メジャーリーグで二刀流としてプレーする大谷翔平(ドジャース)は、1日10時間の睡眠を取ることで知られている。そうしたコンディショニングが投手&打者としてトップレベルのパフォーマンスを発揮するための土台にある。
神奈川の強豪・横浜高校は2024年夏から朝練を廃止したと報じられた。1日9時間半の睡眠を取り、コンディション管理を徹底するためだという。
ドミニカ共和国でMLB球団が16歳から20代前半の選手を育成するアカデミーでは、夜に十分な睡眠時間を取ることに加え、日中に昼寝を推奨している。休養をしっかり取り、身体的な成長を促すためだ。
ジュニア期の野球選手が少しでも身長を伸ばすためには「運動」と「栄養」に加え、「睡眠」が重要になる。そこで株式会社ユーフォリアで「睡眠」を研究する安藤加里菜さんに留意すべき点を聞いた。
十分な睡眠のメリット
厚生労働省の発表した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」によると、小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間を参考に1日の睡眠時間を確保することが推奨されている。
だが実際、それくらい眠れている人は多くないかもしれない。とりわけ部活動やスポーツを行っている選手は、その傾向が考えられる。
睡眠時間が十分でないと、どんなことが起こるのか。安藤さんが説明する。
「8時間睡眠している人と比べて、それより短い睡眠の場合、ケガの発生率が1.7倍高くなるというデータがあります。睡眠時間が少ないとケガをしやすくなり、ケガをしてしまうと身体の成長が阻害されてしまいます」
では逆に、睡眠を十分に取ると、どんなメリットがあるのか。
「睡眠時間がある程度長くなると、記憶や感情の整理ができ、成長ホルモンが出て、ストレス耐性も高まります。学業成績との相関関係も見られるので、寝て損はないというか、いいことがたくさんあると思います」
「24時間デザイン」で睡眠を確保
Homebaseでは以前、西武の広池浩司球団本部長が息子の浩成に対し、中学受験を認める際に条件を一つ出したという話を紹介した。「睡眠は絶対に削るな」というものだ。浩成は「夜10時に就寝する」という条件を守って慶應中学に合格。現在は慶應大学野球部に所属し、今秋のドラフト候補に挙げられている。
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広池家では「夜10時就寝」というルールを設けたように、十分な睡眠時間を確保するためには「24時間をデザインする」ことが大切になる。安藤さんによると、国際競技力向上を目的とする国立スポーツ科学センターではよくそう言われているという。
「円グラフに24時間の時計を書いて、『学校』『練習』など、やらなければいけないことを書き込みます。余った時間でほかのことを行いますが、『睡眠』はいつからいつまで取りたいのか。自分のなかで優先することと、優先しないことを決めて、『睡眠時間』の確保を優先してもらいます」
成長期にある小中学生にとって、慢性的な睡眠不足は身体的な成長を妨げる懸念がある。だからこそ、1日の「睡眠」時間をあらかじめ確保するのだ(※円グラフをイメージしたい人は「TORCH」の記事を参照)。

24時間をデザインしてみたが、実際にやってみると、理想の睡眠時間を確保できなかったという人もいるかもしれない。その場合、もう少し長いスパンで考えるのがいいと安藤さんは勧める。
「毎日は難しくても、例えば『週に2、3日は練習より睡眠を優先する』ことをルーティンとして決めて、1カ月単位で十分な時間を寝られるようにする。『1日8時間』だったら『30日で240時間』ですが、今足りていない分を、その時間(『30日で240時間』)に少しずつ近づけられるように取り組むのが大切だと思います」
質の良い睡眠の“価値”
安藤さんは、「質の良い睡眠は成長と将来への投資」だと表現する。
「子どもの頃からしっかり寝て、自分で体力回復をできる人は、大人になっても踏ん張らないといけないところで踏ん張れるかもしれません。子どもの頃から睡眠を十分に取り、回復してきたという“土台”があるので。子どもの頃ほど、たくさん寝られるときはありません。
でも、特に都会で生活しているといろいろ予定があって忙しいので、そこに引っ張られて子どものときに十分に寝られないと、大人になってから十分に寝るのはかなり難しい。寝られるときに寝ておくというのは、すごくアナログのことではあるけれども、とても大事なことです」
成長期に十分な睡眠をとれば、身長の成長にもつながり、前述したように感情や記憶の整理に結びつき、学力的な向上とも相関関係があり、メンタルヘルスの改善にもつながる。子どもの頃から十分に寝ることは、将来にとっても大切になるのだ。
だからこそ、「質の良い睡眠は成長と将来への投資」だと安藤さんは説く。
「本当に短い子は1日6時間も寝てないかもしれませんが、6時間半〜7時間は寝てもらい、1週間で49時間は寝てもらうように調整する。それができるようになれば、大学生や社会人になってからも自分で使えるスキルになると思います。『自分は何時間の睡眠時間を切ったら体調が悪くなる』と感じられるようになってほしいですね。
必要な睡眠時間は疲労の具合や練習強度によっても変わるので、『これくらいの疲れや負荷だったら、自分はこれくらい寝ればいいけど、これくらいの疲れのときはこれくらい寝なければいけない。回復にはこれくらいの日数がかかる』と、日中の眠気やイライラなどを参考に気づき、自分で調整してもらう力を身につけるのが大切です」
成長期に十分な睡眠の習慣を身につけることは、年齢を重ねて選手として飛躍を目指す頃、より高いパフォーマンスを発揮するための下地になっていくのだ。
※後編に続く
(文:中島大輔)

