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北海道日本ハムファイターズは千葉県鎌ケ谷市に置くファームの拠点から、数多くの主力選手を羽ばたかせてきた。現役選手では大谷翔平(現ドジャース)をはじめ、伊藤大海、清宮幸太郎、北山亘基などだ。
彼らはなぜ、球界を代表するスターに成長することができたのか。その秘訣を最も間近で見てきた一人が、日本ハムの選手教育ディレクターを15年間務め、今年から四谷学院高校野球部を率いる本村幸雄監督だ。
「プロ野球で長く活躍する人は、学ぶ力があります。逆に思考力がない人は、一発屋で終わってしまう世界だとわかりました」
「心技体+生活」で育てる
もともと光明学園相模原高校で野球部を指導していた本村監督は、その手腕を買われて日本ハムに迎え入れられた。そして今年、新天地の四谷学院に移った。
「プロ野球で大事なことは、高校野球でも絶対に大事だと思います。今は周囲と実力差があっても、自分の役割をわかっていて、自分がやらなければいけないことをちゃんとするヤツが差を縮めていく。高校生にもそういうことを伝えたいと思いました」
四谷学院高校の野球部では、火曜から金曜の12:45~14:05に「体験プログラム」が組まれている。毎週金曜、1コマの講義を受け持つのが本村監督だ。メンタルトレーニングや、プロ野球の世界で「これは絶対大事」と感じたことを伝えている。
例えば、成否を分ける差だ。
「高校野球でいくら活躍して優勝しても、プロに入ったら、それはただの“貯金”です。貯金をどんどん使っていけば、ゼロになる。 だから貯金をどんどん貯めないといけない。プロ野球はそういう世界だと見てきました。貯金をためていけば、3しかなかったのが10になる。だから入った時点では、野球の技術に差があってもいい。それは高校野球も同じです。中学で補欠だったとしても、別にいいと思っています」
四谷学院野球部に1期生として入部した選手たちは、中学時代にレギュラーではなかった選手も少なくない。新たに立ち上がった野球部が、彼らとともに目指すのは「3年後の日本一」だ。
壮大な目標をかなえるために、本村監督は「心技体+生活」という考え方を重視している。
「僕がすごく重んじるのは生活です。生活面の規律ができていれば、野球も勉強もできるようになります。心技体+生活の『生活』が一番大事。 二番目は心。技術と体は普通にやっていれば、ついていきます。 ただし体が大きくならないと、技は上がらない。心を育てて、生活をちゃんとさせて、肉付けさせて、技術が最後についてくるという講義をめちゃめちゃやっています」
寮生活も「人間教育」
寮生活の是非は、昨今の高校野球で議論の的になっている。寮がブラックボックス化し、いじめや不祥事の温床になっているからだ。
一方、本村監督は「寮生活がすごく大事」と主張する。人間教育が行われる場であるからだ。
「基本的には三原則を設けています。時間を守ること。あとは場をきれいにすること。清掃活動ですね。自分の部屋をきれいにし、人のものまで掃除をしてあげて、場をきれいにする。最後は礼節で、挨拶や返事、礼儀です。生活三原則は絶対に守ろうねというのが、うちの野球部の基本です。これができれば絶対に社会で通用するよね、ということです。 そこにワンランク上げて、義理人情を付け加えて人間教育をしています」
例えば食堂に入ってくるときは、周囲の職員に大きな声で挨拶する。食べ終わったら、ごちそうさまと感謝する。四谷学院の1期生には先輩がおらず、55歳の本村監督が代わりに模範を示している。
こうしたアプローチは、本村監督がもともと光明学園相模原高校野球部で実践していたことだ。日本ハムはその方法に目をつけ、球団の若手に伝授してほしいと招聘した。
「僕は“技術屋”ではありません。ファイターズでは生活をする寮に入り、成功術というか、原田メソッドを使いながら『生活面をしっかり見てください』と任されました。生徒指導と同じようなことです」
「学ぶ力」が差を生む
プロ野球選手の約4割は高卒だ。高校野球では自主性を養おうとする指導者もいれば、上意下達もある。入団後、人として成熟させていくことも求められる。
近年のプロ野球では「考える力」が重視され、例えば埼玉西武ライオンズでは「獅考トレーニング(※思考トレーニングの造語)」が行われている。
思考力の重要性という点では、大谷翔平が好例だろう。先に本村監督が挙げた「原田メソッド」は、大谷が花巻東高校で実践して有名になったものだ。元中学教師の原田隆史氏が考案し、「マンダラチャート」や「目標達成シート」として知られている。
原田氏は本村監督の師匠で、四谷学院高校の理事を務めている。その縁で理事長を紹介され、「この先生の下で働いたら絶対勉強になるな」と野球部監督を引き受けることにした。
「どんなに優れた選手でも、持って生まれた能力だけでやろうとすると、追い抜かれます。プロ野球もそういう世界だとわかりました。なおかつそういうことが高校野球でも絶対大事と思ったので、それもファイターズを辞めた理由の一つです。
学業の勉強ではないですが、プロ野球選手も技術を学びます。学ぶことに意欲が持てるような環境は、絶対につくったほうがいい。だから、高校生にはちゃんと勉強させたいです」
本村監督は高校野球からプロ野球に仕事場を移し、成功するために大切なことをさまざまな角度から見てきた。今度は、それを高校生たちに伝えたいと考えている。
「四谷学院にもプロに行きたい部員がいるけど、高校からプロに入るのはなかなか難しい。まずは大学に行って学び、最終的にプロ野球を目指せばいい。最後まであきらめなかったヤツは、結構プロ野球に行けるんです。
でも、だいたいみんな、途中で『俺にはプロは無理』と自分でバツを出すから、それはするなと。大学までやってダメなら、もう1回社会人や独立リーグでチャレンジする。『最後の最後までやってダメなら、それはそれでいいじゃない?』と。あきらめたヤツは終わりなので、『あきらめないでね』と伝えています。高校のときに補欠でも、プロで活躍している子が結構いますよね。そうなるためにも、体がめちゃめちゃ大事です」
補欠の立場から逆転してプロ野球選手を目指す上で、重要になるのが体だ。その体をいかに、成長期の高校時代につくり上げるか。
そのために、本村監督は全幅の信頼を寄せる「スーパートレーナー」を四谷学院に招いた。
(文・撮影/中島大輔)

