熱狂の先に考える新たな未来への提言

進化を続ける夏の風物詩

 2026年8月22日、阪神甲子園球場。第108回全国高等学校野球選手権大会は、智辯学園和歌山高等学校(和歌山)と高崎健康福祉大学高崎高等学校(群馬)の決勝戦を迎え、智辯和歌山が4対3で健大高崎を破り、5年ぶり4度目となる全国制覇を果たした。

 逆転に次ぐ逆転のスリリングな試合展開。最終回も一打同点の張り詰めた空気に支配されるなか、健大高崎の最後のバッターが三振に倒れた瞬間、スタジアムは大きな歓声に包まれ、両チームの選手からは笑顔と涙があふれた。大会屈指の打力を誇る智辯和歌山と、1−0での勝利を3試合も積み重ね投手力で勝ち上がってきた健大高崎が見せた攻防は、まさに高校野球の醍醐味そのものであった。球場を埋め尽くした観客や画面越しのファンたちは、勝利をめざして全力を尽くす両チームのプレーヤーたちに惜しみない拍手を送ったことだろう。

 今大会を振り返ると、グラウンド上の熱戦もさることながら、高校野球のあり方が問われる昨今において、大会運営の環境改善が一段と鮮明になったことも印象深かった。酷暑下での大会運営が余儀なくされるなかで、高校生たちの健康と安全を守るために、朝と夕方の時間帯に試合を分ける「2部制」が本格的に運用されたほか、5回終了時のクーリングタイムの徹底、無理ない日程調整のための休養日の確保、DH制ならびにビデオ検証制度の導入など、変革は着実に進んでいる。そのほかにも、賛否両論を呼んでいる「7回制導入」なども引き続き議論、検討されていくことになるだろう。

 かつて重視された「過酷な環境や理不尽に耐え抜くことこそが美徳であり強くなること」といった精神論から脱却し、科学的・客観的知見を取り入れながら、セーフガーディング(子どもや若者、または支援を必要とする人々を暴力や虐待、ハラスメント、搾取などの危害から守り、安心・安全な環境をつくるための組織的な取り組みや考え方)の概念に支えられた環境整備が進みつつあることは、高校野球の世界ではもちろんのこと、日本スポーツ界全体にとっても極めて大きく価値ある前進であるといえよう。 

LIGA Summer Camp 2026 in 北海道

 甲子園の熱狂が日本中を包み始める頃、8月上旬に「もうひとつの高校野球」が北海道の地で繰り広げられていた。それが、8月2日から10日にかけて開催された「LIGA Summer Camp 2026 in 北海道」である。一般社団法人Japan Baseball Innovation(代表:阪長友仁氏)が主宰するこのキャンプは、地方大会で敗退し甲子園にたどり着くことが叶わなかった高校3年生を全国各地から個人単位で募り、高校生活最後となる野球を愉しみ尽くそうというイベントである。2024年に全国初の取り組みとしてスタートしたこのキャンプも今年で3回目を迎え、今回は北海道から鹿児島まで、さらには、アメリカやスリランカからの参加者も含めて、さまざまな地域から個性あふれる56名の高校3年生が集った。

 私自身も、初日となる8月2日に新札幌で行われたオリエンテーションの場に足を運び、そのなかで、彼らに向けた「スポーツマンシップ講習」を担当させていただいた。受付を済ませた高校生たちは、ほとんど顔見知りのいない環境に飛び込んできた初日ということもあって、緊張感に包まれつつも、「まだ野球を愉しみたい」「自分の可能性を試したい」といった強い情熱に満ちあふれた表情を見せていた。

 このキャンプ最大の特徴のひとつが、「Round Robin(総当たりリーグ戦)」を中心としたフォーマットで運営されている点にある。甲子園大会をはじめ、日本国内における若年層スポーツ大会の多くで採用されているのは一発勝負のトーナメント戦だが、ここでは、全参加者を競技力やポジションに応じて4チームに振り分け、期間中に総当たりリーグ戦を戦う。そして、1位vs4位、2位vs3位で行われるプレーオフを経て、最終日のファイナルおよびプレファイナルは、あのエスコンフィールドHOKKAIDOという最高に素晴らしいステージでプレーするのである。

 各チームの監督的な立場、コーディネーターを務めるのは大学生たちだ。プレーヤーたちとコミュニケーションを深めながら、ともに戦術を考え、彼らのモチベーションをマネジメントしていく。9日間におよぶキャンプのさまざまなアクティビティを通して、各チームのメンバーは結束を高めながら、他チームのプレーヤーたちも含めて、全員がよき仲間となっていく。

 私は、キャンプ終盤の8月8日から、立教大学スポーツウエルネス学部のゼミ生たちとともにゼミ合宿を兼ねて再び合流。キャンプの一部をお手伝いすることを通して、学生たちがスポーツイベントの運営について現場で学ぶ機会をいただいた。

 また同時に、今年は、学生たち発案の企画である「LIGA Summer Campスポーツマンシップ大賞」を開催。プレーヤーたちが感じたスポーツマンシップを日々ピックアップしてもらうようにして、彼らの投稿やエピソードのなかから、スポーツマンシップを最も発揮した個人とチームをそれぞれ、「MGP(Most Good Player)」「MGT(Most Good Team)」として選出し、エスコンフィールドHOKKAIDOの舞台で、学生たちが選手たちを表彰する取り組みも実施できた。

 エスコンフィールドHOKKAIDOにおけるこのファイナルゲーム。エンディングを彩ったのは、すべてのプレーヤーだった。優勝チームのみならず、プレーヤー全員がマウンドに集まり、それぞれの健闘をたたえ合う。笑顔と涙をたたえた表情がグラウンドにあふれ、コーディネーター、スタッフ、関わるすべての人々が輝いて見えた。

LIGA Summer Campファイナル、ゲームセットの瞬間 
【写真提供:フォトチョイス】

リーグ戦がもたらす「挑戦と失敗」の効果

 ここで改めて考えたいのが、「トーナメント戦」と「リーグ戦」がもたらす教育的価値の差異である。

 ちなみに、以下は、スポーツマンシップとフェアプレーの違いについて図示したものである。フェアプレーとは、対戦相手、ルール、審判など、自分ではコントロールできないものを大切に想う、いわゆる「尊重」の精神をゲーム中に発揮することである。一方で、スポーツマンシップはGood Fellowとして信頼に足る人物であるために「尊重・勇気・覚悟」をすべて大切にする概念である。したがって、ゲーム中のみならず、日常生活からその姿勢が問われることになる。また、ゲーム後にGood Winner・Good Loserに分かれるところが最も難しさを伴うがゆえに、成長できる部分でもある。そして、迎えたAfter Gameは、次のゲームに向けたBefore Gameとなる。私たちはこうしたスパイラルを繰り返しながら成長していくことになる。

 ここでもうひとつ重要なことは、トーナメント戦の場合には、Good LoserにNext Gameがやってこないということである。本来、教育や育成の重要性を考えれば、Good LoserにもNext Gameがもたらされるリーグ戦のほうが成長を期待できるはずである。

【©︎一般社団法人日本スポーツマンシップ協会】

◉トーナメント戦(一発勝負)がもたらすもの

・長所:負ければ終わりの極限状態が生み出す集中力、覚悟、ドラマ性、土壇場での一体感。

・短所:ミスや失敗によって敗北すると大会が終わってしまうことから、ミスや失敗に対する恐怖心が大きくなりやすく、挑戦する気持ちが失われやすく、プレーヤーは指導者からの指示待ちになりやすい。また、1つの負けで大会が終わってしまうため、プレーヤーの出場機会は一部の主力に負荷が集中しやすい。

◉リーグ戦(Round Robin)がもたらすもの

・長所:敗戦やミスをしても、ネクストゲームがあるという安心感のもとで、失敗を恐れず試行錯誤や新しい技術へ挑戦(Try & Error)できる。

・短所:緊張感の維持や、1試合の持つ重みの捉え方に工夫が必要となる。

 LIGA Summer Campのグラウンドでは、リーグ戦に登板する投手たちの投球数が厳格に管理され、プレーヤー全員に十分な打席数と守備機会が保障されている。試合後には、両チームで会話を交わし交流を深めるアフターマッチファンクションが行われ、「なぜ先ほどのプレーを選択したのか?」「次のゲームではどう修正しよう?」などといった問いかけがなされ、選手同士が主体的に話し合い、お互いに高め合う光景が広がっていた。

 また、吉見一起さんや渡辺俊介さんといった侍JAPANコーチ経験者や元プロ野球選手の肩書をもつ豪華なコーチ陣から直接アドバイスを受けることができたり、エスコンフィールドHOKKAIDOで北海道日本ハムファイターズの公式戦を観戦したり、ジンギスカンBBQを通して懇親を愉しんだりと、多様なプログラムを通してプレーヤーたちが成長するための機会がふんだんに用意されていた。

 チームではレギュラーになれなかったプレーヤー、地方大会で不完全燃焼に終わったプレーヤー、ケガに悩まされて思うようなプレーができなかったプレーヤーたちも、誰もがみなフラットな尊重関係のもとで自分自身の能力、個性を解き放っていた。ミスをしても、コーディネーターから罵声が飛ぶこともない。むしろ明るい声がけ、笑い声、ハイタッチなどが至るところで見られ、プレーヤーたちが心から野球を愉しんでいる様子が伝わってきた。「こんなに野球を愉しくできたのははじめて」という高校生の声が少なくなかったことも事実である。

渡辺俊介コーチの話を聴くプレーヤーたち

「アフターマッチファンクション」がもたらす可能性

 日本高野連によれば、第108回全国高等学校野球選手権地方大会には、3,662校・3,363チームが出場したという。トーナメントで行われるがゆえに、構造上、最初の試合で半分、1800あまりのチームが姿を消したことになる。そして、その次のゲームで、またさらに半分の高校が敗れたわけである。

 高校3年間の野球生活は、たった一度の敗戦による「不完全燃焼」や「燃え尽き症候群」で終わることになりがちだ。それゆえ、現場のみなさんにとっては、勝利こそが価値のすべてという「勝利至上主義」に陥りやすいことになる。

 甲子園という華やかな頂をめざす熱狂もすばらしいことだが、同時に、すべてのプレーヤーが最後まで打席に立ち続け、自ら考え、野球の愉しさを噛み締めながら、大学、社会人、独立リーグ、その他の人生など、次なるステップへと羽ばたいていく環境を整えていくことも、欠かせない大切な視点である。それこそが、本コラムで繰り返し訴えてきた「Players’ future-first(選手の未来を第一に)」という尊重=Respectの姿勢そのものである。

 ここで私が申し上げたいのは、甲子園大会に代表される「トーナメント戦」を否定し、すべての大会を「リーグ戦」に置き換えればいいという単純な二項対立ではない、ということである。多くの人々が関心を寄せ感動を生む甲子園大会のようなコンテンツは、その人気と伝統を大切に守るべきだろう。

 トーナメント戦に伴う極限の緊張感、勝ちをめざす「欲」と、リーグ戦がもたらす継続的な成長機会、価値を手にする「徳」。私たちが提唱し続けている「二兎を追う」「ダブルゴールをめざす」精神を大切にしながら、トーナメント戦とリーグ戦の両方を組み合わせた制度設計が望ましいと考える。

 その意味でも、全国で広がりつつある秋季大会後の練習試合をリーグ戦スタイルで愉しむ「LIGA Agresiva(リーガ・アグレシーバ)」や、今回ご紹介したLIGA Summer Campの存在は、トーナメントのみしかない日本の高校野球に、ひいては、さまざまな若年層スポーツの大会のあり方について新たな選択肢を提示しているといえよう。

 現在、大会のハード・ソフト両面での改革がさまざま進むなかで、とくに、スポーツマンシップを可視化しうると考えるのが、過去のコラムでも提案した「アフターマッチファンクション(試合後の交流会)」である。

 ラグビーの世界には「ノーサイド」という美しい言葉がある。試合終了の笛が鳴れば、相手も味方もなくなり、戦った者同士が同じ空間でノーサイドの精神を分かち合う。泥と汗にまみれた両チームの選手やスタッフがドレスコードを整え、軽食やジュースを手に互いの健闘をたたえ合い、ゲームの感想や敬意を語り合う場こそがアフターマッチファンクションである。ラグビーでは伝統的に行われているこの文化を、LIGA AgresivaやLIGA Summer Campではすでに導入している。

 甲子園大会においては、試合が終われば勝利校が校歌を歌い、互いにアルプススタンドに挨拶をした後、敗戦校はベンチ前で土を持ち帰り、引き揚げていくのが長年の慣習だ。一発勝負のトーナメント戦だからこそ、勝者の歓喜や敗者の悲愴感はドラマチックに映し出される。

 しかし、試合後のロッカールームやどこかしらの別室で、ほんの10分、15分でも両チームのプレーヤーたちが顔を合わせ、互いに地元の銘菓などを持ち寄り、一緒にお茶でも飲むような時間はとれないものだろうか。相手のプレーをたたえ合ったり、「あの場面、どんな球種を狙っていたの?」「次の試合も頑張ってね」と声と握手を交わし、連絡先を交換し合ったりする機会を創れないものだろうか。対戦相手を、単に「倒すべき敵」とだけして終えるのか。それとも、最高のゲームをともに創り上げた「かけがえのない仲間(Good Fellow)」としての尊重を表現し合う場を設けることはできないものか。

 高校野球は教育の場だといわれる。だとすれば、教育的にプラスになる要素は盛り込んでいってほしいものである。アフターマッチファンクションを導入するだけでも、勝ち進めば勝ち進むほど、野球を愛し、真剣に戦い合った仲間、友人が全国各地に増えていくことになる。文化や方言に触れ、地元の銘菓を知ることも大切な学びの機会になる。負けたら終わりのトーナメント型の大会で、勝利がただ欲望だけを煽るのではなく、そこに教育的な意義や価値を埋め込むことができるだろう。これだけ多くの注目を集める高校野球界が取り組みを推進すれば、小・中学生年代の大会や他の競技種目でも、このようなしくみが広がっていくことも期待できるはずだ。

 大会運営による熱中症対策や日程緩和といった環境改善のその先に願うのは、試合後のリスペクトを形にして、同志や友人を得ていくアフターマッチファンクション的な文化を育んでいくこと。眼前の単なる勝ち負けを超えた「人間的成長」と「一生モノの仲間たち」を高校生たちにプレゼントする、大人たちからの贈りものになりうると思うのだがいかがだろうか。

両チームでアフターマッチファンクションを愉しむ様子

中村聡宏(なかむら・あきひろ)

一般社団法人日本スポーツマンシップ協会 代表理事 会長

立教大学スポーツウエルネス学部 准教授

1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒。広告、出版、印刷、WEB、イベントなどを通してスポーツを中心に多分野の企画・制作・編集・運営に当たる。スポーツビジネス界の人材開発育成を目的とした「スポーツマネジメントスクール(SMS)」を企画・運営を担当、東京大学を皮切りに全国展開。2015年より千葉商科大学サービス創造学部に着任。2018年一般社団法人日本スポーツマンシップ協会を設立、代表理事・会長としてスポーツマンシップの普及・推進を行う。2023年より立教大学に新設されたスポーツウエルネス学部に着任。2024年桐生市スポーツマンシップ大使に就任。

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