2025年5月23日に立ち上がった「一般財団法人 球心会」。
野球界を一つにし子どもたちの未来へつなぐべく、理念を具体的な活動へと着実に落とし込んできた。
体験機会の創出や情報発信、そして未来を議論する場づくり。この1年の間で展開されてきた、球心会の取り組みを王貞治代表の想いとともに振り返る。
(写真 / 文:白石怜平)
王貞治氏が発起人となり、25年に設立
球心会は、王貞治氏やイチロー氏・大谷翔平選手のような『世界的なヒーロー』を日本のスポーツ界全体から生み出すことを目指し発足した。
25年6月26日の設立会見では、王貞治氏が代表・栗山英樹氏が副代表に就任し、理念や活動方針を発表。発起人である王代表は自身が抱く野球への想い、そして球心会設立の背景を語った。
「私は選手としてプレーしましたけれども、野球に対する想いは年々その想いが強くなっていると、そう感じています。
同時にそうであるがゆえに、『今の野球界このままでいいのか』という気持ちもありまして、野球界にはしっかりとした組織がたくさんありますから、このスタートを切れたら、もっと野球界のためになれると思いました。
我々としてその役に立てる仕事ができるのではないかということで、この球心会を設立することにいたしました」

王代表が語ったスタートとは、数ある組織の想いを集約し“野球界を一つにする”こと。
野球ではプロやアマチュアの各カテゴリ、そしてソフトボールやティーボールといったベースボール型競技に団体があり、それぞれが歴史や地位を築いてきた。
ただ、少子化やスポーツの多様化などの影響から競技人口の減少が長きにわたり叫ばれており、各団体がより連携し現状に向き合う必要があると王代表らは考えていた。
設立にあたっては、24年11月20日のプロ野球オーナー会議後に球心会設立の方針が発表された。以降、ベースボール型競技の各団体と連携を深めてきた。

これらを踏まえ、球心会では団体個別の活動では解決しきれない「マクロ課題への対策アクション」に向けた検討から推進、そして財源確保に向けた機能といった役割を務める。
栗山副代表もその役割を果たすべく、強い気持ちを述べた。
「各団体、プロ・アマの皆さんが日々頑張ってくださっています。王さんが言われているのは『そういった方々をみんなでお手伝いをして、野球を通じて子どもたちのためにやるんだ』と。
ですのでそういったものを形にするため、そして子どもたちのためにみんなで協力すれば大きな力になる。
次の世代に向けてみんなで手を取って頑張ろうと、僕もその想いでお手伝いしていこうと思います」

機会づくりの“一丁目一番地”「BEYOND OH!PLAY KIDS」
球心会はこの「マクロ課題への対策アクション」に沿って施策が展開されており、これらは「BEYOND OH!PROJECT」という名称で統一し、以下4つの柱を構成した。

すでに01の機会づくりでは、まだ野球に馴染みのない子どもたちが“野球に触れられる機会”を創出する取り組み「BEYOND OH!PLAY KIDS」が開催されている。
昨年11月に東京ドームシティでの第1回を皮切りに、今年に入り5月に甲子園エリア、6月には明治神宮外苑(神宮球場・軟式野球場・室内球技場)で行ってきた。
“ 「はじめて」に触れ、楽しみ、誰かの一歩になる特別な日”をコンセプトとし、毎回2000人近くの親子が参加するほどの大盛況ぶりを見せている。
ここでは野球だけではなく、ソフトボールやティーボール・Baseball5といった各競技の体験コーナーも設けられており、各団体が手を取り合うことで実現していることも球心会として大きな意義を果たしている。

イベントでは子どもたちを見守り、時には直接声をかけた王代表は自身の体験も交えながら、これから野球を始める・今楽しんでいる親子に向けてこのようにメッセージを送っている。
「私も野球をずっとやってきまして、本当にいい思い出をたくさんつくりました。野球をやって楽しかったんです。その私が味わった楽しさをですね、皆さんにも味わってもらいたい。
お父さん・お母さんも大変かもしれないですが、何より子どもさんの成長が一番の楽しみだと思うんですよね。(野球を通じて)体も強くなってたくましくなってね、精神的にも強くなって将来にとってものすごくプラスになります。
そのためには野球をやっぱり体験して『おもしろいな』『よしやってみよう!』という想いを皆さんに感じてもらいたいと思って、このPLAY KIDSを開催いたしました」

第1回開催時には参加者を対象にアンケート調査も実施。
野球との関わりは参加した子どもたちの42%が「まだ野球をやったことがない」子たちであり、参加したきっかけが「たまたま知って楽しそうだと思ったから」が35%と、野球の“はじめて”を提供する場として順調なスタートを切った。
「情報が伝わるようにしたい」発信基盤も整備
最初の柱である機会づくり2つ目のキーワードが“情報発信”。
柱01で掲げたプラットフォームプロジェクトの具体的施策として、昨年11月中旬に「BEYOND OH! プラットフォーム」をリリース、今年4月には球心会公式アプリとして運用が開始された。
王代表が設立会見時にこう語っており、PLAY KIDSと合わせた1つ目の柱はすでに形となって動き出している。
「特に今の時代は情報の時代です。私は球心会を代表して、どんどん皆さんに情報を提供するという役割を担います。
各組織がみなさん頑張っていただいていますので、私は全国にその情報を発信し、そのためにこの球心会があると思っています。
全国津々浦々に野球チームがありますので、全てに情報が伝わるようにしたい考えです」

プラットフォームでは、子どもたちの野球離れや保護者への情報不足といった課題の解決を目的に、イベントやチーム情報・保護者向けブログ、さらにはユーザー同士が交流できるコミュニティ機能などを搭載。
野球界全体で育てる情報基盤として活用を目指す。
野球の裾野を広げるための考えとして王代表は以下のように述べており、そのタッチポイントとしての役割を果たすものでもある。
「私は子どもさんだけと考えず、特にお母さんを引き込みたいと思っています。
お母さんが子どもと一緒に野球をやってみて、『野球って面白いね』・『私でもちゃんとバットに当たってボールが飛んだ』という印象を持ってもらえれば『あなたもやってみな』となるでしょうし、ご主人にも『一緒にキャッチボールをやりな』などと言ってくれるお母さんも出てくるでしょうから。
(親子で)体験してもらうことが大事だと思うので、そういう機会を作りたいです」

パートナーやアンバサダーと「野球界の未来会議」
球心会がすでに始めている2つ目の柱が04の「体制・財源づくり」。
昨年12月に「BEYOND OH! VISION MEETING 『野球界の未来会議』」を開催し、「将来の子どもたちのために、今、野球界・スポーツ界としてすべきこと」をテーマにディスカッションが展開された。
理念や取組の趣旨に賛同・支援をしている法人であるビジョンパートナーの経営陣と、球史に名を残すプロ野球OBで同じく賛同しているアンバサダーが参加した。
王代表と栗山副代表を中心に、異なる立場から知見を持ち寄って日本野球の未来について意見を交わした。
冒頭では王代表が「日本の野球界をより良い形にする方法はまだたくさんある。30年後、50年後の未来を見据えながら、野球の楽しさをより多くの人へ広げていきたい」と呼びかける。
続いて栗山副代表も「野球は日本のスポーツ界を牽引してきた歴史があり、次世代へその環境を残す責任がある。皆さんの知恵を借りながら前へ進みたい」と語り、未来志向の議論への期待を示した。
会議を終えた後、王代表は「従来とは異なる視点や世界を知る方々の意見を聞くことができ、大変勉強になった」と振り返った。
その上で「少年野球からプロ野球まで幅広い野球界を、もっと大きな視点で考えていく必要がある。ただ全員にとって最適な答えはないからこそ、多様な考えを集約し、情報交換できる仕組みを築いていきたい」と今後の方向性を語っていた。

設立から1年。球心会は「BEYOND OH! プロジェクト」の下、体験機会の創出や情報基盤の整備、そして対話の場づくりと掲げた理念を一つひとつ形にしている。
そこには王代表が設立時から語り続ける「野球界を一つにする」という想いが根底にある。
団体や競技の垣根を越えて知恵と力を結集し、子どもたちにより良い環境を残していく。その挑戦は単なる競技人口の拡大ではなく、日本のスポーツ文化そのものを未来へつないでいく取り組みでもある。
未来の野球界を見据えた歩みは、まだ始まったばかり。子どもたちが自然に野球と出会い、その楽しさを感じられる社会の実現へ向けて、球心会はこれからも野球界全体をつなぐハブとして、新たな価値を生み出し続けていく。
(了)

