「ベッドの上では寝るだけ」 専門家が教える野球選手の“睡眠力”を高める習慣

183cm、95kgの左腕投手・菊池雄星(エンゼルス)は毎日最低でも8時間以上、できれば9〜10時間、そして登板前日には13〜14時間の睡眠を取るという。

プロ野球選手のようにグラウンドで高いパフォーマンスを発揮することを最優先する場合、できるだけ長く寝たほうがいいのだろうか。

「寝る子は育つ」理由

「寝られる人は、寝たほうがいいというのが回答です」

株式会社ユーフォリアで睡眠を研究する安藤加里菜さんはそう答えた。

キーワードは「睡眠効率」。安藤さんは、「ベッドにいる時間のなかで、実際に寝ている時間の割合が85%以上だといいと言われています」と説明する。

「必要な睡眠時間は教科書的には8〜10時間とされますが、実際には人によって違います。長い睡眠時間を取らなくてもいい人が10時間寝ようとすると、睡眠効率がすごく下がってしまいます。結局ベッドのなかで起きて覚醒している時間が長いので、そういう人は長く寝る意味があまりありません。逆に寝られる人が睡眠時間を長く取って、睡眠効率の良い睡眠を取ることはすごくいいということになります」

必要な睡眠時間は人によって異なり、その日の体調や疲労度などでも変わる。

だから前編で紹介したように、自分がその日に必要な睡眠時間を知ることが大切になる。

ただし育成年代の選手に関しては、安藤さんは「寝られるだけ寝たほうがいい」と語る。

「成長ホルモンは睡眠の前半に出ます。ある程度まとまった時間を寝ると出るので、寝たほうがいいと思います」

アスリートも行う「就寝前ルーティン」

では、どうすれば良質な睡眠を取ることができるのか。

「睡眠は『リズムと量と質』が大切で、『リズム、量、質』の順番にアプローチするのがいいと言われています」

健康で生きるためには「規則正しい生活が重要」と言われるが、睡眠も同じだ。安藤さんが説明する。

「いつ寝て、いつ起きるのか。夜の何時に寝て朝の何時に起きるのかという『リズム』を1週間のなかで整えること、そしてある程度必要な『量』を自分で確保すること、最後に『質』です。睡眠環境やパジャマで寝るなどがありますが、特に小さい子は保護者の方と一緒に『リズムと量』を自分で調整することのほうが大事だと思います」

最も大事な「リズム」で起点になるのが、夜、何時になったら寝床につくのか。まず大切になるのが、就寝の習慣づけだ。

「脳は習慣づけが大事です。例えば22時に電気を消して寝ることがルーティンになると、いつでも眠れるようになります。就寝前ルーティンとして、アスリートや大人も行うことですが、何時になったら寝室の電気を消して、ベッドの上では寝ること以外しない。そこでスマホなどを見ると、『あ、ベッドの上は寝なくていい場所なんだ』と脳が癖付いてしまいます。

ベッドの上では寝るだけに集中すると、『あ、もう寝るんだな』と癖がつく。それが習慣になるので、例えば日中にイライラすることがあっても、いつもと同じ睡眠が取りやすい。いつもと同じ睡眠が取れるからよく眠れるし、感情も落ち着く。そうして全体的にパフォーマンスが上がるというのはあると思います」

帰宅して夜、スマホでゲームやSNSをする人もいるだろう。楽しむ時間も必要だが、特にゲームをしたりショート動画を見たりして興奮しすぎると、眠れなくなる場合もある。どうバランスをとればいいのか。安藤さんはこうアドバイスする。

「友だちとのコミュニケーションとしてゲームやSNSをしている場合、その時間をゼロにすると、逆にストレスになってしまいます。睡眠の質を上げるためには、ストレスはないほうがいい。友だちとの時間も大切にしながら、週に何回かは寝る30分くらい前から寝室の電気を消して、寝るのに徹する時間をつくることを意識してもらうといいと思います」

良質な睡眠が取れれば、朝起きたときに気持ちよく感じられ、夜の過ごし方も変わっていくかもしれない。大切なのは、何が重要かを自分で知ることだ。

帰り道に気をつけてほしいこと

部活や練習で疲れた後、家に帰るまでのすごし方も睡眠に影響する。特に遠方から電車で通う場合、「気をつけてほしい」と安藤さんが助言を送る。

「眠気の波は1日に1回しか来ません。練習の後に電車で寝てしまうと、眠気の波が来なくなって、夜に寝られないこともあります。夕方の練習の後、家に帰るまではできるだけ起きていて、眠気をためて夜に寝るのが理想です」

全体練習の後に自主練や勉強をして帰宅が遅くなった場合、ふとした寄り道が睡眠の妨げになることもあるという。

「夜の10時以降に明るいところに行くと、目が覚醒してしまいます。例えば『飲み物を買おう』とコンビニに入ると、メラトニンというホルモンの分泌が光で抑制されます。夜に出るはずのものが出なくて眠気が来ないこともあるので、夜は明るすぎる光を避けてすごしたほうがいいです」

準備万端で良質な睡眠へ

今年も暑い季節が始まりかけているが、今後、本格的な夏を迎える。寝苦しい夜が続くなか、どんな対策を取るのがいいだろうか。

「暑いと眠れないので、寝る1、2時間前からエアコンをつけてください。エアコンをつけるとすぐに涼しくなりますが、空気しか冷えていません。でも1、2時間前からエアコンをつけておくと、家具や壁もちゃんと冷えるので、エアコンを消しても部屋の温度はすぐに上がりません。ベッドも、かけ布団をはがして自分の肌が触れるところもしっかり冷えるようにしておくと、寝たときにひんやりして体温が下がります。そうすると眠気も起きるので、そのまま眠りやすくなります」

クーラーを付けっぱなしにするのか、タイマーをかけて切ったほうがいいのか。安藤さんによると、答えは「人による」。自分が眠りやすいほうにすればいい。サーキュレーターを使い、冷たい空気を循環させるのもいいだろう。

寝るときの服装は、「半袖より薄手の長袖のほうがいい」と安藤さんは言う。

「体温調節がしやすいからです。少し薄手の長袖でも、そで口がすぼまっていると体温が放熱できず、体温調節が難しい。袖口がすぼまっていないものを着てもらうのがオススメです」

薄手で長袖のパジャマを着ていれば、汗をかいたときに吸収してくれる。朝までより快適に眠れるようになるのだ。

安藤さんがここまで教えてくれた話を聞けば、良質な睡眠の重要性がよくわかっただろう。夜に十分眠ることは、野球選手が成長していく上でも極めて大事になるのだ。

(文:中島大輔)

【記事前編はこちら】

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