中学球児の“続けたい”を地域で支える 岡田幸文さんと足利市が推進する中学野球の環境づくり

全国的にスタートしつつある中学部活動の地域展開推進事業。

「全足利クラブ」に代表され、野球が盛んな栃木県足利市も積極的に本事業を推進している。そんな中で前面に立って浸透を図っているのが、元千葉ロッテマリーンズの名外野手・岡田幸文さんである。

2025年4月に栃木県足利市の教育委員会から「部活動地域移行コーディネーター」を任命され、現在も足利市教育委員会事務局 学校教育課に籍を置いている。

今回は岡田さんに、現場で目にした変化や野球を続けるための新たな受け皿、そして活動を持続させるための課題などについて話を伺った。

(取材 / 文:白石怜平、写真は足利市役所提供)

活動を通じて感じた現状と想い

栃木県出身の岡田さんは、全足利クラブから2008年の育成ドラフトでプロ入りし、ロッテで10年間プレー。2021年から4年間は楽天でコーチを務めた。

足利市から最初にオファーがあったのは楽天でのコーチを終えた2024年の年末で、当初は中学校の部活動で野球を指導する話だったという。

全足利クラブから羽ばたき、プロで残した功績などから岡田さんへの期待は自然と高まっていた。

年度末に伝えられたのはさらに広い、スポーツも文化芸術もすべてを含めた中学校部活動の地域展開の全体を見渡すコーディネーターという役割だった。

野球を教える仕事を想像していたが、コーディネーターは未知の役割。その中で就任した岡田さんは、学校を訪ねて校長先生や教員など現場の声を聞き、関係する部署や団体との間で話を進めていく。

プロ入り前まで過ごした足利市に戻り活動することとなったが、現場を知るにつれて、ある現実に衝撃を受けた。

「僕自身が中学で野球をしていた時と今の現状には大きな差があることを、この1年間を通じて肌で感じました。少子化の影響もあって、部活動を廃部にせざるを得ないのが現実なんだと。

野球や他でもいろいろなスポーツに挑戦したい気持ちがあるのにやれる環境がない。

それで本当にいいのかなと感じましたし、まずは伸び伸びと好きなことに打ち込める環境をつくってあげたいと思いました。それが最初の想いです」

安心して打ち込める環境づくりのため、岡田さんは立ち上がった(提供:足利市役所)

教員をはじめ、教育現場の現状をヒアリング

岡田さんはコーディネーターとして、中学校の校長先生や教員など現場に足を運び意見交換することを仕事の一つとして行っている。

学校側から多く寄せられるのは教員の負担についての声だという。

競技経験のないまま顧問を務める教員もいれば、部活動の指導に強い意欲を持ち、それが教員になった理由に挙げる方もいるなど立場や考え方はさまざま。

岡田さんは異なる立場の人たちが話を進められるよう、関係団体等の間に入って進める役割を担っている。

「現場の声を大事にしたいので、皆さんがどう思っているかをまずしっかりと聞く。その中で行政としては地域展開を進めていきたいという意向を伝えます。

部活動を続けたいという気持ちもすごく分かります。ただ、今の現場では難しくなっていることもあります。そのため、現状を知ってもらいながら、話が進むようにコミュニケーションを取っています」

指導に熱心な先生たちの想いも尊重するべく、足利市ではその意欲を後述する「地域クラブ活動」でも活かす道を考えた。部活動顧問と兼業で地域クラブ活動での指導者も務めてもらうことで、現状を体感で理解してもらう工夫を凝らしている。

「部活動の指導に熱心な先生もいますので、その情熱を無くしてほしくはありません。

これまでは土日祝日も活動することが慣習でもありました。地域クラブの運営を継続することで、徐々に先生方にもご理解いただけるようになっていると感じてます」

野球では2025年に2つの地域クラブが結成

足利市では昨年、地域クラブとしてサッカーが3チーム・野球では「足利East BC」「足利West BC」の2チームが立ち上がった。

両クラブの立ち上げは岡田さんが着任する前から、学校や教育委員会の関係者らが準備を進めていた。通う学校に野球部がなくても地域クラブ活動に参加できることから、野球を続けたい中学生にとって新たな受け皿ができた。

そして岡田さんはコーディネーター着任後、地域や学校への情報発信や保護者への説明会に参加するなど、地域クラブ活動の認知度向上に向けた活動を行っている。

「保護者さんに説明する際に実際に顔を合わせますが、子どもたちが一生懸命打ち込みたいことでもあるので、皆さんすごく協力してくれます」

現在、足利市の公立中学校では、休日の「部活動」は月2回としている。さらに「地域クラブ活動」に参加している生徒は、残りの休日にガイドラインに沿って活動できるため、異なる中学校の生徒が一つのチームでプレーしている。

East BC、West BCともそれぞれ30人ほどの生徒が参加しており、チーム内で紅白戦を行うといった練習の幅が広がったという声も指導者から届いているほか、学校の枠を越えた交流が生まれるなど、地域クラブの活動による変化も表れている。

岡田さんが現場を訪ねた時も「他の中学校のメンバーと一緒にプレーできて楽しいです」という生徒たちの声を直接聞くことができたと語る。

「レベルや学校関係なく、一緒に汗を流すことはすごく大事だと思います。そういう話を聞くと嬉しいですよね」


野球では2つの地域クラブチームが活動している(提供:足利市役所)

地域クラブ活動においては上述の顧問の教員に加え、各学校で活動する部活動指導員も指導を担当している。ただ、今のリソースだけでは指導者の数は足りないのが現状。

ここで岡田さんはクラブでの指導を希望する人との面談にも関わっている。

「指導者不足という課題はどうしても付いてきます。しかし、『指導したい』という方のお話をいただいたときに、どのような方なのかはしっかりと見なければならないと考えています」

野球の指導技術だけではなく、生徒たちへの接し方や安心して活動できる環境をつくれるかを重視しており、指導者への研修も必要と考えている。

今後達成したい構想案とは?

地域クラブの発足は子どもたちの新たな活動場所をつくるなど、部活動の地域展開に向けて確かな一歩を踏み出している。しかしその一方で、実際に動き始めたからこそ、課題も具体的に見えてきた。

岡田さんが最も大きいと感じているのは、資金面の問題である。

学校の部活動から活動の場を地域に広げると、従来とは異なる形で運営費等を確保しなければならない。現在は、一部公的な補助を受けているものの、指導者への謝礼や大会への参加費に加え、家庭でも野球に必要な用具の購入費がかかる。

足利市の中学野球そしてスポーツが未来へと続くため、今後実現させたい構想があることを明かしてくれた。

「市全体の地域クラブを運営する“母体”のような組織を立ち上げて、そこと連携しながら進めていく。この受け皿になってくれる母体の方たちがスポンサーを集めて、そのお金を各クラブに分配する形がいいと考えています」


アイデアそして想いを持って日々向き合っている(提供:足利市役所)

各担当者は地域展開以外の仕事も担っている。さらに、野球以外の競技でも地域クラブをつくろうとする動きが出ており、活動全体を支える業務は増えていく。

それを目の当たりにしており、動き出した部活動地域展開の灯を消さないために考えた構想だった。

「1つの担当部署だけで進めるのは難しいと感じています。たくさんの人や部署を巻き込まないと、いずれ活動そのものが回らなくなってしまうという危機感があります。

仮に母体を築いても全てを任せきりにするということではありません。関係各課とも密に関わりながら、専門で動いてくれる母体が中心になる形が理想だと思っています」

貴重な中学生活を“好きなことに打ち込める”3年間に

岡田さんは学校や地域の方たちに加えて、年2回行われる栃木県内の自治体担当者らとの意見交換にも参加している。地域ごとにできることは異なるが、抱える悩みには共通する部分も多いという。

「正解がないので、毎日勉強です」と語る岡田さんは、目指すところを明確に言語化している。

「中学生の3年間は、人生において本当に貴重な時間です。みんなが精一杯好きなことに打ち込める環境を、大人がつくってあげなければならないと思います。その点ではプレッシャーを感じながらやっています」

特に野球において、学校に野球部がなくなったから軟式野球を諦めるという選択を絶対にさせたくないと、強い想いを抱いている。

「部活動がないから硬式野球しかなくて野球を断念するのではなく、軟式野球があるよ・軟式野球も楽しいことを感じてもらいたいんです。地域クラブという新たな場所で仲間と出会い、同じ目標に向かって野球の楽しさを共有してほしいです」

中学生たちの成長のためにも、野球をする環境も守っていく(提供:足利市役所)

部活動地域移行コーディネーターとして2年目の岡田さん。日々多くの関係者と関わり、地域展開の浸透に向けて奮闘している。その活動の根底には、自身がずっと大事にしている矜持があった。

「行く先々で僕のこと知っていてくれているので、それはすごくありがたいことです。僕は上手なことを言うのは決して得意ではないので、とにかく想い。

自分の性格上、『まずやってみようぜ!』と行動するタイプなので、“気持ち”を伝え続けています」

地域クラブがつくられ、子どもたちがプレーする受け皿が足利市にはある。この活動を未来に受け継いでいくため、岡田さんは足利の中学生が野球そしてスポーツを続けられる道を自らの足で切り拓いている。

(了)

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