東急田園都市線のあざみ野駅から徒歩5分ほどのアクセスに”ボールパーク”の雰囲気が漂う野球施設がある。
それが横浜市青葉区にある野球施設「GATE1FIELD BASEBALL LABO」。
一人でコーチを務め運営する菅澤遼氏は以前は大手コンサルティングファームに勤め、その後独立してこの施設を開業した。
MLBのボールパークをイメージしてつくったこの施設で、菅澤氏は子どもたちの可能性を引き出すために、野球指導のあり方を自ら組み立て直してきた。
その原点にあるのは、自身を育ててくれた野球界へ貢献したいという想いと、野球を選んでくれた子どもたち一人ひとりの可能性を引き出したいという育成への考えだった。
コンサルタントとしての経験を活かしながらその想いを事業として形にしたGATE1FIELDについて、開業に至る背景から発展する歩みを追った。
(写真 / 文:白石怜平)
関わる全ての子どもたちの可能性を引き出したい
神奈川県出身の菅澤氏は小学生から野球を始め、主に二塁手としてプレー。
大学卒業後も、県内の強豪クラブチーム「横浜金港クラブ」で選手復帰し都市対抗野球の出場を目指すなど、アマチュアの各カテゴリーでの経験がある。
その後は社会人としてコンサルタントの道へ進んだが、菅澤氏の中には以前から「いつかは独立したい」という将来像があった。それと同時に、自身を育ててくれた野球へ何らかの形で貢献したいという想いも持ち続けていた。
その二つが後にGATE1FIELDという形で重なることになる。菅澤氏はGATE1FIELDのコンセプトを述べる際、自身の考えをこう語った。
「僕が目指しているのは、プロ野球選手になるような選手を育てることだけではありません。一人ひとりが自分の可能性に気付き、自分に合った努力の仕方を身につけることで、野球を長く楽しみ、より高いレベルに挑戦できる選手になってほしいと思っています。」
育成年代では、運動能力や体格の差によって評価が大きく分かれることが少なくない。しかし菅澤氏は、子どもたちの将来を決めるのは、その時点での能力だけではないと考えている。
「子どもたちはみんな、それぞれ違った可能性を持っています。その可能性を引き出すためには、正しい身体の使い方を知り、自分に合った練習方法や考え方を身につけることが大切です。
育成年代で早熟な選手を育てたいのではなく、10年後、20年後まで野球を楽しみ、自分らしく成長し続けられる選手を育てたい。それがGATE1FIELDの根っこにあるコンセプトです。」

育成年代の野球をより良くしたい想いを具体的な形にする転機の一つとなったのが、2020年に少年野球の現場を再び目にしたことだった。
当時小学一年生だった自身の息子が少年野球チームへの入団を検討していた。
新型コロナウイルスの感染拡大によって学校生活までもが大きく制限された中、秋にようやく地元のチームへ体験できるようになり、菅澤氏も久しぶりに子どもたちの野球現場を訪れた。
そこで目にした光景によって、以前から抱いていた野球界への想いは育成年代が抱える具体的な課題へと結びついていく。
「30年前とほとんど変わっていないと思いました。朝から晩まで練習して、ひたすら捕らせて・投げさせて・打たせる。これで野球を選ぶ子が増えるのだろうかと感じたんです」
現在は少子化に加えてスポーツや習い事の選択肢も増えている。
サッカーやバスケットボールに加え、ダンス、スケートボードをはじめとするアーバンスポーツも身近な存在となった。かつてのように、地域の運動能力に優れた子どもたちが自然と野球へ集まる時代ではない。
「昔であれば学年に何人も運動神経のいい子がいて、その子が野球をするので試合が成立したと思います。上手じゃない子たちが可能性を残したままベンチで終わっても問題にならなかった。
でも運動神経が高いとされる子たちは今いろいろな競技に分かれています。なので、野球を選んでくれた子たち全員のスキルを底上げできないかと考えました」
コンサルタントとしての経験を活かし開業へ
今ユニフォームを着ている子どもたち全員を、一人残さず主役に引き上げる。ここで菅澤氏はコンサルタントとしての経験を活用し、まず息子が所属するチームの現場で、自身の持つ理論を応用したトライアンドエラーを始めた。
“なぜ”を繰り返して物事を深掘りしながら課題を構造化し、練習方法や子どもたちの反応を観察しながら試行錯誤を重ねた。
「子どもが興味を持つ方法や時間帯、練習時間の長さや難易度などを体系化して、『このドリルはどの程度の難易度なのか』『何年生ならどこまでできればいいのか』を手元で整理していました。同じ学年でも成長のスピードが異なるので、そういうのも加味しながら整理を進めました」

ここで工夫を加えたのは、同じ学年でメニューを変えないことだった。
もし変えたりすると仮にできない子がいた場合、劣等感を感じてしまうと考えた。そのため違いを設けず、子どもたち一人ひとりに合わせたゴールの目安を菅澤さんの中で設定していった。
チームで子どもたちの成長を後押しする中、自身の描いていた将来像とこの成功体験が合わさっていった。
「子どもたちの可能性ってすごいなと感じながら、僕は『いつかは独立をしたい』という想いもあってコンサルタントをしていたので、その形が野球であればこんな嬉しいことはないなと。
野球×コンサルの掛け合わせができると考えて現場でトライ&エラーを重ねる中で、『これは事業にできそうだな』と手応えを感じて事業計画を策定して進めました」

一人ひとりを理解することから始まる指導
22年の秋から準備を進め、23年8月ついにGATE1FIELD BASEBALL LABOがオープンした。
子どもたちの可能性を導くための第一歩として掲げているのが「自分を知ること」。
選手は体格や身体の使い方、感覚は一人ひとり異なる。そのためATE1FIELDでは、全員を一つの型へ当てはめるのではなく、その子がどのような特徴を持ち、どうすれば自然に力を発揮できるのかを見極めながらアプローチを変えている。
その際に用いるのは、一つの理論だけではない。運動学習やバイオメカニクス、トレーニング理論など様々な知見を組み合わせ、目の前の選手に必要なものを選択していく。
その中で、選手を理解するためのアプローチの一つとして取り入れているのが「4スタンス理論」である。
4スタンス理論とは、人によって異なる身体の使い方やバランスの取り方を4つのタイプに分類する考え方。選手それぞれが持つ身体的な特徴を知り、どのような動作や言葉がその子に合うのかを考える際の参考として活用している。
「4スタンスだけに固執しているわけではなく、自分の体の特徴を知るための、入り口の一つだと考えています」

菅澤さんがそう語るように、選手を型にはめずに言葉や動作へのアプローチを探る手段の一つとして取り入れている。
その背景には、菅澤氏自身が指導する中で感じた経験があった。自身の息子に野球を教えていた際、菅澤氏は自分がイメージする動きをうまく伝えられないことに疑問を持った。
「まだ開業する前の時に野球を教えていたのですが、自分の感覚で教えても全然動けないのでなぜかと思い、あるトレーナーさんのところに診てもらいに行ったんです。4スタンスに沿って確認したら違うタイプだったんです」
そこで気付いたのは、自分にとって動きやすい方法が必ずしも相手にも当てはまるわけではないということだった。自らの野球経験をもとに伝えていた感覚も、身体的な特徴が異なる選手にとっては再現しづらい可能性がある。
「自分の感覚で子どもに教えていたらダメなんだと。これからたくさんの子どもたちを教えないといけないのだから自分もしっかりと理論を勉強しないといけない。そう考えたのが最初のきっかけでした」
実際、4スタンス理論を取り入れていることから多く聞かれるのが、“例えばA1タイプの子にはどうやって教えているのですか?”という質問だという。
しかし、菅澤氏は小中学生に対して、タイプを前面に出した指導は行わない。
「僕は『君はA1タイプだから』というのは小中学生の生徒には言わないです。○タイプだからこういう特徴があるよと言ってしまうと、“そうしなきゃいけない”って思うんですよ。そうすると動きが逆に制御されてしまうので自然でいいんです。
その中で違う動きをしていた場合は、『力入れたかったらここに入れてごらん』と伝えて修正します。『A1だからこうやって立とう』と言わなくても、自然に立ったらそうなると僕は思っているので、余計な力が入らないように意識しています」
自身が築き上げた経験や哲学は、施設の雰囲気や指導法そして子どもたちの成長へと確かに息づいている。菅澤氏はGATE1FIELD BASEBALL LABOを通じて育む人材や未来像もすでに具体化かつ、着々と形にしていた。
(つづく)

