「野球だけをやっていればいい学校ではない」四谷学院に見る“通信制×予備校×野球アカデミー”という新しい高校野球

日本では今や、高校生の10人に1人が通信制で学ぶ時代になった。文部科学省の学校基本調査によると、2026年の速報値では31万1792人の高校生が通信制課程の所属だ。

その波は、全国の野球部にも及んでいる。

2012年春のセンバツでは、長野県の地球環境高校が通信制として初の甲子園出場を果たした。

2025年夏、未来富山高校は創部8年目で初の全国大会へ勝ち上がった。

日本ウェルネス高校を運営する学校法人タイケン学園グループは、東京、茨城、長野、沖縄に野球部の拠点を持ち、各地区で公式戦に出場している。

通信制高校の運営母体は、予備校系、スポーツ事業会社系、スポーツ専門教育系、総合教育グループ系、地域の学校法人系などに類型される。

それぞれに異なる理念を掲げており、一言で「通信制高校」と言っても、内実は多岐にわたる。普通科に比べ、学び方の自由度も高いのが特徴だ。

「勉強せずに野球ばかりしている」という目を向けられることもあるが、実態はどうなのか。Homebase編集部は、新たな学びの形を実現する高校を取材した。

通信制だからできることがたくさんある

蒸気機関車が走るローカル線として知られる真岡鐵道真岡線のひぐち駅で下車し、徒歩10分強。2023年3月に閉校となった筑西市立下館北中学校の跡地に、四谷学院高校はある。

校舎や練習場は約10億円をかけて整備され、野球部は2026年4月に1期生の15人とともに本格始動した。全寮制の野球部は今後も毎年15人の部員を迎える予定で、校舎内の居住スペースには45人分の個室がある。その室内は、新しいビジネスホテルのような清潔感だ。

「通信制だからできることがたくさんあります。これは新しい取り組みができるなと感じ、引き受けさせてもらいました」

そう話すのは、同校の体育教師で野球部を率いる本村幸雄監督だ。神奈川県の光明学園相模原高校で野球部監督を17年間務めた後、北海道日本ハムファイターズで選手教育ディレクターを15年間担当し、今年、四谷学院にやって来た。

四谷学院の特徴を簡潔に表せば、「通信制高校×予備校×野球アカデミー」となる。予備校の運営で培ったノウハウと、プロアマに通じる本村監督のメソッドが存分に注入されているのだ。

大学受験&甲子園を同時に目指す

大学受験予備校を手掛ける四谷学院は、広域通信制高校「四谷学院高等学校」のキャンパスを全国に31カ所展開している。同校最初の運動部として発足した野球部も、もちろん同じ理念の下にある。本村監督が説明する。

「うちは野球だけをやっていればいい、という学校ではありません。文武両道が一番の押しです。普通科のように部員たちは一つの教室で授業を受けますが、タブレットで個々に学びます。なので、自分の今の実力と合った勉強ができる。大学進学に関しても予備校がベースなので、そのノウハウが使えます」

1日のスケジュールに目をやると、四谷学院の独自性が垣間見える。

<平日:火曜~金曜> ※月曜は自主練習日、土日は遠征
7:00~7:30 朝活動
7:30~8:15 朝食
8:15~9:00 授業準備
9:00~12:00 55段階個別指導(途中に休憩をはさむ)
12:00~12:45 昼休み(昼食)
12:45~14:05 体験プログラム
14:20~18:00 部活動

18:00~19:00 夕食

19:00~23:00 ウエイトトレーニング、自主練習、自習時間、フリータイム 

イメージは、アメリカやプエルトリコの高校でいう「スチューデントアスリート」用のカリキュラムに近いだろう。まずは勉強ありきで、時間を有効に使ってスポーツも両立できるように日々のプログラムが組まれている。

日中の勉強は3時間(休み時間を含める)。普通科のように1日5、6コマの授業を受けるわけではないが、「中身は濃いです」と本村監督は胸を張る。

「高校の単位を取得する勉強と、55段階の受験勉強を並行してできます。野球部に限らず、四谷学院高校の子はみんなそうです。甲子園を目指す子が、1年生から学校と予備校の勉強を両方できるのはなかなかないと思います」

高校卒業に必要な国語、英語、数学などの単位は、「勉強→レポート→テスト」という流れで取得する。通信制ならではの形だ。

同時に、四谷学院(予備校)で実施される55段階個別指導で受験勉強も行う。本村監督が説明する。

「高校と予備校の勉強の割合は、完全に個人次第です。慶應大を目指している子は、予備校の勉強に特化しています。一方、授業には先生がつくので、学校の授業を個別で教わることもできる。そうした選択を自分でしていきます」

夜にも学習の時間が設けられている。個人で自習するのはもちろん、タブレットで講座を受けることもできる。

「やる気のある子は、学習がどんどん進みます。一方、野球ばかりにならないように、ちゃんと勉強もするように指導しています。通信制高校なので、レポートの指導は必ずしなければいけない。その辺が一般的な高校との違いです。うちでは、夜も必ず勉強します」

それぞれの「5点」を伸ばす

四谷学院には慶應大学を目指す生徒から、「野球を中心に頑張り、高校の卒業単位を取って評定を上げるという子もいる」と本村監督は言う。学力のばらつきがあるなか、共存できるのは個別学習によるところが大きい。

大学経由でプロ野球を目指す部員と、進学第一に考える部員が同じ野球部に所属できるのは、四谷学院ならではの特徴と言える。本村監督が説明する。

「うちの高校には、『僕は野球だけをしていればいい』という子はまず来ません。正直、勉強が苦手な子はいますよ。でも、いい大学を目指す子が勉強を頑張っている姿を見て、『俺も、もう少し頑張らなきゃ』となります。よくありがちな『ま、勉強はいいか……』という集団が少ない。逆に『しっかりやろうぜ』という子が多いので、いいほうに吸収されます」

普通科のような一斉授業の場合、学力にばらつきがあると成立しにくい。対して、通信制の四谷学院では自分に合ったレベルで勉強に取り組め、かつ相乗効果も生まれやすい。本村監督が続ける。

「普通の高校なら、できない子はできないままになりがちです。でも、うちでは自分に合ったレベルで頑張ればいい。たとえ勉強が苦手でも、10点から15点にすればいい。得意な子は、50点を55点にする。15点と55点は違うけど、『5点を上げるために頑張るのは、一緒だよね』という教育をしています。『やる気がないです。僕は勉強が苦手なのでやりません』というのはダメだよ、と。だから、落ちこぼれが生まれません。それがうちのいいところだと思います」

創部4カ月で強豪撃破

2026年7月、創部4カ月の四谷学院野球部がニュースになった。全員1年生のチームが、茨城県夏季大会で強豪つくば秀英に7対0でコールド勝利を飾ったからだ。

新設された通信制高校の野球部では部員集めに苦労するケースもあるが、四谷学院は”定員”を集めている。硬式では世田谷西リトルシニアや八千代ボーイズ、湘南ボーイズ、軟式では上一色中学、相陽クラブなど”強豪”出身も多い。

本村監督の人脈が活かされている。

「基本的には後輩や知り合いの指導者に、うちの学校のシステムに合う子を紹介してもらいました。強豪チームにいたといっても、みんながレギュラーではありません。どちらかと言うと、勉強をちゃんとやりたいという子たちが来ています」

学校の方針として勉強ありきだが、野球に取り組む環境も恵まれている。グラウンドやトレーニング場を備え、寮は全員個室だ。日本ハムの勇翔寮を模してつくられた大浴場で、1日の疲れを癒すこともできる。

独自のカリキュラムで効率的に勉強して大学進学を目指しながら、野球で狙うのは「3年後の日本一」。壮大な目標だが、本村監督は「順調に進みすぎて怖いくらいです」と明かす。

一体、中学時代にレギュラーでなかった選手たちをどのように伸ばしているのか。

その土台にあるのが、ドミニカ共和国にあるMLB球団のアカデミーを想起させるようなアプローチであり、本村監督がプロ野球で実践した人材育成法だ。

(文・撮影/中島大輔)

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