝で三菱重工EastがJR東日本東北に競り勝ち、初優勝を飾りました。


社会人野球はスピードアップという変化の時代を迎えています。

走者がいない場合は12秒以内に投球動作に入らなければならないピッチクロックや、タイムの回数制限など、選手、とくに守備側にとっては厳しい規制がかかっています。そんな中でも細かい野球を実践するチームと、それらをパワーで打ち消すチームがせめぎ合うような試合がいくつか見られました。


しばらく続いた投手優位な傾向がここ数年は緩和され、今大会は44本塁打(31試合)が飛び出すなど、さらに攻撃力が優勢になったという印象です。その分、長いイニングを投げ切る投手が激減し、細かい継投策で何とかしのぐケースが増えました。

 

投手力と攻撃力は表裏一体で、互いに切磋琢磨してきた歴史があります。それでは、今度はバッテリーを中心とした守備側が、いかに対抗していけばいいでしょうか。

 

捕手出身でもある私が訴えたいのは1点だけです。

 

観見二眼(かんけんにがん)――。

 

宮本武蔵の「五輪書」に出てくる言葉で、社会人野球でも監督をされた野村克也さん(1935-2020年)がよく使われていました。

 

肉眼で「見る」ことはもちろん大切ですが、心の目で「観る」こともしなければいけません。

ビジュアルから相手の動きを予測します。例えばタイミングは合っているのか。どういうスイングをしようとしているのか。その上で、相手の心を読みます。なにを狙っているのか。どんな心理状態にあるのか。


 「観見」は自分自身にも向けられなければなりません。もちろん、相手の動きを見て、相手の心を観ることは、攻撃側にも大切なことです。

 

選手や指導者の皆さんは、今一度、自分たちの試合を振り返ってください。

 

スピードアップルールや莫大なデータに振り回されていませんでしたか?

 

その結果、相手を見たり、観たりすることが疎かになっていませんでしたか?

 

現代の野球に詳細なデータは不可欠です。それを上手に活用することが勝利への必須条件になります。

ただデータを「見る」のでなく、そのデータの意味を「観る」。さらに、実際に相手と対戦して「観見」することで、そのデータをアップデートさせていく。

 

スピードアップルールで、いわゆる「間」がそぎ落とされている中で、瞬時にそれらの作業をする能力も求められます。

 

大谷翔平選手(ドジャース)は同じ失敗を繰り返しません。「観見二眼」を実践できているからだと私は思います。

大谷選手のような身体能力はなくても、こちらの能力では誰でも追いつくことが可能なはずです。

 

そういう選手がたくさん出ることによって野球界は活性化し、野球の価値が高まり、ひいては競技人口の増加、底辺の拡大につながるのではないでしょうか。

 

データを活用した現代野球のあり方を、社会人野球を統括する日本野球連盟(JABA)としても発信していきたいと考えています。皆さんもぜひ一緒に、アップデートしていってください。



たかみ・やすのり 1964年1月、岐阜県出身。羽島北高-愛知工業大-東芝で捕手として活躍。日本代表チームの主将を務めた1992年バルセロナ五輪で銅メダルを獲得した。東芝監督などを歴任し、現在は東芝インフラテクノサービス株式会社社長。

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