近年、全国の指導者や育成関係者、スカウトと話していて感じることがある。
野球界は今、「今うまい選手」よりも「将来伸びる選手」を評価する時代へ、少しずつ変わり始めているのではないかということだ。
もちろん、“今うまい”ことは重要である。
試合で結果を出せる・ミスが少ない・技術的にまとまっている・状況判断ができる。そうした能力は、野球において間違いなく価値がある。
特に日本野球は長年、再現性や組織力を育み、規律・基本の徹底を重視してきた文化でもある。その価値観は日本野球の強さを支えてきた大切な土台だと思う。
一方で、育成年代、とくに小中学生世代においては、「今どれだけ完成されているか」が、そのまま将来性につながるとは限らなくなってきた。
むしろ最近は、「今どれだけうまいか」よりも、「この選手は、将来どこまで伸びる可能性があるのか」を見る視点が、以前より強くなってきているように感じる。
背景には、野球そのものの変化がある。
近年の野球は、明らかに“高速化”している。球速・打球速度・スイング速度・走力・守備範囲など、競技全体がより高い身体能力や出力を求める方向へ進んでいる。
かつては技術や器用さである程度カバーできた部分が、今では「そもそもの出力」がないと厳しくなってきている。
その結果、育成年代でも強いスイングができる・圧倒的な脚力がある・肩が強いといった、“未完成だが武器を持っている選手”の価値が高まってきている。
逆に今はまとまっていても、「この先、どこまで伸びるか」が見えづらい選手は、以前ほど高く評価されなくなってきている印象もある。
さらに、その流れを後押ししているのがデータや映像の普及であろう。
近年野球界においてプロ野球やMLBはもちろん、高校・大学野球でもラプソードやトラックマンといった計測機器を導入するなどデータ活用が急速に進んでいる。
動作解析や映像分析・トラッキングデータ、さらにはAIを用いることなどは、もはや特別なものではなくなりつつある。
一方で育成年代、特に小中学生に対しては「そこまで必要なのか」「数字に縛られすぎるのではないか」という声もある。もちろん、その意見も理解できる。
実際、小中学生に必要なのはプロレベルの精密分析ではない。しかし、“育成年代なりのデータ活用”には大きな意味があると私は思っている。
ここで重要なのは「プロ仕様の分析をすること」ではない。本質は「自分を客観視すること」にある。
例えば自分のフォームを見る・今のスイング速度や打球速度を知る・以前の自分と比較することで思っていた動きとの違いを知る。こういったことを経験するだけでも、選手にとっては大きな“気づき”になる。
育成年代では「なんとなく」で練習してしまう選手も少なくない。しかし、映像やデータが入ることでなぜ打てたのか・なぜ打てなかったのか、何が良くてどこを改善すべきなのかを、自分で考える習慣が生まれる。
つまりデータとは“答え”ではない。「考えるきっかけ」なのである。
そしてここが非常に重要なのだが、同じ映像を見たときにどう感じるか。伸びる選手は、「自分で考える→仮説を立てる→試してみる→修正する→継続する」というサイクルを回し始める。すなわち“学習”が始まる。
自分で考えて自分で修正し、自分自身をアップデートしていくのである。
逆に、正解を教えてほしい・指摘待ち・数字を見るだけといった受け身の状態では、なかなか成長につながっていかない。
「伸びる選手」とは単に身体能力が高い選手でも今うまい選手でもなく、“学び続けられる選手”なのではないだろうか。
今の時代、トレーニングもデータも環境も数年単位で変わっていく。だからこそ必要なのは「教わる力」ではなく、「自ら学び、自ら修正していく力」なのだと思う。
その中で今後さらに重要になっていくのが、“自己を客観視する力”である。
昔の野球は指導者が見て判断し、修正する世界だった。しかし今は、映像やデータによって選手自身が「自分を見る」ことができる時代になった。
例えば自分では速く振っているつもりでも、データや映像を見るとそうでもない。逆に自分ではダメだと思っていたプレーが、実は良い動きだったということもあるだろう。その“ズレ”に気づくことが成長へとつながる。
つまり現代野球では「自分をどう理解できるか」が重要であり、その力が競技力に直結するのだと思う。
さらに興味深い視点として、今の小中学生はいわゆる“ゲームネイティブ世代”と言ってもいいだろう。
ゲームでは経験値が蓄積しレベルが上がることで能力値が可視化されるので、成長が見えることが当たり前になっている。つまり現代の子どもたちは、「成長の可視化」に非常に慣れている世代でもある。
だからこそ、打球速度やスイング速度が伸びた・フォームが改善された、以前より速く走れるようになったといった“成長の見える化”は、彼らにとって非常に大きな意味を持つ。
もちろん野球はゲームではない。しかし「努力によって自分が変わる」という実感は、育成年代において極めて重要ではないか。
そしてその実感が、主体性や学習意欲・継続力へとつながっていく。
重要なのはデータを「管理」や「評価」のためだけに使うのではなく、自分を知る・成長を実感する・学ぶ楽しさを知るといった、自ら改善したくなるために活用する視点が大切だと感じている。
つまり、データを“主体性を生む装置”として使う、という発想である。
本当に重要なのは、最新機器を導入することではない。選手が自分を知ることで自ら考え、それを修正しながら学び続けられるか。
これからの育成で求められるのは、「教え込むこと」ではなく、「学び続けられる選手を育てること」なのかもしれない。
そしてその先にいるのが「今うまい選手」ではなく、「うまくなり続けられる選手」。つまり、“伸びる選手”なのではないだろうか。
Homebase編集長 荒木 重雄

